表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第七話 嵐の前の静けさ

「おはようございます高瀬先輩。今日から三日間、二次面接よろしくお願いします」

「あぁ月影さん、おはよう。こちらこそよろしくね。桜田さんもおはよう」

「あっ、おはようございますぅ」

「あれっ、今日みんな早いね〜おはよ〜」

「はよ。お前が遅いだけだ」

「ったくうちの高瀬は朝からキレキレだな」

「余計なお世話だ」


***


【同期は知らない俺の秘密】


***


二次面接初日。雨の降る朝。ジメジメと湿気を全身で感じるが、その不快感に無理やり蓋をする。俺はそれを支える社員を集めて朝礼をしていた。

「おはようございます。前回に引き続き二次面接の現場統括を務める高瀬です。本日は、各部屋十名ずつ、計二十名の面接を予定しています。トラブルがあった際や予定の変更があった際、なにか分からないことがあるときでもいいです。その際は、私か篠原、月影に声をかけてください。くれぐれも無理をしないように。では本日から三日間、よろしくお願いします」

朝礼が終わるとそれぞれが二次面接の準備に取り掛かる。次に俺は面接官への挨拶のために、面接官の控え室である中会議室に向かう。

「高瀬、その前にシーバー」

「ぐッ……」

息が詰まった。俺のことをそう呼び止めた篠原が俺のスーツの襟腰を掴んだのだ。

「お前……襟腰は掴むなよ……」

「あぁ、悪い!ついな!」

この男、反省している様子がない。気を抜いたら次もやられそうだ。

「ん、シーバー」

「ん……」

篠原からシーバーを受け取り、それを取り付ける。俺はまた中会議室へ向かった。


***


「月影さん」

「あ、はい」

「朝礼後に事務から連絡があったんだ。今日面接予定だった稲葉学院大学の山﨑さん、体調不良で予備日に面接変更。スケジューリング任せていいかな。受付には俺が連絡するから」

「分かりました」

「調整できたら連絡欲しい」

「はい」

待機会場の前。忙しなく準備をしていた月影さんを呼び止めて、そう話す。彼女は調整に走った。俺は言った通り、受付に面接変更の連絡をしに行く。シーバーからはだれかを呼ぶ声やなにかを確認する声が聞こえていた。俺は受付へ連絡を入れたあと、みんなと同じようにシーバーに声を入れる。

「篠原、取れるか」

『んー?』

うしろでガタガタと音が聞こえる篠原が返事をした。まだどこかの準備をしていたのだろうか。

「受付前にマットとビニールの傘袋を設置して欲しい。マネジにあるんだが」

『あー、それならもう準備できてる。ゴミ箱も設置済み』

「そうか、助かる」

『えーそれだけー?もっと褒めてくれてもよくないー?冷たいぞ高瀬ー』

時間がないのにこんなときもいつもの調子で来るなんて、なんて面倒なやつだ。

「はいはいあとでな。月影さん取れる?」

篠原との連絡を済ませると次は月影さんに話しかけた。彼女もすぐに言葉を返す。

『はい、月影です』

「スケジューリングは最悪あとでもいいから、とりあえず履歴書と評価シートの準備お願いしたい」

『はい、最初の面接者の履歴書と評価シートはすでに面接室に準備しています。水とペンの用意も問題ないです。受付に面接者名簿も渡しておきました』

さすが月影さん、仕事ができて助かる。

「ありがとう。それじゃあスケジューリング頼むね」

『はい。受付開始までには済ませます』

「了解」

あと五分ほどで受付開始だ。あまり時間はない。俺はほかに準備が終わっていないところがないか見て回ることにした。

「面接室よし、待機会場よし、受付よし、サインもよし。特に問題はないな」

「高瀬先輩」

使用する部屋や動線を確認していると、そこに月影さんがやってきた。

「あ、月影さん」

「山﨑さんの日程調節できました。予備日のいちばん最初、九時三十分からです」

「了解、ありがとう。ちなみに山﨑さんに連絡は?」

「しました。日にちも時間も大丈夫とのことです」

「そっか、分かった。助かるよ」

それからしばらく月影さんと必要事項などを確認する。時間になると受付を開始した。


***


「高瀬先輩、少しいいですか」

昼休み。昼休憩に行ってもらった桜田さんの代わりに待機会場にいた俺に、月影さんが話しかけてきた。彼女にも今のうちにお昼を食べておいでと言ったはずだ。緊急の用事だろうか。

「うん、いいけど……お昼は?」

「いただきました。すみませんお忙しいのに……」

「ううん、俺は大丈夫なんだけど。で、どうかした?」

「最終面接に関して少し質問があって」

「あぁ、最終面接」

彼女には二次面接と同時進行で最終面接の準備も可能な範囲内でお願いしている。予定している昼休憩も終了五分前。次の面接予定者が待機しているこの会場内で最終面接のことを話すのはマズいだろうと、一歩外へ出た。

「高瀬さぁん、休憩ありがとうございますぅ」

そのとき、昼休憩を終えた桜田さんが戻ってきた。一瞬、彼女が月影さんを横目で見た。声のトーンも、いつもより低い。なにかいやな空気が流れているような感じがする。が、今はそれを気にしている場合ではない。ふたりにしても、なにかあればふたりで話し合いをするなり相談を持ちかけるなり、行動は起こすはずだ。

俺は桜田さんにその場を渡し、月影さんとべつの場所へ移動することにした。

「さっきの話だけど、最終面接のなにが分からない?」

「あぁ、はい」

俺のうしろを歩いていた月影さんの顔を見ると、少し落ち込んでいるように見えた。でもすぐに切り替えて、仕事モードに戻る。彼女は資料を見せながら、気になった点を話し出した。


***


第七話【 嵐の前の静けさ 】


***


「いただきます」

午後二時。やっと昼食が取れる。ペコペコだ。コンビニおにぎりのフィルムを開ける。剥がしたフィルムはゴミ袋代わりのコンビニ袋に入れた。手を汚さないように、使えるフィルムはおにぎりの持ち手として再度使用する。

いただきます。再度おにぎりにあいさつをして口を開ける。

『高瀬、面接予定者がまだ来てないらしいんだけど』

そんなとき、シーバーから篠原のそんな声が聞こえた。食べようとしていたおにぎりを机に置く。

「連絡取ってみる。学校名と名前は?」

『新都情報大学の佐々木さん。午後の面接二番目、十四時五分からの』

「分かった。とりあえずこれは俺が対応するから、みんなはいつも通りに頼む」

『はいはーい』

面接者データの中から該当者の大学、名前を確認し、その携帯に電話をかけてみる。

「……」

出ない。それどころか、コール音に切り替わりすらしない。しばらく待っていると、機械的な音が鳴った。

『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』

「マズいな……」

電話に出ないどころか繋がりもしないなんて、余程の緊急事態だ。なにかあったのか?事故か、それとも事件にでも巻き込まれたか。念の為もう一度電話をかけてみるも、結果は変わらなかった。

切り替えて、次に電話をかけたのは緊急連絡先に書かれてあった番号だ。ここに書かれてある番号は、家の固定電話か両親どちらかの電話番号であることが多い。

『はい、もしもし』

出た。母親だろうか、落ち着いた女性の声が耳に入った。

「突然のお電話失礼いたします。私、株式会社ヴェルア人事部の高瀬と申します。新都情報大学に在学中の佐々木様のご家族の方でいらっしゃいますでしょうか」

『あ、はい。そうです』

女性は俺の言葉に返事をする。俺はそんな彼女に心配をかけさせないようにゆっくりと話し始めた。

「本日、佐々木様に弊社の選考へご参加いただく予定だったのですが、受付時間を過ぎてもお見えにならず、ご本人の携帯電話にも連絡が取れない状況でして」

『えっ、ほ、本当ですか?うちの子、今日は雨が降っているから念のためと早い時間に出て行ったんです。到着していないはずが……』

まぁ、心配にはなるだろう。だが話を聞いてくれる程度にはまだ落ち着いている。

「大事に至っているというわけではないと思うのですが、念のため状況の確認でご連絡いたしました。ご本人より、体調不良や急なご事情などのご連絡は入っておりますでしょうか」

『わざわざありがとうございます。残念ですがこちらにはなにも。私からも連絡してみます』

「そうですか、ありがとうございます。こちらもご本人と連絡が取れましたり出社が確認できました際には、改めてご一報差し上げます」

『はい、どうぞお願いします』

「それでは失礼いたします」

電話が切れ、大きく息を吐く。家にも連絡が行っていないなんて、どうすればいいんだ。警察に連絡するのはさすがに早いだろうし、だからといって本人の連絡が来るまでなにもしないわけにはいかない。とにかく、なにか行動を……。

と、そんなときだった。

「高瀬さんお電話です。外線二番お願いします」

人事事務からそう声がかけられた。今はあまりそれどころではないのだが、と思いつつ電話に出る。

「お電話変わりました、高瀬です」

『すみません!本日面接予定の新都情報大学の佐々木です!』

「えっ、佐々木さん?」

間抜けな声が出た。電話の向こうで息を切らせている彼はそこでペコペコと頭を下げているのが分かる。

『はい。雨によるバスの遅延と、自分の不注意で携帯電話の充電がなくなってしまい、連絡が遅くなってしまいました。本当に申し訳ありません!』

今までの心配が一気に取れた。よかった。事故や事件に巻き込まれていたわけではなかった。

「あぁ、よかったです……。とにかく、けがのないようにゆっくりお越しください。あとどのくらいで到着するか分かりますか?」

佐々木さんは、早ければあと五分で到着すると話した。電話を切ると安心感により肩が随分と楽になる。シーバーでの連絡や家への電話も済ませ、俺の昼食を再開した。


***


「ん、高瀬」

「あっ、高瀬さぁん」

昼食後、会場を見回る最後に待機会場に向かった。そこには篠原と桜田さんがいる。次の面接者の確認でもしているのか、手元の資料をふたりでのぞいていた。俺に気付くとふたりは顔を上げた。

「お疲れ様。さっきの佐々木さん、事情は話してくれたか」

「うん。面接官もちゃんと納得してた」

「そうか、よかった。各部屋あとふたりずつだし、桜田さん、今のうちに休憩……」

「高瀬先輩、少しいいですか」

桜田さんに話しかけるよりも早く、月影さんがそう話しかけてきた。俺はふたりから離れて彼女のところに行く。確認事項があったらしい。月影さんの話を聞きながら、静かに桜田さんのほうを見る。こちらを見ていた。そんな桜田さんと目がバチッと合うと、彼女は目を逸らす。あまりこういったことは言いたくないのだが、ならなぜ彼女を睨むのかと疑問に思う。睨むくらいなら見なければいいのに。

「ありがとうございます」

「うん。こちらこそ確認してくれてありがとう。この資料、事務に渡してくるよ」

「あ、いえ、私が行きます」

「分かった。それじゃあお願いね」

「はい」

俺はそれが終わるとその場から立ち去った。乾いた喉を潤すために、再度自分のデスクに戻った。

「嵐の前の静けさ……なのかな」

そう口からポロッと出た言葉に、俺の前を通り過ぎた人事事務が小さく首を傾げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ