*024*迷宮配信研修〜D*W迷宮配信チーム(仮)〜
「管理部門『マーケティング室』所属のペトラ。一応、幹部補佐の末端幹部。イオっさん指示で『D*W迷宮配信チーム』広報担当になったんで、テキトーによろしく」
「ちょと待て『D*W迷宮配信チーム』ってなんだ」
「迷宮配信は部門の垣根を越えるから、直轄扱いにするらしいよ。知らんけど」
「答える気がないよな?」
ペトラさんと名乗るおねーさんは、頭髪が無数の蛇で、ウヨウヨとうねっている。
『D*W迷宮配信チーム』の監修と企画立案&広報、手続きや事務処理を担当するそうだ。
「他部門からもチームに人員を寄越すってさ」
各部門との連携が取れているか否かで、ギルド配信の完成度は決まるという。
民間人はもちろん、ダンジョン*ワークの活動を正しく健全なイメージで周知するためには、ギルド内部から改善する必要があるとも。
『D*W迷宮配信チーム』新設と人員配置の因果関係は正直なところ、よく分からないけれど。
自己紹介もそこそこに、研修2日目が幕を開けたのだった。
「......こここにちゎ、ダンジョ、わぁくでしゅ」
「あざとすぎだね。やり直し」
「…………もももぅ、むりぃぃ」
ペトラさん監修の元、配信実践をすることとなったのだけども。
「これじゃあ、どれだけ編集しても追いつかないよ」
やれやれと首を振り、ダメ出しをされる。
かれこれ6時間、このやり取りが続いている。ペトラさんがうんざりする気持ちは凄くわかる。
申し訳なくて、ゲロ吐きそう。
「お疲れさんペトラ。進捗はどうだ」
「配信以前の問題。論外だね」
広報担当――ペトラさんに淡々と切り捨てられ、 悔しさと情けなさで胸が溢れてしまう。
涙がポロポロと零れ出てきた。
「そういうのは撮影回ってる時にやってもらえない? 無駄な体液流さないでくれる?」
「.....ごごめん、なさぃ」
「ペトラと朝は話せないどころか、意識を保つので精一杯だったのに。短時間で、進歩したなあ」
「トドメ刺してますよ、キリク支配人」
人見知りコミュ障にしては、よくやっていると思うのだけど、社会というのは世知辛い。
過程ではなく、結果が全てなのは分かっているし、ペトラさんのおっしゃる通りでグゥの音も出ない。
「マイナスがゼロになっただけ。これじゃ、配信に行き着くまで何年かかるか」
「配信魔具製作チームには懸念事項を踏まえた仕様にするよう依頼済みです。なんとかなるでしょう」
タマキさんのいう懸念事項に何が含まれているのか、知りたくはない。
ただ、自分の不甲斐なさの所為でたくさんの人に迷惑をかけているのだけは分かる。
「そのコミュ力の低さと語彙力の無さだと、テロップ補助がかかせない。LIVE配信は稀だから、現場で実況役も兼ねる専任スタッフと、解説をつけるのが手っ取り早いと思うよ」
「実況と解説か……人員をむやみに増やすのは、ラビが萎縮するだけだ。俺ではダメなのか?
「キリク支配人の迷宮攻略本作家の人気と知名度を、利用しない手はない。解説は適任だと思う」
「あぁ、確かに。キリクくんはバリトンボイスとルックスで女受け良いし。スパダリ力で老若男女問わずイけそうだもんねぇ」
「よく分からんが、了解した」
あれよあれよという間に解説が決まった。
というか、迷宮攻略本って、ダンジョンのありとあらゆる情報と地図が詰まったものだと言っていた。
ますたーはガイドだけど人気作家でもあるらしい。
「実況は? キリクくんは契約者だから兎も角。ギルドメンバーにはそれぞれ仕事もあるし、他所から雇うの?」
「迷宮配信はギルドの機密情報と隣り合わせにあります。部外者を雇うのリスクが高すぎるかと」
「私はできる限りの支援をするけど、同行は基本的にNG。ユエ支配人もそれは同じだよ」
ますたー曰く。迷宮配信は様々な制約が設けられている。
ギルド所属員の情報は勿論、ダンジョンに関すること――配信は一般人は勿論、商売敵たる他ギルド、国家、組織が視聴することが出来る。
配信には情報規制でモザイクがかかることも多々あるんだとか。
部外者が携わるということは、情報漏洩につながるらしく、可能なら関係者は身内で固めたいとのこと。
「実況、私じゃダメですか?」
人数分のお茶と茶菓子の乗ったお盆を手にポーズを決めるのは、マカウェストさん。
乱入者の登場に、時間が一瞬止まった気がした。
「どういう事だ、マカウェスト」
「私の仕事は、各チームや他部門との連絡調整とガイドを含めた総合的な業務補助。迷宮案内・ロジスティクス部門の雑用だと――幹部補佐に昇格した時、ディルク副支配人に指導されました」
マカウェストさんは、幹部補佐――即ちペトラさんと同格?
ますたー曰く。運営会議には2人とも依頼があり欠席だったという。
「そんな。幹部クラスなんて……末端もいいとこですよ」
「運営会議とかダルぃし、出る意味ないよね」
「出たくなくて依頼スケジュール伸ばしたけど。私はそこまで思ってませんからね?」
「言わんとすることはわかるが、せめてオブラートに包みんさい」
「おまそれ言うですよ、アホ支配人」
あっかからんとする3人に、深いため息をこぼしたのはタマキさん。
「兎にも角にも。配信業務が付随されるなら、そのサポートも自分の業務に当たるんじゃないかなぁと!」
「この鹿娘――とんでも理論をぶちかましやがった」ますたーの驚嘆した感情が心に突き刺さった。
はじめての逆感覚共有に驚くのもつかの間。
タマキさんのツッコミが炸裂した。
「それなら。他の部門員でもいいのでは?」
「ところがどっこい。他のメンバーは、激務と過労でそれどころじゃないみたいで。面倒事はゴメンだから、お前がやれって。ほら、証拠のグループメッセージ!」
満面の笑顔で端末をタマキさんに押し付けるマカウェストさん。
「大体、今出たばかりのペトラ幹部補佐の案をあなたが知って……」
「早かったね、鹿の子っち」
「そのあだ名やめてって言ったよね。ヘビー」
「そういえば、お二人は同期加入でしたね。失念していた、こちらにも非ありますが。迷宮配信は機密情報だと言いましたよね?」
「うるさいなぁ。とっくに皆、知ってるよ」
タマキさん曰く迷宮配信をすることは、機密事項に指定されていたという。
そして、ペトラさんが言うには。他のギルドもダンジョン*ワークが迷宮配信に参戦するともっぱらの噂らしい。
どこの組織でも、機密情報というのは、漏洩するのも早いらしい。
「鹿の子っちならビジュアル的にも問題ないよ。広報担当としても、性格はともかく常識人が現場にいることは心強いし。迷宮配信の必須スキルもあるからね」
「確かにマカウェストは探知系で操作魔法全般ににも長けています。配信での加工や印象操作は容易いでしょうが……」
「フォーン固有の読心は、実況をする上でも役に立つ。対象者の肉体に入り込み操る精霊転身は、暴走した時の緊急処置に応用できるわねぇ。治癒魔法も使えるみたいだし?」
「魔法医療部門としても賛成かなぁ」と手を挙げるのは、ユエ支配人さん。
そういえば、今日も彼女はいたんだった。
「紛いなりにも、派遣部門にいたので護身の心得はあります。自分の身は自分で守れますよ!」
えへんと胸を張りVサインをするマカウェストさん。
しばらく思案していたタマキさんは、やがて頭を振りながらため息を吐いた。
「分かりました。実況兼スタッフにマカウェスト。解説はキリク支配人。配信者としてラビ。御三方に、基本的に迷宮配信をお願いします」
「はい!!」
「おぅ」
いや、2人がいるならわたしの存在価値ないのでは!?




