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*025*迷宮配信研修〜はじめての精霊転身〜

 兎にも角にも。

『D*W迷宮配信チーム』が結成され、その頭数に入ってしまった。

 心の底から疑念なのは『御三方がいれば万事よし』なわけで。わたしは要らないと思うとです。



「そんなことはない」


「マスコット枠は必要不可欠でしょ」



 ますたーには、感覚接続(リンク)で思考がダダ漏れだとしても!

 どうして、マカウェストさんが()()()()()()()()()()()をするんだろう?

 首を傾げていると、ますたーに頭をモフられた。



「マカウェストはフォーンという種族だと言ったな」



 ますたーの問いに、小さく頷く。



「フォーンは読心能力を持つ。思考と感情を読み取ることに長けている」


「表層心理をニュアンス的に感じ取れる程度ですけどね。ラビは感情が表面に出やすいタイプだし、能力なくても分かりやすいけど」


「感情表現が豊かなのはいい事だ。俺は不得手だからら、羨ましいぞ」



 ユエさんにも指摘されたけど、そんなに分かりやすいんだろうか。

 ますたー曰く。レッサー・エルフは非言語コミュニケーション文化があり、自然なコトだというけれど。

 解せぬ。



「あ。忘れてた。これお届けものです!」


「差出人は配信魔具製作チームか。中身は――なんだこれ」


「迷宮配信魔具みたいねぇ」



 中には竹蜻蛉が生えた小さなキューブと『黒・白・ベージュ』3色のインカム。

 ペトラさん曰く、キューブは配信魔具(ダンジョン*ワークオリジナル)とのこと。竹蜻蛉――プロペラは空を飛ぶために、水中ではスクリュー的な役割を果たすんだとか。

 水陸両用で、ダンジョンはもちろん大抵の環境に適応し、魔法や呪詛のろいに優れた耐性を持ち、鋼鉄の強度を併せ持つ。

 すんごい技術の結晶だという。



「実況と解説の2人は、即時アクセスできる仕様だから」


「即時アクセスってどういうこと?」


「現場での編集権限があるってこと。鹿の子(かのこ)っちは精霊転身で、キリク支配人マネージャーは念話だってさ」



 広報担当ペトラさんの監修の元で修正と再編集、管理部門の確認と最終編集、ギルド支配人マネージャーの認可からのIGOにおける審査を経ての配信公開になるそうだ。

 何重ものプロセスを通過するのは、不正と不法行為の防止のためだという。



「生配信はIGOの監督下で厳粛にやってるんですよねぇ。お色気チャンネルの撮影想像すると、なんか笑えるんですけど」


「兎に角。鹿のかのこっちは、配信者ラビと二人羽織り状態になるだろうし。マニュアルとガイドライン読み込んでおいてね」


「迷宮配信大好きだし、ガイドラインはバッチリ。任せて!」


「さすが、限界オタク。キモイの極みだね」


「私は自部門――ダンロジが神推しだけど、D*W箱推しだからね。ギルメンのあんな絡みとか推しカプを最前席で観れるなんて。想像だけで死ねるもん」


 

 ジュルリと垂れた涎を光悦の表情で拭うマカウェストさん。

 ちなみに"ダンロジ"というのは迷宮案内・ロジティクス部門の略称とのこと。

 短くて覚えやすいし、とても言いやすい。

 わたしも使わせてもらいたいけど、従魔ファミリアの分際で烏滸がましいかな――なんて考えていたら。



「部門が長いからと、呼称はギルドが公認している。気兼ねなく使いんさい」


「レッツ、ダンロジ!」



 サムズアップするマカウェストさんとますたーを、どこか冷めた目で見るペトラ広報担当さん。

  ペトラさん曰く。キューブ状の配信魔具には、ガイドラインが読み込んであるという。適時適切な加工や編集をしてくれるのだと教えてくれた。



「このインカムつけてみて」


「……あぃ?」



 マカウェストさんに言われるがまま白いインカムを右耳に嵌め込む。

 小さくて軽いし、体毛に酷似していて肌なじみも、良好なのだけれども。

 これは、一体全体なんなのだろう。



『ラビ、回れ右』



 耳から入ってきたますたーの声。驚く前に体が動いた。



『お――感度良好だな。マカウェストはどうだ』


『やばいですね。支配人マネージャーのバリトンボイス、尊すぎて昇天しそう!』


『ん――大丈夫そうだな』



 先に言っておくが、ますたーとマカウェストさんは一切声を出していない。

 にも拘らず。透明感で心地よい声質のマカウェストさんと、低くて気持ちの落ち着く声のますたーのやり取りが耳を駆け抜ける。



素面シラフでも精霊転身は可能。情報共有きてるね。とりあえず試運転してみて」


「はーい!」



 企画責任者――ぺトラさんの指示に、元気よく手を挙げたマカウェストさん。



「精霊転身って、手っ取り早く言うと体を借りるってことなのね。やってみるのが分かりやすいんだけど、先に謝っとくね。ごめんなさい!」



 マカウェストさんが両手を合わせて音を立てながら詫びを入れた。

 どういう事なのかは、直ぐにわかった。



「こんにちゎ。ダンジョン*ワークへょーこそ。ナビゲーターのラビと、ぃーます。どーぞ、ょろしく」



 体が勝手に動き、教わった通りの口上をスラスラと読み上げる。

 まるで、誰かが体に入っているかのような不思議な感覚だ。



『言動は本人に引っ張られるけど。まあ、精霊転身すると、こんな感じかな』


『体を動かす事は、理性が暴走しない限りは避ける。台本シナリオを精霊転身で補うとはいえ、操ってることは変わらん。恨むなら俺を――』



 すんごい!!

 こんなに、言葉がスラスラ出たのはじめて!

 厳密には自分の力じゃないのだけど。すごい、快感だ!!



「すごく喜んでくれてるのに、罪悪感で胃がキリキリするうぅ。なんでですかね」


「ん――この罪は俺が背負うべきものだ。お前は気にするな」


「かっこよく言っても無理ですって!!」


「じゃあ降りるか」


「死んでも嫌です」


「そうか」



 いつか、わたしもこんな風に饒舌にお話しできる日が来るんだろうか?

 ふと湧き出た疑問は、次の瞬間には溢れ出る感動で忘れてしまったのは言うまでもない。



「ご歓談中、大変恐縮ですが。話を進めさせていただきます」



 こめかみをピクピクと痙攣させながら、仁王立ちするタマキ従魔長さん。



「そういえば。タマキもいたんだったな」


「素朴な疑問なんだけど、ケット・シーも毛玉とか吐くの?」


「生理現象だけど、過労や心身の負荷がかかるほど、大きくなるっていいますよね。あれって本当なんですか」


「黙りやがらないとシバキ倒しますよ。アホトリオ」



 あぁ。顔に『怒』って張り紙が見える。

 いつの間に書いて、というかどこから出したんだろう。

 御三方は全く意に介してないし、胃がキリキリするよぉ。



「D*W迷宮配信チームは各部門から選出されたメンバーで構成予定です。随時、配属されるかと思いますが、配信現場での連携は専任スタッフのマカウェスト。広報担当ペトラの監修の元、迅速な対応をすお願いしますり。尚、推し活は業務外にするように」


「承知ですっ職権乱用――基、推し活を鋭意務めさせていただきます!」



「これは、ギルドの威信をかけた一大プロジェクトです。悪評を注ぎ、多額の補助金と処遇改善をせしめるべく、死ぬ気で業務にあたってください。特に、キリク支配人マネージャー。業績悪化ともなれば、降格や減給等のペナルティーのフルコースを用意しておりますので、悪しからず」


「責任おっかぶせられたくはないし、ペナルティーフルコースはごめん蒙りたい。善処する」


「そしてラビ――全責任はギルドと主にキリク支配人マネージャーが持ちます。ギルド支配人マネージャーからも健全な生活と心身の健やかな成長を最優先にするよう勅命が出ています。最大限のバックアップしますので安心して配信業務に当たってください」



 ますたーの――ダンロジ部門の業務を通じて、ギルド活動を周知する。

 その従魔ファミリアが醜態を晒すということは、ますたーと所属するギルドの悪評やイメージダウンに直結してしまうということ。

 即ちそれは、ますたーの処遇悪化や降格につながるということ。

 失態を演じることは許されないということだ。

 決死の思いで業務遂行しなければ!



「…………ぅあ?」



 緊張とプレッシャーに押しつぶされそうになった時。

 ますたーに頭を乱雑にモフられた。

 顔を上げると、いつの間に膝をつき目線を合わせたのか。ますたーのご尊顔が視界をおおっていた。



「気負うなと言うのは無理だろうが、俺たちがサポートする。とはいえ、有象無象の即席チームだ。ラビも俺たちをサポートしてくれ。頼りにしている」



 ますたーの言葉で、緊張とプレッシャーに誘発された不安や恐怖が少しずつ小さくなっていく。

 破裂しそうな勢いで脈打っていた、心臓の鼓動が静けさを取り戻していくのを感じる。

 冷や汗と悪寒はどこに行ったのか、ポカポカと胸の中心から末端組織まで温かくなってしまった。



「よろしく頼む、ラビ」


「…………あぃ」



 正直。不安は拭えず、ストレスで今にも胃に穴あきそうなのに変わりはない。

 荷が重すぎるし、わたしには身に余る不相応な仕事だという気持ちも同じだ。

 でも。ますたーの命令には応えたいという気持ちが勝ってしまう。

 ますたーの差し出した拳に、拳をコツンと合わせた時、覚悟が決まった気がした。




















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