*026*結団式という名目の呑み会
「本日の予定ですがっ。結団式も兼ねて『D*W迷宮配信チーム』打ち合わせをするそうです!」
「打ち合わせって、初回配信のか?」
「さあ?」
「さあって何だ」
「いやぁ。ヘビー――広報担当からの言伝をそのまま伝えてるので」
研修はどこへ行ったのやら。
ろくな説明もなく。ますたーとマカウェストさんと指定された場所に向かうことになった。
「ペトラ広報担当は?」
「ヘビーはさっき現着したそうです」
「そうか。つか、そのヘビーってのはなんなんだ」
「ペトラのハッカー時代のハンドルネームです。鹿の子は占い師時代の源氏名でして」
「あぁ。違法露店エリアを摘発した時のか」
「えぇ。まあ、はい」
遡ることウン十年前。
ますたーがまだ支配人じゃなかった頃。
大規模な違法露店エリアの摘発に参加したことがあったらしい。
その露店の中に、百発百中だが超高額な占い料を請求する占い師がいた。
それが、マカウェストさんだったのだとか。
「私の読心と精霊転身、それからヘビーのハッキングで組んでたんですけど。露店を仕切ってたヤクザ的な人達のみかじめ料がエグくって」
「違法露店を縄張りにしている武装集団。要危険人物としてマークしてた2人組が、年端もいかぬ子供だと知った時は驚いた」
「あははは。若気の至りって奴ですかね」
マカウェストさんもヤンチャしてた頃があったらしい。
今日も今日とて、ますたーの肩に担がれながら、3人の思い出話を聞き流していると、その歩みが止まった。
「あ――ここみたいですよ」
「打ち合わせに、居酒屋を使う奴があるか」
たどり着いたのはカエルムで繁華街と呼ばれる場所。
店や露店が所狭しと立ち並んでいる一角にある、ダーティーな雰囲気のお店だ。
「ここって、隠れ家的居酒屋で人気なんですよね!」
「昼間っから飲酒なんてわするわけないだろう」
扉を開けると、お客さんと思わしきおにーさんやおじさん達がどんちゃん騒ぎをしている。
店員らしき若いおねーさん達は際どい衣装で店内を走り回っており、活気とアルコールの匂いでおかしくなりそうだ。
「いらっしゃいませ。ダンジョン*ワーク御一行様ですね」
「あぁ」
「受け賜っております。どうぞ、こちらへ」
イカつい黒服のおにーさんに誘導され、店内に一歩踏み入れると、空気が一変した。
「ダンジョン*ワークだと!?」
「人殺し集団じゃねぇかよ」
「なんでこんな所に!?」
ピリピリと緊張が張りつめる。
突き刺さる嫌悪と畏怖の視線。
「人殺しはしてないからな」感覚接続でますたーに補足された。
うん。そういう問題と違います。
「こちらで、お連れ様がお待ちです」
黒服のおにーさんに連れていかれたのは、酒場の二階。
賑やかな1階とは違い、2階は人気がなくガランとしてている。
個室が数部屋並んでいるだけだ。
その最奥の扉がゆっくりと開かれた。
「お疲れ様です。無事に到着した模様で何よりです」
「とりあえず、ビールでいいよね」
「真昼間から飲んだくれるなよ。仕事中だろ」
そこに居たのは、タマキ従魔長さん、管理部門マーケティング室(幹部補佐)所属で『D*W迷宮配信チーム』広報担当ペトラさん。
そして、どういう訳か派遣部門アレックス部門支配人さんと、彼と同じく青系統の腕章をしたおにーさん。
テーブルには空の酒瓶が10本ばかりと飲みかけの酒瓶が数本、軽食が乱雑に置かれている。
「お久しぶりです、キリク支配人」
「アイザックも来てたのか。何なんだこのザマは……」
「自分が現着した時にはこの有様で。面目ないです」
「彼は派遣部門部門副支配人のアイザック。こっちは――」
「キリク支配人の従魔――ラビさんですね。よろし――ぐぼっ」
「アイくんも飲め飲めー」
「ユエさん、いつの間に……いいなぁ」
そして始まるどんちゃん騒ぎ。
飲めや食えやの大合唱。
半日続いたその宴の最中、わたしは――
「飯はどうだって聴くまでもなさそうだな」
「……ぅんまー」
「飯代はギルド経費だ。たらふく食べんさい」
「……あぃぃ」
肉肉魚肉肉肉野菜――おいしいごはんをお腹いっぱい堪能したのだった。
「今後の迷宮配信についてですが」
「ビールおかわりください。ピッチャーで!」
「焼酎もねぇ。めんどくさいし樽でお願い」
「蒸留酒。あるだけ持ってきて」
「もう飲めないです。すんません 」
「このガキ、ツマミ全部食いやがって。出せっ吐き出せ!!」
「…………ラビゎ、こども、ちがぅ。ぁげなぃ」
「話を聞きやがりなさい。このクソガキども」
「タマキ口調がバグってるぞ」
「酒を飲むなと言ってるんですよ。馬鹿野郎」
この後、メチャクチャ怒られた。
☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆
「では、D*W迷宮配信チーム第1回ミーティングをはじめます」
どんちゃん騒ぎの酒盛りから、タマキ従魔長のお説教を経て早半日。
打ち合わせにギルドを出立した時は午前中だったのに。いつの間にかすっかり日は暮れ、一日が終わろうとしていた。
「先ずは、配信日程について。ペトラ広報担当から共有をお願いします」
「手元の資料にある通りなんだけど。説明なんて必要?」
「ペ・ト・ラさん?」
名前を区切って呼ぶタマキさん。
めちゃくちゃ怖いです。
「当面はギルドの紹介を兼ねて配信するつもり。コンセプトはドキドキ⭐︎新米ファミリア奮闘記みたいな?」
「じゃあ、何で俺らが呼ばれんだ」
「ギルド全体の好感度底上げのためには、配信チームと各部門が共同歩調をとる必要があります。まあ、スケジュールの兼ね合いやらなんやらで、メンツが揃わなかっただけのことです」
「あー。うん。じゃあ、そういうことで」
「素直に、新企画考えるのめんどくさかったって言えばいいのに」
「ペ・ト・ラさん?」
「じゃあ、派遣部門のおふたりさん。後はよろしくね」
足元で魔法陣が展開したと思ったら、ペトラさんはヒラヒラと手を振りながら魔法陣に吸い込まれて消えてしまった。
「転送魔法か。逃げたな」
「あはは。ですね」
のんびりと言うますたーと、冷や汗を浮かべて笑うマカウェストさん。
その背後で、顔色が悪くダラダラと汗を流すアイザック部門副支配人さん。
もう、なんというかカオスすぎる。
「だりぃ。俺ァ帰る」
「せめて、扉から出て――窓壊さんでください!!」
欠伸をしながら、窓ガラスを粉砕。窓枠に足をかけてそのまま飛び降り、戦線離脱するアレックス部門支配人さん。
絶句するアイザック部門副支配人さんに待ち受けていたのは、タマキさんの詰問であった。
「アイザック部門副支配人、弁明があればどうぞ?」
「ペトラさんからは、ギルドの悪評払拭(建前)と荒稼ぎ(本命)のため。ルックスかが良く世間受けの良さげなメンバーを派遣担当に見繕うようにと。只今、精査中です」
「うちは女世帯だから、助っ人はお色気要員なんてどう?」
「ツッコミきれないので、黙ってください。ユエ部門支配人」
「補足いいですか?」
「どうぞ、マカウェストさん」
「ラビのリアクションは素のままが面白いから、精霊転身で程よく台本読みつつ、後はアドリブで押し切ってね。だそうです!」
「そうですか。全く微塵もよくねぇですね」
ああ。おなかいっぱい食べたから、眠くなってきた。
出来ることはなそうだし、そもそもわたしは従魔。
契約者の命令のまま動けばいいし、どうせ考えなくても隷従紋で勝手に動くからモーマンタイ。
ああ、まぶたがゆっくりと閉じていく。
皆さんの会話が心地よく、この睡魔に抗うことなんてできるわけがない。




