詩 彼女が絵本を読んでいる
「何の本を読んでいるの?」
俺が聞くと、彼女は少し赤くなりながら、顔をあげる。
「絵本。今、親にも人気があるんだよ」
「そうなのか? どれどれ」
覗き込んでみると、可愛いイラストに、短い文が載っている。
さあっと目を通して読んでみるが、俺でも読めそうである。
「図書館で借りたのか?」
「そう。一緒に行く?」
彼女の瞳が満天の星のように、キラキラする。
読書好きなのは知っているが、俺が借りるには、ちょっと気が引ける。
「いや、いいや。それよりも音読してくれる?」
「え? 私が?」
「そう。このほうがいい」
隣の席に座り、彼女の声を待つ。
何故か幼稚園の時を思い出す。
わくわくしていると、彼女が絵本を最初に戻す。
「恥ずかしいから、小声でもいい?」
「駄目。俺に聞こえるように読んで」
「え…」
とか言いつつ、彼女はこほん、と咳をすると、読み始める。
優しくて柔らかくて、癒やされる声。
まるでピアノの演奏を聞いているみたいだなと目を瞑る。
周りの声は聞こえなくなり、彼女の声に集中する。
緊張しているのか、つっかったりするのだが、俺のために頑張ってくれている。
「…終わり」
彼女が絵本を閉じ、俺を見てくる。紅潮した顔は、初々しさがあって可愛かった。
「ありがとう。またよろしく」
「えー。今度は、その、あなたが呼んでよ」
「俺? 俺が読むの?」
びっくりして大声になってしまった。周りの視線を感じるが、無視する。
「俺の声、狼みたいに、がらがらで良くないんだけど」
絵本にかけてそう言うと、彼女は首を横に振る。
「そんなことないよ。その、私は気に入っているし。カラオケの歌声も好きだし」
「そうか、ありがとう」
素直に礼を言うと、彼女が立ち上がる。
「やっぱり図書館に行こう。読んじゃったもの」
「分かった。俺も行く」
2人は新婚夫婦みたいに並び、教室を後にしたのだった。




