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ラジカライズアワー  作者: 九郎士郎
漂流編
11/39

11# 百年に一度の予感

短くなっちゃった。切りが悪かったのね。

side:マスター


「ふられたなガスト」

 カイゾウが出て言った後、俺はガストに軽口を叩いた。

 ガストはグラスを傾けた後。さして不快感もなく笑って見せた。

 ガストは俺の知る限り、金に汚い男だ。守銭奴と言っても差し支えない。一見いつも通りのガストに見えるが今回はおかしい。特に金に皺いはずのガストがどこの馬の骨とも知らない漂流者に百万も使った事がおかしいのだ。それも便利屋になると確約もせずにだ。

 ガストの英雄探しと言えば、適当に武器を持たせ働かせるくらいだった。それがアレだ。全身を完璧に装備させる程のカイゾウの買いっぷり。それほど買ってるなら、是が非でも便利屋にしたいはずだ。


「引き止めなくてよかったのか?」

 ガストは煙草をくゆらせながら、先程の借用書を縦に破った。


「オレはよマスター。見つけたんだ英雄を」

「あ、あ」

「見つけちまったらどっちが上でもどっちが下でも上手く行かねぇ」

 ガストは散り散りになった借用書を灰皿に入れ火を付けた。


「ヤツは戻ってくる。オレ様の百年に一度の直感がそう言ってる」

 そう言うとガストは不敵に笑った。

 百年に一度ねぇ?まあガストの事だ、なんか思惑があるんだろうが……。

 ギルドは危機的なのは変わりないだろう?カイゾウが味方だろうがそんなものは焼石に水に思える程に。

 この漂流街には多数の(トライヴ)、荒事師がいて。なんとかギルドが鎮圧してきたが今回は一番マズい。あの狂犬率いる『ハウンド』が族や荒事師達に対して共闘声明を出したからだ。目的は十中八九ギルド壊滅。

 一体どうなるんだウチは……。


「そろそろ仕事割り振るぞー」

 俺の心配とは裏腹にガストは寝ぼけた声で背後の便利屋達に話しかけた──。


side end




 ギルドを飛び出した俺は少々後悔している。せめて曖昧な返事をして朝にでも出ていけばよかった。

 俺は腕を胸に巻き付け、上体を揺する。


「さ、さぶい」

 つーか、なんなの?何度も言うけど俺主役だよね?漸くストーリーに入ったと思えば借金地獄て。んであれよ便利屋とか言う社畜みたいなもんにブチ込まれそうになったり。


 あーやだ!もうやだ!こんなゲーム止めてやる!



「……」

 で、どうやって出るんだ?あれ?そうだ、目の前に起動しているPCがあるわけじゃないし……。


 で れ な い よ ?


 じゃああれか?死ねば出られるのかな?俺はホルスターからベオウルフを取り出し、こめかみに当ててみた。

 ヒンヤリとした銃口の輪が密着する。目を瞑り、呼吸を整える。


「さん、に、いち!……」

 無理に決まってんだろーが!町蔵の話しじゃ感覚までも”現実と変わらない“んだから痛いのヤダし!


 俺はなんのアテもなく歩いていると廃ビルの影で火を焚いている爺さん達が居ることに気付いた。

 火に当たらせてもらえないだろうか?そう思った俺は爺さん達の方へ向かう。


「なんじゃ若いの?便利屋かえ?」

「いえ、違いますが。寒いんで火に当たらせてもらえませんか?」

「かまへんよ?」

「酒飲むかえ若いの?」


 それから爺さん達の輪に入った俺は酒の入ったスキットルを受け取りチビチビと飲み始めた。火の熱が手のひらから頬から、酒は内側からじんわりと身体の芯を暖めていった。

 話しを聞くと働く力のない爺さん達はこうしてビル壁を利用し掘っ建て小屋を作り。集団で暮らしているそうだ。

 



 暫くの間爺さん達の武勇伝や歌なんかを聞いてた。昔は皆、商人だったらしい。家族とかも戦争でみんな失ったとか。

 家族か……。そうだ!熱海に言ってる町蔵が俺を発見してくれれば帰れるじゃないか!

 ハヤクカエレマチゾウ。電報の様にカタコトな呪文を心で唱えていると、爺さんの一人がカップヌードルを俺の前に置いた。


「こんなモンしかねぇけど食いねぇ兄ちゃん」

「良いのか?」

「ああ、古い保存食だが。なかなか美味いぞ」

 カップヌードルにはお湯が並々と注がれている。確かにギルドで飯を食いそびれたからなぁ。てかカップヌードルもあるのかよ!見たことあるパッケージだし!

 いやーまさかカップヌードルが食べられるとは思わなかったよ。

 三分経つまでジッとカップヌードルを見つめてたら、爺さん達がざわつきだした。

 俺が座ったまま首を伸ばすと、爺さんの一人が血だらけで現れたのだ。ボロボロで片足を引きずっている。


「族だ!」

「トクさん!」

 トクさんと呼ばれたボロボロの爺さんは仲間の腕にもたれる様に倒れた。


(トライヴ)?」

「ああ、死肉を貪るデッドラビットみたいな卑怯なヤツらさ」

「デッドラビット?」

 そう疑問を投げかけると、爺さんは手を肩幅くらいに広げ。「これくらいの雑食の黒い兎だ」と溜め息をついた。

 ようは弱い者イジメするクズだって事か。まあ俺には関係ないよね。とジッとカップヌードルを見つめていると。カップヌードルの背後揺らめく炎にうっすらと文字が浮かんだ。


『Show Time!』


 俺は周囲を見回した。すると建物の反対側に小さい点みたいな箱が沢山見えた。昼間のゴロツキと対峙した時と同じ様に。

 俺はカップヌードルを見つめる。もう二分弱で出来上がる。

 そうさ今はカップヌードルを食べる事な集中するべきだ。第一もうこのゲームには未練も何も無いのだから誰かが何とかするだろう。トクさんは何かを伝えようと口をパクパクさせている。


 誰かって誰?爺さん達?無理だろ。

 俺は立ち上がり、ベオウルフを右手に蛮族ブレードを左手に持つ。カップヌードルは残り一分。


「どうした?あんちゃん」

 疑問顔で見上げる爺さん。

「一分で戻る」

 そう伝えると。俺は箱へ向かって走り出した──。

 


次回へのヒント:アサルトタイム

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