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*022*タマキ従魔長の基礎教育〜迷宮配信編

「改めまして。貴女にはIGOの動画配信サイト―ダンジョンライブにて『ダンジョン*ワーク』の公式配信者として、迷宮配信に勤しんでいただきます」


 改められたら、専門用語のオンパレード。

 何がなんやらさっぱりです――どこから質問すればいいのか考えていたら、タマキさんが盛大なため息を吐いた。



「困惑と動揺が顔に出すぎです。表情筋が死滅しているのも如何なものかと思いますが、ファミリアたる品格を身につけなさい」


「何故こっちを見るんだ。表情豊かな方だと自負してるのに」



 闇市で買われてから日は浅いけど、これだけは自信を持って言える。

 今のご主人様――ますたーのご尊顔は基本的に『無』である。

 淡々としているが冷徹ではなく、熱いくらいだ。

 だがしかし。表情の機微に乏しいので、ちよっとだけ怖い。



「与太話はこの辺に 」


「すな。討議させてくれ」


 異議申し立てるますたーの表情はやっぱり「無」であった。



「さて。与太話はこの辺にして、話を戻します。まずはスクリーンをご覧ください」


「いつの間に用意した。というか、俺の部屋を勝手に弄るな」


「自堕落な支配人マネージャーが私物化しているだけで、ギルドの所有空間です。馬鹿野郎」



 く、口が悪い!!

 兎にも角にも。タマキさんが指さす先には、半透明な白幕が。

 視界に入ったと思ったら、軽快な音楽と共に映像が流れ始めた。



「馬鹿でもわかるIGOギルド公式迷宮配信ん?」


「夜鍋して作りました。終わったら起こしてください」


「本末転倒している気がするが。お疲れ。ゆっくり休んでくれ」



 動画とますたーの解説によると、IGO管轄の正規ギルドにはダンジョン業界の事業を請負い、治安維持と魔法社会のインフレを支える義務がある。

 加盟国を始め民間人への理解を深め周知するための広報手段がダンジョン配信の役割だとも。



「ここからは人気チャンネルのまとめ動画です。ダンジョン潜行での道中が人気です。まあ、スタイル抜群美女パーティーによるあざとい大バーゲンのビッチ配信が売りなわけですが」



 言葉の隅々に棘がある解説をするタマキさん。

 4人組のボッキュンボンなおねーさん達が、露出度が高い軽装で、ダンジョンに挑む様子が流れていく。

 スライムに服を溶かされたり、ヌルヌルの床トラップに自ら飛び込んだり、ギミックにからだを挟まれたり――タマキさん曰く「クソザコギルド草」とのこと。



「他にも『日常系・ダンジョングルメ系・ハーレム系・百合系・BL系・俺TUEEEE系・エンジョイ系・炎上系エトセトラ』玉石混交の迷宮配信が鎬を削っているわけですが。ご理解頂けましたか」



「…………やんゎり。ふんゎりと?」


「上出来です」



 異世界辞典の解説の助けも借りてではあるけれど。

 IGOに申請して審査が通ると、迷宮配信の公式チャンネルが与えられるらしい。

 関連組織をはじめギルドではガイドラインを最低限守っていれば、比較的自由な配信が認められているんだとか。

 再生数や人気、業界への貢献度に応じてIGOから配信に関する助成が得られる他、認知度&好感度が上がればギルド(所属メンバー)指名依頼が急増し、ギルドの財源となるそうだ。



「当ギルドも一枚噛むからには、ありとあらゆる手段を講じる所存です」



 タマキさんの目は据わり、きまっている。

 折檻や非情な命令をする時のご主人様たちの目つきを思い出し、悪寒が走った。

 彼女の言葉に二言はない。どんなヤベェことをやらされるんだろう。



総支配人ギルドマネージャーも仰っていましたが、ダンジョン*ワークの評判は奈落の底。悪名と悪評が市井のみならず、同業からも嫌煙されています」



 たしかに。バザールじゃ、道行く人達から後ろ指を指されていた。

 カエルムは、ダンジョン*ワークの本拠地ギルドハウスが居を構えるというのに。

 地元民からも畏怖されているのは、タマキさん達の言葉から察するに、おかしいことなんだろう。



「負のイメージ払拭をするこということは、即ち民衆の支持を得るということ。ギルド魅力度ランキングの最下位から脱却すれば、依頼は急増。IGOからの補助金も増額。いい事づくめなのです」



 ギルド魅力度ランキングというのは、IGOが1年単位で集計する番付らしい。

 毎月発表されるのだが、ダンジョン*ワークは常に最下位ワーストとのこと。

 上位に食い込めれば、ギルドの処遇改善にも繋がるらしく、ますたーのお給金や手当も増額するという。



貴女ラビの存在は、似たり寄ったりの配信に飽きた視聴者《愚民》の庇護力を駆り立てる素質がある。善人ヅラで民衆に媚び諂う、腑抜けた商売敵共に一矢報いるのです!」


「……おぉー」



 タマキさんは言葉の節々に棘があるけど、謎の説得力があった。

 天高く拳を突き上げるタマキさんが「お前もやれや。ぶっ殺すぞ」と言わんばかりの眼力で見つめられたので、一緒に拳を上げる。

 もうこれ、できませんって言える状況じゃないよね?



「配信って、ラビちゃんはどういうスタンスでやるの? キャラクターは大切だと思うわよ」


「口下手と挙動不審は一朝一夕で修正できるものではないし、幼女ロリ枠は常に人気なので、キャラ変更はしません。本能全振り位がちょうど良いかと」


()()()()()()()って、あざといもんねぇ。その点、ラビちゃんは実年齢も子どもだし。競争相手少ないかも」


 あぁ。何を言ってるんだろうこの人たちは。

 専門用語が多くて、さっぱり分からない。


 

「てか、他のギルドなんかは広報担当が配信してるのよね」


総支配人ギルドマネージャーの判断に異議申し立てが?」


「ないない。英断だと思うわよ」


「というわけだ――できる限りのフォローはする。やってみてはくれないか」



 同意の意味を込めて、頷く。

 どういうわけなのか――なんて、野暮なことはもう聞くまい。

 そう、決心したときだった。

 ますたーが「そういえば」と切り出した。



「ダンジョン*ワークのチャンネル申請はしてあるのか?」


「申請が通ったからこそ、ギルド運営会議での任命に至ったに決まっているでしょう。馬鹿なんですか?」


「……そうか」



 補足すると。IGOに申請時点で、公式配信者を最低1名登録申請する必要があるという。

 タマキさんによるとダンジョン*ワークの公式配信者はラビ――着任拒否をすることなど最初からできなかったということだ。



「…………ラビゎ。どーすればいぃ?」



「ふむ」と思案するタマキさん。

 語彙力のなさと思考の表現力の低さに、情けなくて泣きたくなった。

 多忙の中、時間を割いてくれているのに、己の無能さのせいで余計な手間をかけさせてしまっている。

 わたし如きに出来ることなんて、皆無なんじゃなかろうか?



「開発研究部門と製産部門が急ピッチで、配信魔具を制作中です。そちらが完成するまでは、キリク支配人(マネージャー)の通常業務と並行して、配信研修を受けて頂きます」


「さっきミルちゃんが、3日もあれば納品できそうって言ってたわよ」


 

 ここで、ユエ支配人マネージャーさんの新情報。

 ますたー曰く。配信魔具というのは、ダンジョンの過酷な環境に対応しうる厳しい規格を設けられている。

 高性能かつ人工知能搭載で、撮影〜編集まで担ってくれるんだとか。

 人の手での編集時にも、即時最適なサポートをしてくれるなどなど。

 難しいことはさっぱりだけど、すんごいことだけは分かった。



「ミルちゃん製の魔具は、クセ強めだけど使い心地が最高なのよねぇ」


「シロガネは多少の難はあるが、腕は開発研究部門随一だ。改悪しないことを祈るしかあるまい」




 ミルちゃんことミルコヴィッチさんは、ジュースなるものをくれたおねーさんだ。

 朧気だけど、刺激的で決して不味くは無いのだけど走馬灯がノリを過るような珍味だった。

 シロガネさんは、共用語圏内の中でも西の地域が使う方言が印象的なおにーさん。

 あと、変な髪型にされて戻すのが大変だった。




「そういうのフラグっていうんだよ。キリくん」


「む……」




 フラグ――旗?

 ユエさんが「フラグ回収されなきゃいいねぇ」と言ってるけど、ますたーはどこかに旗を置いてきたのだろうか?



「今後は基礎知識とギルド講座を集中的に組み込みます。どうせチャンネル開設まで3ヶ月はかかるでしょうし、その間に実務研修と座学で配信まで漕ぎつけます。よろしいですね、キリク支配人マネージャー


「拒否権あるのか。それ」


「当然ございません」


「だろうなぁ」



 兎にも角にも。

 研修が幕を開けたのだった。


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