死の音
「死の音」を創り上げた。
科学者の言葉に、世間は驚いた。
その科学者は、不快に感じさせる音を研究していた。
研究して、不快な音をコントロールすることは
人間の生活にも役立つと考えた。
最初は小動物にとっての不快な音を収集し、
より不快な音になるように
合成したり、速度や並びを変えたりして
洗練させていった。
やがて、一音だけで小動物に
酷いストレスを与える音を複数発見した。
さらにそれらを集め、洗練させることで、
遂に、一音聞いただけで小動物を即死させる音を創り上げた。
それは自然界には存在しない
完全に人工的な合成音だった。
音が、それだけ直接的な力を持ちうるということは
人類にとって新たな発見であった。
「小動物を殺す音は、人間にとっては不快なだけで
影響は少ない。無駄に怖がる必要はない」
そう語った科学者の呑気さとは別に、
既に事件は始まっていた。
音はネットに流出した。
本物であることは直ぐに証明された。
人々のAIへの命令とAIの学習能力により、
その音をさらに合成させた様々な音が無数に創られ始めた。
人間に対する「死の音」が、人々の好奇心で検索され
人々の命令でAIが作成し、偽物が次々と創られた。
無数に創られる中で、
遂に「本物」が生まれた。
生まれた「死の音」はAIが瞬時に無数の動画にし、公開した。
「死の音」という検索、ワンクリックだけで
人々の元へ、手軽に死が届けられた。
あっという間に「死の音」は広まった。
十数秒の音で、簡単に10万人の命を奪った。
被害は世界中に広まった。
病気や爆弾以上に手軽な殺人兵器に
人類は今まで味わったことのない恐怖を感じた。
AIを通して自動的に、通常の動画、CM、映像の、
BGMの一部に「死の音」が使われ、街頭にも流れた。
人々は交差点で倒れ、起き上がる者はいなかった。
各国の政府も混乱し、対処は遅かった。
3日後になってやっと、あらゆる映像の音は消され、音楽も禁止された。
その時には、世界の死者数は、戦争時の数を超えていた。
「死の音」が科学的に精査され、
禁書ならぬ禁音とされた。
AIにより創られ広まったが、
皮肉なことに、近い音を含めた厳格な制限も
AIによってなされた。
それにより、映像の音、音楽の禁止も解除された。
新たな「死の音」を見つけ出さないように、
不快な音に被害レベルが設定され、
あるレベル以上は創らないよう、AIの暴走も規制された。
人類は「死の音」を完全に封じ込めた。
深い追悼の後、日常は戻った。
話題の移り変わりは早く、今では
「死の音」は、歴史やエンタメ、オカルトの中で
時々ネタになるだけになった。
今は、別の「音」
まだ存在していない「音」が話題になっている。
オカルト界隈で、かつての錬金術のように語られていたが、
近頃勢力を増し、有名な科学者の中にも
本気で目標とする者が多くなっている。
「死の音」があるのだから
人間を生き返らせる
「復活の音」も存在しないとは限らない。
そう考える者が増えている。
「復活の音」が、地上に天国をもたらすのか、
それとも新たな地獄をもたらすのか
それは分からない。
残念ながらなのか、幸いなことなのか
いずれにせよ
「復活の音」は
まだ見つかっていない。




