一話 目覚め
鳥のさえずりが聞こえる。
まどろんだ意識が少しずつ鮮明になり、まぶたの裏に差す光が眠気を削り取っていく。
光の強さに負けて、目を開ける。
まぶたは、まるで長い間閉ざされていたかのように重かった。
瞬間、視界に飛び込んできたのは見覚えのない木目の天井。
「ここ、どこ……?」
口から出たのは鈴が鳴るような少女の声。
自分の口から出たことに酷く違和感を感じる。
まわりを見渡すと、必要最低限の物しか置かれていない、質素な部屋に不釣り合いな全身鏡が目に入る。
そして窓の外に広がる森を見て改めて思う。ここは、いったいどこだろうか。
(いや、それどころか、わたし、は、)
突然、扉が開いた。
入ってきたのは黒髪を頭巾で覆った女だった。
女は一瞬、酷く驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑みを浮かべる。
「おはよう。体は大丈夫? あんた、森で倒れていたんだよ」
どうやら少女は外の森で行き倒れていたらしい。
女が差し出してくれたコップを受け取り、水を飲む。乾いた喉にぬるい水が染み込んで心地よかった。
女は少女が水を飲み終えるのを見届けると、探るように問いかけてきた。
「ねえ、あんたの名前は?」
そう、そうなのだ。
少女は目を覚ました時から何一つ分からなかった。ここがどこなのかも、自分の名前さえも。
だから、分からない、と答えようとして、
『──ミア』
誰かに、呼ばれた気が、した。
そしてそれが自身の名前なのだと、少女は理解する。
「……ミア、です。あなたは……?」
「ああ……そうかい。良い、名前だね。私はマリア! この森小屋に住んでるんだ」
マリアと名乗った女は、なぜだかホッとしたような顔をする。しかし、名前を褒めた時の苦しそうな顔を始め、先ほどからの不自然な様子がミアの胸に小さな不信感を芽生えさせた。
そんなことも知らずに、マリアは次々と質問をする。
「ここがどこかわかるかい?」
「この国の名前は?」
「なら、使える魔法は?」
「さすがに、魔王のことくらいは知っているだろう……?」
「……まさか、精霊のことも……覚えて、いないのかい……?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、ミアは首を横に振ることしかできない。
マリアの方は先ほどホッとした表情が嘘のように慌てていたが、やがてミアが何も分からないのだと悟ると、硬い表情で押し黙ってしまった。
「……」
外で鳥が鳴いている。あと、よく分からない獣も。
なんとも居心地の悪い沈黙を破ったのは、二人のどちらの声でもなかった。
きゅるきゅると、か細い音が部屋に響く。
音の出所はミアの腹だった。
普通なら本人にしか聞こえないような小さなその音を、この気まずい静けさは本人以外にも届けたのだ。
「あっははっ!」
マリアは笑う。
気が抜けたように、不安を吹き飛ばすように。
「そうだね、まずは食事にしようか」
そんな彼女のどこか不安定で、違和感を覚えさせる様子は、ミアの胸に不信感を少しずつ、しかし確かに根づかせていった。
ーーー
「こんな物しかないけど、お食べ」
とはいえ、外は森。今のミアにとっては彼女以外に頼れる人もいない。
出されたスープと蜂蜜を塗ったパンを食べていると、マリアが深刻そうな顔をして口を開く。
「ミア、あんたはきっと……記憶喪失だ」
なんとなくそんな気はしていた。
だが、いざはっきりと言われると、やはり心にくるものがある。
ミアは過去の自分なんて分からないが、なんだか自分ではない別の何かになってしまったかのような気がした。
「あんた、行くあてがないんだろう?」
一緒に食事をしていたマリアのスプーンが止まる。
「なら… しばらくはこの小屋にいると良い」
そう言った彼女は優しく笑っていたが、ミアにはどこか泣きそうな顔に見えた。
ROM専だったのに…ついに書いてしまった…
ちなみに二話は未定。




