14# 誰に捧げる子守歌
遅筆なもので申し訳ありません。アナログなものでして(イイワケカッコワルイ)
side:ガスト=ブライトリング
クロトからの一報を受けたオレは、『猟犬』の襲撃に備え、連絡の付く便利屋をギルドに招集した。集まったのは三十人弱。緊張感もなく不満な顔で悪態をついている。
「ガストよぉ。眠れねぇから子守歌でも歌えってんじゃねーだろうな?」
「生憎だが歌う相手は別にいるぞ」
オレは便利屋達が周りに立つテーブルに、ギルドの周辺地図を広げ。そこにチェスの駒を置いて行く。
「狂犬率いる『猟犬』が朝一にギルドへ奇襲する事がわかった」
オレが顔を図面に落としながら伝えると、便利屋達は酷くざわついた。
狭い路地にあるギルドは大勢で迎え撃つのは困難。それこそ手榴弾でも投げ込まれたら即終了だ。ベルカ如きに何が出来るかと、馬鹿にすれば簡単だが油断は出来ない。狂犬たる所以も”しつこいから“だけでは片付けられない理由がある。狂犬はプライドの高い男、考え無しの無謀な戦いはしない。何かしらの”勝機“があるから奇襲をかけるのだ。おそらく兵隊は相当数揃えて来る。間違っても三十以上。人数で負けるかもしれないオレ達は肉弾戦に持ち込んでも勝てるか怪しい。
ならば罠を張るしかない。『ハウンドがギルドへ奇襲する』とわかっているのだから。確実に表の大通りに現れるハズだ。ならば”空中戦“に持ち込んでやる。
オレは図面の大通りに南進する黒の歩兵達を並べ、その両側の建物に木目の浮き出た肌色の歩兵を並べていく。ギルドへの階段がある場所には赤色でラインを引き”最終防衛線“とした。
「お前らには図面の位置通り、表の店の屋上からハウンドを急襲してもらう」
「急襲って突然言われても……銃も無いのに……なぁ?」
と、便利屋の一人が呆れた様に他の便利屋達へ振り向く。他の便利屋達も同様に薄ら笑いを浮かべている。
緊迫感が全くない。これだから学の無いヤツは……。
「いいか!お前らよく聞け!ギルドが無くなれば仕事が無くなる!つまり!お前らも生きて行けねぇ!コレはオレ達が生きるか死ぬかの戦争だ!」
オレは後ろ手にドンっとギルドの壁に拳の底を叩きつけた。
殴られた壁は大々的に半回転し、自動小銃の並ぶ武器庫へと変化する。いざと言う時のために作って置いた隠し倉庫だ。
便利屋達はぽかんと口を開けている。
「武器はココにあるのを使え!生きるとは当然の権利じゃない、勝ち取るモンだ!生きたいなら武器をとれ!それが出来ない野郎はとっとと野垂れ死んでしまえ!」
オレ様のありがたい叱咤を受けても便利屋達に反応は無い。便利屋達の頭上に『?』が見えるようである。
ちょっと強引と言うか理解出来なかったか?
「あと、狂犬がギルドの事をイ○ポ野郎とカマ野郎の集団だって笑ってたぞ?」
ボソッと付け足してみる。
すると波打つ様に野太い怒号と気合いの怒声がギルドに響き渡った。
「ブッ殺す!」
「二度と言わせねぇ!!」
「ギルドは無敵じゃあ!」
「ハウンドブッ潰す!」
「狂犬なんざギッタギタにしてやる!」
ああヤッパリこいつら頭ん中まで筋肉なんだな。扱い易くて困る。騒がしくなったギルドの店内でオレは配置指示をまかせるとカウンターに腰を下ろした。
「勝てるか?」
マスターが皿洗いの片手間に煙草をふかしながら呟いた。
「五割」
と答えた。今回は情報が少ない。ハウンドの意外性も考慮すると不確定要素が多すぎる。人数、装備、傭兵なんかも雇ってるかもしれない。以前までの狂犬は素寒貧だったはずだ、そのへんを考えるとどこか後ろ盾が付いたとも考えられる……。
「五割ねぇ。やけに危うい数字だな」
マスターは緊張感もなくケラケラと笑った。ギルドのヤツらの楽観的な空気はマスターのせいだと思えてしまう。
いつにも増した賑わいの便利屋達を一見し、ヤレヤレと煙草をはむ。
「もしカイゾウが」
マスターが磨いたグラスを電灯に透かしながら呟く。
「カイゾウがどうした」
「もし味方だったら勝率はどうなる?」
「もしとか、だったらとか嫌いなんだよ」
「そう言うなって、どうなんだよ」
「ちっ──」
side end
「綺麗だ……」
「にゃ」
俺はこの漂流街でおそらく一番高い電波塔にいる。地上百メートルくらいだろうか。凍てつく痛い風が頬をかすり抜けて行く。長いタレ耳を持つ黒ネコ(デッドラビット)の『マチゾー』はコートの胸あたりから顔を出している。風が吹く度に寒そうに目を瞑る。
左には朝日を受けて白く輝く漂流街全景。それを覆う様に砂漠が広がっている。
右を見ればまだ夜がそこに居て、星の瞬きが徐々に消えて。何ともいえない幻想的な色合いの空が広がっている。
なぜこんな所にいるのか?話せば長くなるがあえて要約すると『迷った』のである。決してロマンチックなアレが目的じゃない。
月明かりがあったとは言え、薄暗い中似たような街並みに迷走して散々走り回り、ようやく目に付いた高い建物に登ったと言うわけだ。
しかし走り回った事でいくつかわかった事がある。ちゃんと計ったわけじゃないから大体になるが、走力は約三倍で元々五十メートル走八秒くらいだから二・七秒ぐらい。跳躍力は約三メートル(垂直飛び)。建物の間を越えたら八メートルは軽く跳んだ。よく体操のお兄さんがやってる人間旗(棒に手の力だけで身体を水平にするヤツ)とかも簡単に出来た。と言うか今その状態。
チートだわ。ありがたいがどうしてこうなったのか、今度町蔵に聞いてみよう。
俺はゆっくりと人間旗から、鉄製の梁に足を置き辺りを見回す。この世界はどうかわからないが、太陽が出るのは東。この街は最南端だから太陽を見て、左が中心都市がある北方向。つっても砂漠しかないんだが。んで玄関口と言われたのがおそらく南だからその反対。ああ、なんかゴミゴミしたテントみたいのが沢山ある。あそこまで戻れば何とかギルドに帰れるだろう。
位置を確認した俺はハシゴを降りる。飛び降りなど出来るわけがない。実際どうなるかと言う話し以前に恐怖で無理である。こんな高所で人間旗をやったのを誉めて欲しいくらいだ。度胸も三倍になってるのだろうか──。
side:ニコ=ウィンチェスター
ニコ、兄ちゃんがキライ。大キライ。だってニコのことぶつんだもん。あんなヤツ死んじゃえばいいんだ。いつも怒ってて気に入らないとすぐに人を殺しちゃう。きっと頭がオカシいんだ。
枕を力いっぱい抱きしめる。久しぶりのベッドなのに眠れない。
ギルドの人たちはみんな良い人。ニコにやさしいし、ウソなんてつかなくていいお仕事くれるし。シャワーだって食事だってあるし。
全部あのカイゾウって赤い人のおかげ。
ほかの人たちはしらないけど、ニコはしってるんだ。あの人は”神様“なんだって。だってあの人がさわるとフニャってなったあと、すごく胸が熱くなって頭がグルグルになるの。きっとなんかすごい魔法を使ったんだ。
神様はいるんだよ兄ちゃん。ニコはあの人が見ててくれるなら怖くないし、きっとステキなことがいっぱいまってると思うから……もう戻らない。それにまだお礼もしてないし。
「!!!……」
なんか下の方が騒がしい。マスターさんかな?
部屋を出てドアを開けると、たくさんの人が怒鳴ってた。
「ハウンドぶっつぶす!」
「狂犬なんざギッタギタにしてやる!」
びっくりした。この人たちみんな兄ちゃんに怒ってるんだ。そうだよね、兄ちゃん悪いこといっぱいしたもんね。天罰だよね。天罰……。
「兄ちゃん──」
side end
次回へのヒント=戦いの神様