15# 神様に祈るな!
粗いので後ほど手直しするかもしれません。(o_ _)o
朝だ。俺は冷涼な大通りに立っている。通りには人影は無く薄い靄がかかって静寂と相まって俺にはゴーストタウンを連想させた。
ギルドへの階段が見えるがなんて言って戻ろうか?ノコノコ戻って行くにも理由が必要だ。だってカッコ悪いじゃないか。
俺は妄想する。
そーうっとドアを開けて、ガストだけがいたら『すまん。やっぱ便利屋になるわ』と謝るちょっとセコい作戦。
逆にバン!とドアを蹴破る勢いで乱暴に登場して『ギルドは俺のモンだ!』つって片っ端から族みたいにボコボコにしちゃった上で、ガストが泣きついて来た所で妥協案を出すか。いや誰だよコレ。少なくとも俺は主役だよ?そんな魔王みたいな事したくない。
むう。つうか何格好付けてんだよ俺。正直、他に話しを進める方法が無いんだから、まんま言うしかないじゃないか。
などと階段の前の通りを何往復もする。
よく考えれば借金っつってもガストも便利屋として働けなくなる程困窮させるわけにはいかないだろうし。第一この世界で何に金を使うってんだ。
普通にしてよう、巻き込まれるなら巻き込まれよう。俺の作戦は”日和見“と決定した。
階段を降り、ギルドの建て付けの悪いドアを開けると。マスターだけがカウンターの手前でタバコを吹かしながら新聞を読んでいる。
「おや、早いお帰りだな」
とマスターは新聞をたたみカウンターへ置くと、気怠そうにタオル頭を掻いてのキッチン側に向かった。
よく考えれば、一晩中ガストがギルドに居るとは限らないのだ。朝と言っても普通はまだ寝てる時間だ。俺は馬鹿だな。
「立ってないで座りなよ。何か食うか?」
俺はマスターの言葉に肯くと、カウンターの右端の壁際席に座った。
「マスター」
「ん?」
マスターは何か缶詰めから挽き肉っぽいものを掻きだしている。
「金は返せないみたいだ」
ジュアアとフライパンから音がなる。
「心配ないよカイゾウ。金の事は無視して良いと思うぜ」
マスターはフライパンに目を落としてテキパキと手を動かして器用に答えた。
「ありゃあ、ガストがお前さんを縛り付けるためにした事だ。俺は便利屋の事はよくわからんが、アイツはお前さんをエラく気に入ってる」
「……」
「力を貸して欲しいだけなのさ」
「だったらそう言えよ」
「ははは。断られても良い相手ならガストもこんな策を講じなかっただろうよ……ほい出来た」
とマスターはコッペパンに挽き肉をはさんだモノを俺の前に置いた。俺はソレにかぶりつく。
マチゾーにも食べさせるとうまそうに咀嚼した後、ペロンと口の回りを舌で舐めた。
熱々のスパイシーな挽き肉と下地のクリーミーなソースと相まって朝からちょっとヘビィだが、うまかった。
「そ、それ。デッドラビットか?」
「だね。マチゾーっつうんだ」
「にゃぁ」
「よく懐いたな……まあいいんだが」
マスターは何故か距離をとった。
「で、ガストは?」
俺はパク付きながら言う。
「ああ仕事だ。なんでも狂犬がもう直ぐギルドへ奇襲をかけるとか何とかで、出て行ったぜ?」
「狂犬が?」
「そもそも狂犬は『猟犬』っつうギャングの頭だからな」
「勝てんのか?」
「五割だって言ってた。アイツも必死さ。俺もだが、帰れる所はここしか無い。まあ俺の場合は騒いだところで何も出来んからな」
マスターは無力な自分を責める様に目を下げた。と思ったら目を上げて俺を見る。
「だけどな、アイツに聞いてみたんだ。『もしカイゾウがいたら勝率はどうなる?』てよ」
「……」
俺はホットドッグみたいのを食い終わると、側にあるナプキンで口を拭う。
「アイツは言ったさ。『勝率とか関係ねぇ完全勝利だ』ってよ!」
マスターは嬉しそうに皿を引き下げる。
「……男に褒められてもな」
俺はこっぱずかしいくなり、小さくなる。
「馬鹿、ホントの良い男は男に惚れられるもんだぜ?」
マスターがニヤリと笑う。
俺、明日には掘られてんじゃねぇか?と思うと身震いがした。
「カイゾウ様!」
力が抜けていると上から声。見上げるとニコだった。テテテと、中二階から降りてくる。
「どうしたニコ?」
ニコは眉を潜ませて緑色の瞳をこちらへ向け、床に膝を付いて両手を組んでお辞儀する。いわゆるお祈りポーズだ。
「兄ちゃんは悪い人です!天罰を受けてもしかたないです!でも!でも!殺さないで下さい!ニコが!ごほうししますから!」
????え?ナニコレ?何で俺に祈ってんの?神様じゃないよ?俺。マスターを見ると両手の平を上に向けて顔を傾げている。
「ニコ……俺は神様じゃないよ?天罰なんて与えれないし」
理解出来ないままとりあえず否定する。
ニコは組んだ拳をギュッと胸に押し付けて、真っ直ぐな丸い目を俺に向けた。
「神様です!ニコを助けてくれたもん!兄ちゃんの罰は私が受けます!だから殺さないで!兄ちゃんを助けて!」
どんな罰?……違っ。完全に俺の事神様だって思ってるよ。困ったなどうも、ショック療法だな。
「ニコ!そもそも神様はいない!」
俺がニコの肩をつかみ一喝した。ニコは驚いた後。鼻をすする。
「でも!でも!神様……」
ニコの目は潤み、いつの間にか頬に一筋の涙が零れていた。
「神様はいないが……便利屋はここにいる」
マスターが薄ら笑い顔を背ける。わかってんよちょっとクサいセリフだって。でも決めたんだ。俺はコレから便利屋としてギルドの一員としてこの世界で生きて行くって。これは覚悟なんだよ。
「便利屋?」
「そうだ。報酬はそうだな……マチゾーの餌やりだ」
と胸から顔を出すデッドラビットを指差す。するとマチゾーはニコに飛び付いた。ニコは驚いたが、危険が無い事がわかると胸に抱いた。
なんかイラッとしたのは名前がマチゾーだからだ。
「マスター!飯代はガストにツケといてくれ!」
「あいよ」
俺はギルドの扉に手をかけた時、ニコがコートを引っ張った。
「ニコも連れてって!」
「ダメだ!」
「だって兄ちゃんが死ぬかも知れないんでしょ?」
神様を否定した所で子供ながらに理解したのかもしれない。それに俺も助けると断言できない。既に死んでる可能性だってある。見極めたいのだろう。兄の処遇を。
「しかたないな」
俺はマチゾーを抱えるニコを連れて行く事にした──。
side:ガスト=ブライトリング
戦線は疲弊していた。弾ける石畳にこだまする射撃音。仰向けに吹き飛ぶ便利屋達。
朝靄が晴れた今ハウンドの全貌が明らかになった。統制の取れた動き、手慣れた射撃。八十人程の猟犬は見るからに傭兵集団だった。
「全員だと!」
オレは叫ばずにはいられなかった。最終防衛ラインまで百メートルほど。寄せ集め集団がかなうはずがなく圧倒的な火力に、次々に便利屋達が倒れて行く。
「ガストさん!無理っスよ!あんな軍隊みたいなヤツらに勝てるわけがないっス!」
「クソが!!」
オレは双眼鏡を地面に叩きつけた。
『ギルド諸君。見たか俺の猟犬部隊の力を。投降しろとは言わない。そのままゴミみたいに死ね!』
狂犬の野郎が拡声器で自慢気に無慈悲に言い放つ。
「随分阿呆な顔をしてんじゃん?ガスト」
オレが絶望を噛み締めて居ると、黒いトゲトゲ頭に細い線みたいな目。たしかブルーキングスの頭、バカラ=ハザードだ。
「なんだよボンクラ。オレを殺しに来たか?」
「ちげーよ。ギルドに加勢してやるっつってんだよ」
「はぁ?」
「俺だけじゃねぇ。他の族の頭も一緒だ」
ガストが呆然としていると、傷だらけの男達が顔を出した。全員名の通った族の頭達だった。
「「「「「すいませんでした!!!」」」」」
と頭をさげる。
「一体どうなってやがる」
「俺達は馬鹿だから難しい事はわかんねぇ。ただ一晩で全員やられりゃ目が覚めるってもんだ。漂流街征服なんて今思えば馬鹿みたいな事考えてたと思うよ」
呆れた様にバカラは俯いた。
「んでカイゾウさんは?カイゾウさんがいりゃさっさとカタが付く話しだろ?」
「ここまで来たらカイゾウが居ても無理だ」
ガストはギルドへの路地を指差す。
「お前らの加勢は嬉しいが皆ボロボロだ。加えて猟犬部隊はあのライン間近だ。いくらカイゾウでもあの弾幕じゃあ……」
オレが頭を抱えると、バカラが指を差した。
「カイゾウさんだ!」
他の頭達の顔が歪み、背筋が伸びる。
オレは覗き込むと、路地から上がってくる血色のロングコートの男。見間違えようがない”カイゾウ“だ!
何故かニコも連れている、この弾幕に出て言ったら蜂の巣だぞ!馬鹿やめろ!死にたいのか──。
side end
次回へのヒント=弾幕って何?