1# 鬼才現る!
はじめまして九郎士郎です。連載するのは今回が初になりますが、一生懸命頑張りますので是非読んでみてください。見直してはおりますが、もし誤字脱字がありましたらお知らせくださると助かります。(>_<)ノ
いつからだろうか?自分がこの世界の主役では無いと気付いたのは?子供の頃は自分を中心に世界が回っているとさえ思えたのに……。今じゃエキストラに埋もれる一部に成り下がっている。これが大人になるって事なのかな?でも俺はなんだか納得いかないん──
グシャっと俺は書いていた詩モドキを左手で握りつぶし、後ろ手に放り投げた。背後のゴミ箱に入ったなんか知らない。
俺の名は榊改蔵。大学二年だ。俺は寂れた下町の商店街の電気屋『サカキ電気』の帳場で暇を持て余していた。サカキ電気は御想像通り万年閑古鳥が鳴いている状況で、俺は暇潰しに急がしく詩なんてモノを書いてしまう始末。
周りを見渡せば木製の商品棚に多種雑多に並べられてる商品。俺は丸イスから立ち上がり、棚にある馬鹿デカい懐中電灯を手に取る。『十徳ライト』と書かれたソレは懐中電灯機能以外に時計やラジオ、栓抜きなどごちゃごちゃと親の敵の如くへばりついている。コレはバブル時代からの売れ残りだ。その懐中電灯を棚に戻し、開け放した入り口にあるアイスの冷凍庫に手を突っ込む。ビニールに包まれたアイスキャンディを真ん中でポッキリと折った。シャリシャリとキャンディを潰しながら軒先の陽光を見上げた。俺の鬱な感情とは裏腹に夏休み間近な空はスッキリと晴れて雲一つ無い快晴と、絶好調この上なさそうだ。
そんな時、下町特有の細い道へ絶妙なドラテクを駆使して入り込む黒塗りの高級車。キッと小気味良いブレーキ音で止まったソレに俺は「ふぅ」と溜め息を付いた。またか、と。
「すみませんが、榊町蔵教授の御自宅はこちらでしょうか?」
俺は、降りて来たオシャレ眼鏡でスーツ姿の男に「はい、そうです」と答えた。俺の不機嫌な顔を察したのか、オシャレ眼鏡の男は店を見回し駄菓子の『五円チョコ』を一枚手に取ると「これ頂けますか?」と微笑んだ。
「五円です」
「え?」
「だから五円ですよ」
「ああ、はい!」
オシャレ眼鏡は意外と言う表情で、財布を取り出し。五円玉を俺の右手に置いた。「まいど」と俺はキャンデーをくわえたまま帳場にある年代物のレジスターへ五円玉を放り込む。
「アナタは町蔵先生の御子息でいらっしゃいますか?」
不意に、オシャレ眼鏡が店の中腹辺りで俺に声をかけてきた。「そうですが?」と答えると、オシャレ眼鏡の表情はパァッと明るくなり、帳場に座る俺に詰め寄ってきた。
「そうですか!アナタがあの電子工学の鬼才榊町蔵教授の!ああ!会えて光栄です!」
と、俺の右手を奪いブンブンと振り回す。
「それで今日は町蔵教授は御在宅でしょうか?」
「すいませんが、父は日本にはいません」
「はぁ……そ、そうですか。それは……残念です」
オシャレ眼鏡は本当に残念そうに肩を落とし、頭を下げると踵を返して車に乗り込んだ。笑顔で手を振っている。俺は帳場でキャンディをくわえながら差して笑顔でもなく見送った。
「はぁ」と溜め息を付いた俺。何故ならこのやりとりは今月に入って五回目だからだ。ちなみ先月は十数回。
ちなみに親父である榊町蔵は教授ではない、元教授だ。大学など昨年末から行ってない。なにやら世紀の発明をしたとかで有名になり、教授を辞めた今でも他の大学からの勧誘が多いのだ。さっきのもそう言う類のモノだろう。
「ただいま」
その声に、店先に目をやると深い緑の着物に身を包んだ女性が、臙脂色の布に包まれた三味線を抱えて近寄って来る。母の伊織である。黒髪を頭の天辺でまとめ上げ、凛とした整った顔立ちは近所でも評判の和服美人である。
「店番お疲れ様。後は母さんが出るからあんたは戻っていいよ」
と、伊織はスススッと奥へ下がって行く。
どーしてあの親父があの母を嫁に出来たのか未だに理解出来ない。何でも大学で親父の生徒だったらしいが……きっと親父のパワハラにあったんだ!そうに違いない。あんのエロハゲめ!と壁を殴った。まあ、百歩譲ってその事は良い!だが、未だに母さんの『三味線教室』による利益により生活が成り立ってる榊家が問題だ!研究費かなんか知らねーけど、親父は自分の稼いだ金は全っっぶガラクタにつぎ込んでるんだ!大学だって辞めちまったし!
それから俺は自分の部屋に戻る。否。親父を問い詰める事にした。実は親父は家に居る。先程「日本にいない」と言ったのは親父が人に会いたくないためだ。パンッと、親父の部屋の襖を開け放つ。
「町蔵ゴラァッ!!」
部屋の中は煙りが立ち込め、妙に寒い。畳に踏み出すと、開け放たれた襖から煙が退室を始める。すると目の前に馬鹿デカい玉子型の機械が現れた。白い表面には『M.R.I.』と書いてある。
「なんだよ……コレ?」
「おう?息子よ。どうした?」
と、背後から俺の肩に顎を乗せる男。
「うわっ!」と俺は驚いて男と距離をとった。「うえっへっへっへっ」とスケベな笑顔をたたえた男。町蔵である。薄汚れた白衣に中は藍色の甚平。ヒョロ長く猫背な容姿のその男はハゲた頭をダルそうに掻いた。頭は前頭葉から脳天まで毛一つも生えてないが、その他の毛が全部爆発したように逆立っている。例えるなら格ゲーの鉄○に出てくるヘイハチみたいだ。もっとも顔は貧相なのだが(笑)。申し訳ないようなヘラヘラした笑みに、なんだか怒る気も萎えてしまった。と言うより、目の前の変な機械『M.R.I』(ムリ?)に驚いていた。
「町蔵。なんだよコレ?」
「おう。これはな天才タマゴ『えむあーるあい』だ!」
「大丈夫か?そのキャッチコピー?てか、なにそのエムアールアイって?」
「うむ、息子よ。貴様にだけは教えてやろう!これはな二次元の世界に入り込める機械なのだ!伊織さんには内緒だぞ!」
グフフとスケベな笑みを浮かべタマゴの表面にあるスイッチを押す。キキキッと開いたソレにはマッサージ機のようなイスが据えられていた。
「すげーな!すげーよ!町蔵!」
「だろう?俺様は天才だからな!」
「てか何のために作ったんだ?」
「エロいDVDを200%楽しむためだ!」
「……」
忘れてた。コイツが超の付くほどのスケベ親父だと言う事を!しかしわからないのは『二次元に入り込む』と言う意味である。俺はどうなるのか聞いてみる事にした。
「で、どんな感じになるんだ?」
「さてはお前……やりたいんだな?そうだよな!男ならやりたいよな!父さん嬉しいぞ!」
「うるさいな!そんなんじゃねーよ!3Dに見えるって解釈でいいのか?」
「まったく発想が貧相だな息子よ。父さん悲しい!」
「いいよ!そう言うのは!どんな感じになるんだよ!」
「まあ、簡単に言うとだな、この『M.R.I』は二つの機能がある。まず一つは運動神経を司る脳の機能の一部を電気信号に変える機能で、つまり神経系の内部を走る微量なパルスを増幅して数値変換し出力する機能だ。同時に、生命維持以外の機能も停止する。そしてもう一つは二次元を俺様が以前開発した『電脳』と連携させ超改造を施す事によりよりリアルに近い映像や実際DVDには映らない部分まで再現する事が出来るようになったのだ!」
「つまり、どうなるの?」
「はああ?だからだな!お前が普段生活する様に二次元内部で生活出来るんだよ!つまりは!揉み心地!吐息!体温が実物と変わらんのだ!」
ヒヒヒと笑う親父。その親父が開発した世紀の発明と言われた自ら学習して知識を増やす『電脳』。それを応用したのが『M.R.I』。つまり親父はコレを開発するために大学で研究を続けて来たのだ。まさかのスケベ心のために……。馬鹿だ、馬鹿過ぎる。
「スゴいけど、町蔵には母さんが居るじゃないか!こんなの開発する意味あったのか?」
「だって伊織さん……相手してくれないんだもん。コスプレとかしてくれないし……」
「そうか……悪かったな町蔵」
「いや、わかってくれりゃいいんだ。俺様が無理矢理、伊織さんにやらせてもなんか違うしな。コレなら誰にも迷惑をかけないし紳士的だと思うんだ……」
「わかったから泣くなよ町蔵……」
「うむ息子よ!では実際にやってみせよう!」
「変わり身早いな!」
そんなこんなで町蔵はエロいDVDを備え付けのPCに取り込んだ。インストールを確認すると、タマゴ型の機械『M.R.I』を開けた。そして自らは服を脱ぎ全裸となる。どうやら鑑賞中の排泄物は下水処理されるようになっており、座席に座ると下半身を白いドーム状の金属が覆った。町蔵の話しによると、長時間プレイする時のために衛生上の備えは完璧にしてあるようだ。たとえば、ウォッシュレットに乾燥。保湿、床擦れ用マッサージ機能などが上げられる。そして町蔵は頭上にある金属性のパーマ機みたいなのを引き寄せるとアイマスクを装着し、口元にも管の付いたマスクを取り付ける。
「いよいよか……」
俺が唾を飲むと同時に、タマゴが閉まって行く。町蔵が消える一瞬、町蔵は左手の親指を突き出した。『グッドラック』俺にはそう聞こえた様な気がした──。
このくらいの文章量で進めて行きたいと考えています(笑)
次回へのヒント:エロいDVDのために作った