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*019*運営会議と重大発表!?

 目が覚めると、朝になっていた。

 どうやら、寝落ちしてしまったらしい。



「…………んっ」



 寝袋の中で小さく伸びをする。

 少しだけ目が覚めたところで、這い出でたところで、声をかけられた。



「ん――もう起きたのか」


「……ぉはょーござぃます」


「おはよう」



 ますたーは「書類片すから、もう少し待ってな」と言うと、背を向けられた。

 背中に近づくと、どうやら机に座って書類仕事をしているらしい。

 何をしてるのか近くで見たいけど、烏滸がましいことできない――なんて思っていたら、脇を抱えられ体が宙に浮いた。



「驚かせてすまない。感覚接続(リンク)がダダ漏れだったから、つい」



 書類になにやら書き込みながら、申し訳なさそうに顎をかくますたー。

 顔が急激に熱を帯びていき、ワナワナと体が震える。

 思考を覗かれるとかいう前に、自分の浅はかな欲望で

 ますたーを困らせてしまったことに、強い怒りをお覚えた。



「読めるか?」


「……あぃ」



 ますたーの問いに小さく頷く。

 猛省していても、身体は勝手にますたーの手元の書類を覗き込んでしまう。

 ああ、ますたーごめんなさい。



支配人マネジャーは管理職と言うが、うちの部門メンバーは優秀だ。承認印を押すくらいしかできない」


「…………」


「ディルク……副支配人サブマネージャーが実質統率している。俺は自分の仕事もままならん未熟者だ」



 自分を卑下するますたーに、かける言葉が見つからず閉口してしまう。

 従魔(ファミリア)が契約者に口出しするなんて、差し出がましいのだけど。

 どこか寂しげなますたーを見ていると、胸が苦しくてたまらない。



「本来ならファミリアを持つことも烏滸がましいんだがな。となりにいてくれるのは心強いもんだな」



 表情は能面のようなのに、哀愁漂うますたー。

 どうしたらいいのか分からず、ソワソワしていると頭をモフられた。



「寝起きのところ悪いんだが、早速付き合ってもらえるか」


「……あぃ?」



 条件反射で返事をしたものの、話を聞いていなかった。

 気持ちよくてウトウトしていたのは言い訳にもならないし、きっと接続接続(リンク)とやらで思考はダダ漏れなので、弁明の余地は無い。

 覚悟を決めて、ますたーの命令を静かに待つ。



「運営会議に行くぞ」


「…………ぃや。ムリ。しぬ」



 とんでも命令に、いつも以上にカタコトになってしまったが、即レスに成功した。

 何を抜かしやがるんだろう、このますたーは。

 異世界辞典によると、正式呼称はギルド運営会議。幹部層によるギルド方針や運営を左右するミーティングと解説しているけど、そんなことはどうでもいい!

 なんで、そんな大切な会議に行かなきゃいかんとですか!?



「幹部の従魔ファミリアは出席権がある。情報共有は大切だろう」



 それっぽいこと言われてるけど、そういう問題じゃない。



「会議とは名ばかりで、くだらん事をだべるだけの場だ。気負いするこたぁない」


「……ぅ、ぁ」


「茶菓子に軽食――食べ放題なんだが」


「…………ぃく」


「よし。頼んだぞ」



 あぁ。理性の脆弱さの何たるや。



「じゃあ、これ持ってくれ」



 差し出されたのは1枚の洋紙。

 中央には円と星、記号を組み合わせた――魔法陣が刻まれているだけ。

 手に取ったら終わる――そんな言い知れぬ不安が脳裏を過ぎるが、今のわたしは「おいしーの食べ放題」という欲望で頭がいっぱい。

 間髪入れず、受け取ってしまう。



「誰が来るか知らんが、よろしく頼む」



 ますたーの言葉は、展開した魔法陣の輝きと魔力の渦に巻き込まれてしまい、正確に聞き取ることは出来なかった。









 ☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆


 あの魔法陣は『転送魔法』だったらしい。

 転送先は総支配人ギルドマネージャー室の隣にある『大会議室』なる場所だった。



「重役出勤とはいい度胸ですね。キリク支配人マネージャー


「開始十五分前なんだが」


「その上、従魔ファミリアまで帯同して。見せつけですか。爆ぜなさい」


「連れてこいと言ったのはあんただろう……」



 頗る不機嫌そうな総支配人ギルドマネージャーさんと目が合った。

 失禁しそうになるのを何とかこらえ、身を震わせていると、こちらに近づいてくるじゃないか!

 折檻されると、身構えた時だった。



「ごきげんよう。お久しぶりです」



 頭をモフられたと思ったら、抱きしめられた。

 困惑しながらますたーに助けを求めると「好きなようにさせておけ」と感覚接続(リンク)で返答された。

 ますたーに命令されては身動ぎできず。されるがまま五分ほど終始無言でモフられた。



「朝ごはんは食べましたか?」



 ブンブンと横に首を振ると、総支配人(ギルドマネージャー)さんは、やれやれとばかりにため息を履いた。



「それは可哀想に。では、会議前にたんとお食べなさい」



 総支配人(ギルドマネージャー)さんがパチンと指を鳴らす。

 すると、料理が乗ったたくさんのお皿が突然現れた。



「食事代は、キリク支配人マネージャー持ちですからね」


「あ?」


「さぁ――好きなだけどうぞ」



 ますたーを伺うと『朝飯はしっかり食べんさい』とのこと。

 GOサインが出てしまったら、もう本能を御することは出来なかった。



「…………ごはん」



 肉・魚・野菜・麺・粉物――様々な料理を本能のまま貪り食らうこと小一時間。

 お腹が脹れ空腹が満たされると、理性が浮上して我に返った。




「いかがでしたか?」


「…………おぃしー、でした」



 理性の割合が本能よりも勝るほど、語彙力も上がるらしい。

 思考に近い言葉が出たことに驚くのもつかの間、あることに気づいた。



「チビがよく食うな。胃袋どうなってんだ」


「理性を御するとは聞いとったけど、オモロい子やなぁ」


「ねぇ。からかいがいあるのよ」


「あ、こっち見た」




 ディルクさんより筋肉隆々で額から生える1本角と八重歯が印象的なおにーさんに、頭をぼんポンと叩かれた。

 そうかと思ったら、迷宮服ツナギに白衣がミスマッチした狐面のおにーさんに、頬をつつかれた。

 男二人のそばでケラケラと笑うユエさんに、その後ろでこちらを伺う小柄なおねーさん。

 4人に囲まれ、体が硬直してしまった。



「大の大人が子供を囲むな。怖がってるだろう」


「肝っ玉のちいせぇ奴ウチにゃいらん。捨てちまえ」


「硬いこと言わさんな。カタブツ君は嫌われてまうよ?」


「キリクの威圧感の方が萎縮すると思う」


「そーだそーだー」



 ますたーの殺気に近いオーラに臆することなく、好き放題言うお三方とユエさん。

 何がなんやらで、パンクしかけた時だった。



「ユエは分かると思うが、彼女含めて4人とも部門支配人エリアマネージャーだ。警戒するに越したことはないが、怖がらなくていい」



 ますたーの言葉に刺があるような気がしたけど、今は考える余裕はない。

 部門支配人マネージャーだと言った。ということは、総支配人ギルドマネージャーさんの下――ユエさんの同格で、支配人ますたーの上に当たる存在だということか。




「派遣部門の部門支配人エリアマネージャー――アレックスだ。馴れ合う気はさらさらねぇ」



 筋肉ダルマの角にーさん改め、アレックスさん。

 ひと睨みで殺せそう強面のおにーさんだ。



「ボクぁ、シロガネ。魔法開発研究部門ゆーとこの部門支配人エリアマネジャーやらせてもろってます。よろしゅう」



 白衣のおにーさんはコンと指でキツネマークを作ってみせた。

 飄々としているけど、妖艶な空気と溢れ出る魔力に意識を刈り取られそうだ。



「ミルコヴィッチ。製産部門の部門支配人エリアマネージャーさせられてる」



 クセの強い赤に近いオレンジ髪から覗く尖った耳の気怠げなおねーさん。

 身長はわたしより大きいけど、目視で130センチあまりと小柄な方だ。



「久しぶりーユエお姉ちゃん――」


「ユエは治癒や魔法薬の調合を担う魔法医療部門の部門支配人エリアマネージャーだ」



 矢継ぎ早な自己紹介が終わり、一息ついたその時。



「彼女は元違法従魔(ファミリア)、現キリク支配人の首席従魔ファミリアで名をラビ。最狂最悪の無法地帯、異常者の集う魔窟、IGOの汚点(etc.)市井のみならず業界随一の悪名とギルド魅力度ランキング最下位脱却のため。ギルド公式マスコット兼迷宮配信者の就任をここに宣言します」



 おもむろに発表したのは総支配人ギルドマネージャーさん。

 ぱちぱちと拍手が起きるのを、呆然と眺めるわたし。

 何それ、聞いてないんですけど!?



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