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第六話 動き出す二次

「おっ、今日は高瀬いる。おはよ〜」

「はよ」

「お前もう体調大丈夫なの?」

「大丈夫だ。問題ない」

「ふぅん?今度は無理すんなよー」

「脳筋には言われたくない」

「失礼だな!」


***


【同期は知らない俺の秘密】


***


久しぶりの発熱からたった一日。俺は会社にいた。俺が休んでいる間に、二次面接候補者の絞り込みと、対象者へのメール送信、残念ながら選考外となってしまった学生への連絡まで済ませたらしい。

「うん。評価シートは前回と同じもので。数は五十でいいかな」

「分かりました。印刷しておきます」

月影さんへの資料の確認。

「待機会場は前回と同じだけど面接会場はちがうから、動線の確認もお願いね。会場は月影さんに聞いて」

「はい!頑張りますぅ!」

桜田さんへの会場の確認。

「今回は該当する部署の方にも面接をお願いしているから、その事前説明会を今日の午後頼む。前回のと同じ感じでいい。会場は押さえてるから、書類の印刷頼む。場所は小会議室第二で。月影さんも連れて行って」

「オーケー。備品リストに変更は?」

「特にない。ボールペンの数は追加の面接官分増やしておいてくれ。前回、水余ったよな」

「ん、今回も同じ数。それを面接官に回すのな」

「あぁ、把握しておいてくれ」

「りょーかいっ」

篠原との、新たに増える面接官や備品リストの確認。

今回は前回とほとんど変わらないため、新たに資料を作ったりその見直しをしたりする手間が省ける。よかった、少しは気が楽だ。

「月影さん」

「はい」

「今回、各部署から面接官が増えるから、それぞれの顔と名前、一度目を通しておいてくれるかな。営業は元浦さんと杉本さん、開発は須崎さんと北沢さん。で、総務が永富さんと林田さん、広報が島さんと藤枝さん。人事からは一次のときにお願いした四名にまたお願いするから大丈夫。これ、渡しておくね」

「ありがとうございます」

桜田さんよりも多く面接官と接する可能性がある月影さんには、面接官の予定となっている各部署二名ずつ、全部で八名の顔写真と名前の載った資料を渡しておいた。一次面接では面接官が人事の人間だけであったから特別こういったものは必要なかったが、他部署も関わるとなるとそうはいかないだろう。彼女は真面目だからしっかり目を通してきてくれるはずだ。

「高瀬ー、事前説明会の印刷終わったけど俺行こうか。ついでに会場の準備もしておくけど」

「いや、面接官には俺が行く。会場の準備は頼んでもいいか」

「オーケーいいよ」

「月影さん、さっきの資料持って俺と一緒に行こう。面接官にも月影さんの顔を覚えていてもらいたいし」

「あ、はいっ」


***


「よろしくお願いします。それと、彼女が月影です。なにかあった場合は彼女か篠原にお伝えください」

「うん、分かった。よろしくね、月影ちゃん」

「よろしくお願いしますっ」

広報部、島さん。彼女が、俺たちが最後に挨拶した面接官予定の女性だ。月影さんが緊張した様子で島さんに挨拶する。彼女は手渡した書類に目を通しながら俺に話しかけた。

「そういえば、篠原は元気?最近顔見てないけど」

島さんは俺たちが入社した頃は同じ人事部にいた。新人のとき、篠原の教育係は島さんだった。そしてその翌年に妊娠。産休で会社を離れたが、三年ほど前に仕事復帰された。

「あぁ、はい。やかましいくらいには元気ですよ」

「産休入って出産して、突然仕事復帰したかと思えば人事じゃなくて広報だもんね。正直、私も夫もびっくりしたよ」

「俺も驚きました。もちろん篠原も。仕事復帰の噂は聞いていましたけど、まさか広報部に行かれるとは」

「少し見ない間に篠原がちゃんと動けるようになってて驚いたよ。高瀬もね」

「恐縮です。正直、まだまだですけど」

フッ、と静かに笑った島さんは、穏やかな顔を俺たちに向けた。それはまるで親が子に向けるような温かい表情だった。

「時間取らせて悪かったね。月影ちゃんも一年目から大変だけど頑張ってね」

「はいっ、ありがとうございます」

「では午後の説明会、よろしくお願いします」

「はぁい、ありがとね〜」


***


広報部からの帰り、俺は資料を握りしめていた月影さんに話しかけた。

「どう?顔は覚えられた?」

「あっ、はい、なんとか。大丈夫だと思います」

俺の顔を見ていつもの調子に戻った月影さん。緊張は少し落ち着いたのだろう。

「そう、よかった。これから他部署との交流も多くなるから、顔と名前は覚えていて損はないと思う。部署の場所はどう?」

「覚えました、大丈夫です」

月影さんとそんな話をしながら人事部へ戻る。入社してまだ一ヶ月ほどしか経っていないが、少しずついろいろなことを覚えてくれているようで安心した。

「そういえばさっきの……」

「島さん?」

「はい。島さんって、篠原先輩と仲が良かったんですか?」

「あぁ、うん。仲が良いというか、島さんは篠原の教育係だったんだよ」

「教育係……そうだったんですね」

「なにか気になったことがある?」

「いえ、そういうわけでは。すごく優しそうな人だなと思っただけです」

月影さんの言葉を聞いて、あの頃の島さんと篠原の様子を思い出す。俺は少し笑いながら言った。

「あのときは、今と違って少し怖かったよ」

「えっ、そうなんですか?」

俺の言葉を聞いて驚いた様子でこちらを見た月影さん。まぁ、今の島さんしか知らなければそんな表情になるのも納得だ。

「あの自由奔放な性格してる篠原が今ちゃんと仕事できるのは島さんのおかげ。最初の頃はよく遅刻してたし、仕事のペース配分とか苦手だったようで、残業する日も多かったみたい。報連相もできてなかったし。だけど島さんが指導して、少しずつ改善していったよ。だから今、安心して仕事を任せられる。まぁ、篠原にとって、島さんはただの怖い上司だったのかもしれないけどね」

へぇ、とそんな声を漏らした月影さん。話が終わったタイミングで人事部に着いた。

「あ、高瀬帰ってきた〜。なぁ、ちょっと聞きたいことあるんだけど」

入り口に見えた俺の姿を確認して篠原が俺を呼んだ。一度返事をしてからまた月影さんに話した。

「あぁ。……今の話したこと、篠原には秘密ね。もちろん桜田さんにも」

「あっ、はいっ」

「どこ」

「あー、ここ。小会議室第一と第二の二組に分けて面接する場合、面接官三人と面接者ひとりの構図で───」


***


第六話【 動き出す二次 】


***


「じゃあ午後からは備品取りに行くわ」

「頼んだ。それと、桜田さんと動線の確認もしてくれ。それとサインの場所も変更があるからそれの確認も。事前説明会までに間に合わせてくれたら助かる」

「ん、りょーかい。で?体調は」

昼食の時間。今日は、以前行くと口約束をしていた最近できたラーメン屋に来ていた。提供までの空き時間に、午前に済ませた業務と午後に済ませる業務の確認を行う。そんなとき、篠原が俺の顔を覗き込んで言った。

「あ?見れば分かるだろ、大丈夫だよ」

「ウソつけー、まだちょっとノド痛めてんだろ」

「は?もう大丈夫だって」

「口開けてみろ」

「馬鹿、やめろ、離せ」

動けないように肩に手を置き、グッと力を入れて篠原のほうに引き寄せられた。そのまま空いている手を口に突っ込まれそうになって慌てて止める。野郎の汚い手を突っ込むとか、マジで勘弁して欲しい。

「んだよ、せっかく俺がこんなにも心配してやってるっていうのによ〜」

この男は他人の体調を気にしているのか遊んでいるのか、本気で分からない。

「結構だ。だいたい、治ってるって言ってるのに心配する必要がないだろ」

「お前、仕事のときウソつくのは得意なのにこういうときウソつくの下手だよなぁ」

図星を突かれたような言葉に内心ギクッと音が鳴る。が、それは表情に出さずに言い返した。

「仕事のときも今も嘘なんてついてない。適当なこと言うな馬鹿」

「うわっ、なにお前、なんか今日鋭くない?攻撃強くない?」

「うるさいな、少しは黙ってろよ」

俺が吐き捨てるように言ったのと、厨房から、八番さん行きます!と声が上がったのがほぼ同時だった。

「はーったく、温かみもクソもないやつだな」

「はい、お待たせしました〜!味噌ラーメンの焼飯唐揚げセットと、塩ラーメンの餃子セットですねー」

「おっ、来た来たぁ。俺味噌ラーメンでーす!」

頼んだラーメンが届くと、篠原は今までの会話なんてすべて忘れてそちらに全神経が持っていかれた。単純なやつでよかった。

「いただきまーす!」

ガヤガヤと音の止まない店内。そんな騒がしさに負けないくらいの大きな声で、篠原がラーメンに目を輝かせていた。


***


「じゃ、備品と動線とサイン場所の確認行ってくるわー」

「あぁ、頼む」

昼休憩後、午後の業務。篠原はうしろで元気に敬礼ポーズをしている桜田さんと一緒に人事部を出た。俺と月影さんは二次面接の次の最終面接の準備に取り掛かる。

「黒川取締役。彼が最終面接のときに面接官をお願いする役員の方。それともうひとりが人事部長の金子部長。このふたりには事前にアポを取ってあるから、事前説明会の必要はない。面接官がふたりだけだし最終面接で面接者もあまり多くないから、その分ペンや水は少し減らしておこう」

「はい、分かりました」

「待機会場は同じで、面接会場は一次面接のときに使った第一個人面談室。今までの感じで行くと、面接者は十二名から十五名。二日間に分けて面接を行う予定で、日程は来週の水曜日と木曜日。余裕があれば木曜日中に……遅くても金曜日までには合格者を確定させて、金曜日に面接者全員に連絡。それから内定者フォローの準備を始めよう」

「はい。内定者フォローについてなんですけど、具体的にどんなことを……」

「うん。細かいことはやりながら教えるけど、つまり内定者辞退を防ぐための業務だね。質問の対応は随時行うけど、まずは内定通知書とか契約書とかを内定者に送付。それから懇親会とか、内定者面談とかのイベントの準備」

「イベントの準備……そんなことまでやるんですね」

「うん。でもね、いちばん大事にことは、放置しないこと」

「放置、しないこと……」

「内定もらってから春までって、意外と不安になる。急に連絡が減ると、この会社大丈夫かなって疑う人も出てくるんだ。だから、定期的に声をかける。去年、内定もらったあとも会社から何度か連絡入ったでしょ?」

「あ、はい。いただきました」

「うん。それをやるの。だから内定者フォローって言う」

「なるほど……」

「とかえらそうに言ってるけど俺、今まで自分主体で動くことがなかったからきっと全部は把握できないと思う。月影さんにもたくさん協力してもらうと思うけど、そのときはよろしくね」

情けなく眉を下げて月影さんに言うと、彼女は笑顔を見せて頷いた。

「もちろん私も一生懸命やらせていただきます。たくさん迷惑をかけるかもしれませんが、こちらこそよろしくお願いします」

最後に一度礼をした月影さん。そのタイミングで入り口から篠原が声をかけた。

「月影さーん、そろそろ事前説明会行こ〜」

「あっ、はい!」

それじゃあ、とまた頭を下げた月影さんは、小走りで篠原のもとへ向かった。 

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