*020*運営会議と配信者任命!?
前回までのあらすじ。
ドキドキ初仕事はギルド運営会議への帯同。
そこでなんとビックリ!
ギルドの悪評払拭のためギルド公式マスコットを拝命しちゃった☆
異世界辞典が謎の解説するのを、聞き流す――ことなんか出来なかった。
いやいや。情報過多で処理しきれないんですけど!?
「公式マスコットってラビちゃんに何やらせるの??」
「近年はロリコン――ギルドの次世代を担う若手の活動に、民衆は身銭を切り応援に勤しむと言います。ギルド公式迷宮配信はIGOが推進する事業の1つ。我らダンジョン*ワークも流行の波に乗らざるえないのです」
「意味が分からん。一体全体、どういことなんだ」
あ、よかった。ますたーも寝耳に水だったみたい。
配信というのは、ご主人様たちも視聴していたから知っている。
ほとんどがボッキュンボンなおねーさんが出てくる動画だったけど。無能な従魔には荷が重すぎる。
「総長に諸々報告した際に、勅命が発令されまして。配信市場は激アツじゃん。このビッグウェーブに乗るっきゃない――と」
「相変わらずチャランポランだけど。総長らしいわねぇ」
「配信で荒稼ぎついでにギルドの評判爆アゲせよ――それが総長からのお達しです」
「配信手当はつくのか。その経費は?」
「IGOからの助成もありますし、経費に関しては基本的にはこちらで持ちます。配信手当はIGO規定に則りますが、ギルド独自で相応の上乗せも検討中です」
詳細が書かれたと思われる書類が、ますたーに手渡された。
魔法陣が浮かび、書類の文字がますたーの中に入っていく。
異世界辞典によると『早読みの魔法』とのこと。
「委細承知した。謹んで拝命する」
預かり知らぬところで、拝命してしまった。
「それでは、運営会議を始めます」
何事も無かったように、円卓に着席する皆々様。
ますたーの膝の上に乗せられたことで、視界が広がる。
支配人さんの他にも知らない顔が、何人もいる。
「総支配人の隣で筆記してるのは、管理部門のイオリ部門支配人だ。ギルド運営を支える事務方や内勤の率いる――」
「私語は慎むか、死んでからにして。アホマネージャー」
「口が悪いが根は良い――危ないだろ。イオリ」
眉間に、クナイささってるぅぅぅぅ。
平然としてるますたーもどうかと思うけど、舌打ちしながら追尾するイオリさんとやらもおっかない!
「じゃあ、当面はギルド紹介って形で配信するの?」
「そのつもりです。従魔業務に付随して、配信することになるかと」
「キリクくんとこはギルド内外と絡むんがお仕事やし、ええやん」
「俺ァ反対だ。現場でウロチョロされちゃかなわん」
「キリクくんとこの子が派遣先に来るのはいつものことでしょ。視姦されるのが嬉しいからって、照れ隠しするのはどうかと思うわよ」
「あ゛ぁん!? 糞アマぶっ殺すぞ」
あぁ、話がどんどん進んでいく!!
「配信魔具って、支給品?」
「いえ。配信担当者のコミュニケーションスキルに難があるため、IGOの配信魔具は不適格と思われます。製産部門での魔具製造を依頼したく」
「ん――やってみる」
「それ、ウチも絡んでえぇ? 試したい魔法あるんよ」
「別にいいけど。余計なことしないでね」
着々と、包囲網が固められていく。
コミュ力&語彙力皆無だから放免されるかと思ったのに!
「配信企画や広報等は管理部門に一任します。専任者の選定を含め早急に対応してください」
「承知しました。総支配人
管理部門――イオリ部門支配人さんは露骨に態度が違うし。
もう何がなんやらだ。
「キリク支配人は早急にファミリアへの教育を。管理部門と提携し、従魔長のタマキが補助につくように」
「謹んで拝命します」
再びのタマキさん。
一体どこから現れたのかと思ったら、ますたー曰く最初からいたとのこと。
「では最後に、ギルド公式迷宮配信者の就任の挨拶をどうぞ」
総支配人さんにフラれて、声にならないは悲鳴が漏れ出た。
支配人さんをはじめ、幹部の方々と推測される視線が突き刺さり、体の震えが止まらない。
涙腺が決壊すると思ったその時、理性がショートしてしまった。
「…………ラビゎ、ますたーの、シモべ。けんか、じょーとー?」
あぁ。終わった。
本能のアホンダラ――とんでもない暴言を吐きおってからに!
もう何も考えたくない。
そう思ったと同時に、理性が完全に崩れ去ってしまった。
*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*
ギルドの今後を左右する運営会議。
大会議室に集った支配人はじめ各部門の幹部たちは一様に驚愕した。
「…………んま。んま」
テーブルに所狭しと並べられる料理皿。
それらを至福の顔で、貪り食う幼女。
「清々しい食べっぷりですね」
「会計額がエグい……これ本当に自腹切るのか?」
「当然でしょう」
大食で知られるトロールも吃驚の暴飲暴食幼女を連写する総支配人と、その傍らでため息をつくキリク支配人。
冷静沈着な姉弟弟子の珍しい光景に、到着した者たちは思わず2度見したのだった。
「迷宮配信も業務内容に追加されるが、大丈夫か?」
「…………はぃしん、たのしー?」
「ギルドの裏側や素顔が垣間見るのは、個人的には興味深い」
「…………ごはん、いっぱぃ?」
「必要経費で落とせるからな。たらふく食えるよう、最大限努力する」
「…………がんばる」
「ん――頼む」
会議も佳境に差し掛かったところでの、理性崩壊。
挙動不審っぷりにも驚いたが、本能の割合が増えるとここまで違うとは。
反応は各々だが、少なからず同僚や幹部クラスが動揺する様を、ユエは1人楽しんでいた。
「ユエ部門支配人、悦に浸っているところ恐縮ですが、今よろしいですか?」
「なになに、タマちゃん」
タマちゃん呼びにムッとする従魔長に、更にユエの口角が緩む。
「迷宮配信担当者のメンタルケアを依頼したいのですが」
「お願いしたいって顔じゃないけど?」
「他の方にお願いしたいのは山々ですが、適任者が居らず。致し方なくです」
苦々しげな表情のタマキの頭を撫でると、飛び仰け反り猫のような威嚇動作をされた。
寂しげに笑みを浮かべてみせると、罪悪感を感じたのであろう。タマキが一瞬怯んだ。
思惑通りの反応に、内心嬉しさを感じながらユエは言葉を紡いでいく。
「どうしてもっていうなら、それ相応の態度で示して欲しいわぁ」
「んぐ」
「私だってまがいなりにも上級ホルダーで、依頼が立て込るのよねぇ。部門支配人としても、それなりに多忙なんだけど?」
「むぐぐ」
苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべるタマキ。
5分ばかりの問答の末、覚悟を決めたのが見てとれたところで、ユエはすまし顔で言った。
「まあ、円滑なギルド運営のためにメンバーのメンタルケアは大切だし。新米ファミリアちゃんのためにも。力を尽くしましょう」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情に、面白いもの見たわと悦に浸るユエだったが。
「人を弄ぶ性根の悪さは否めませんが。心強いのは事実です。力添えに感謝します」
「急にデレるとは反則じゃない?」
兎にも角にも。
ラビの自我の薄さや精神的な不安定さは気になっていた。
一介の治癒士として、魔法医療側面における研究者の立場としても。
レッサー・エルフの種族観点から大きく外れた個体をギルド公認の立場で観察研究できる。
そのチャンスを逃す訳には行かない。
「……たすけて」
「あらあら。どうしたのラビちゃん」
「…………みんな、ぃじめる。ひどぃ」
ラビに腰元に引っ付かれ、意識を外に向けたユエは思わず吹き出してしまった。
ゴムを何個も指に通している、シロガネに髪を弄られたのであろう、丁髷が無造作に作られている。
その後ろではアレックスが油性マーカーを手にしており、ラビのデコには『根性』の落書き。
手には毒々しい煙が立ち込めるビーカー――ミルコヴィッチの調合ジュースだろうことは容易く推測できた。
「遊ばれちゃったのねぇ――と、これでよし!」
「……うゎーん」
『本日の主役』のタスキをかけられたラビは、大粒の涙を零して、キリクのもとに駆けていった。
「……天邪鬼」
「何か言った?」
「いぇ。クソめんどくせぇなと」
「ひっどぉい」
なんにせよ。
暫く退屈しなさそうね。
一抹の不安を拭うように、ユエは1人笑みを浮かべた。




