エピローグ——再出発
春が深まる頃、病院の外来ロビーで小さな絵本の展示会が開かれた。記憶の庭の子どもたちのために作られた人形劇の写真や、地域の祭りの古いポスターが並ぶ。梨花は受付で案内をしながら、展示を眺める。みけまるは展示会場の片隅で丸くなり、来訪者の子どもたちにすり寄っては人々を和ませている。猫の存在はいつの間にか、この町の小さな守り手として受け入れられていた。
梨花はふと、受付の窓辺に飾られた一枚の写真に目を止めた。それはあの日、箱の中に入っていた指人形と同じポーズを取る小さな女の子の写真だった。写真の裏には小さなメッセージがあった——「ここに来てくれてありがとう」。梨花は微笑んで、みけまるの耳を軽く撫でた。猫は目を細め、満足げに喉を鳴らす。
彼女の能力は今もある。夜明け前の薄い闇で、香りや古い写真が触媒になれば、死者の残滓は時折現れる。だが梨花は以前よりも落ち着いてそれを扱えるようになった。みけまると交わした約束——人々の結び目をほどき、残されたものたちに安らぎを与えること——は続く。だが同時に、彼女は自分自身の生活も守る術を学んだ。時には手を引き、時には助けを求めることを覚えた。
最後に梨花は小さくつぶやいた。「また、誰かが呼んだら行くよ」——みけまるはそれに答えるように、軽く尻尾を振った。二人の歩みはこれからも続く。町には小さな奇跡が積み重なり、切なさも和らぎ、残されたものたちの記憶はやがて穏やかな色合いへと変わっていくだろう




