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*017*ヒソヒソされたり着せ替えされたり

 ごはんの後は、マカウェストさんの腕に抱かれての移動である。

 バザールは混雑していて、踏み潰されないようにということなのだろう。

 だとしても!



「おい、アレみろよ――」


「ダンジョン*ワークじゃない。なんでこんな所に?」


  「アレ迷宮服ってヤツだろ? おっかねぇ」


「居住区で権威誇示かっての」


「魔窟ギルドが。あんな女子どもまでいんのかよ。世も末だな」


 

 悪意のあるヒソヒソ話が、耳に届く度に体がゾワゾワする。

 敵意では無いけれど、畏怖と嫌悪が混在したような視線。動じることなくマカウェストさんは相も変わらずホワホワした雰囲気のままだ。



「どういうわけか、市井の皆さんに煙たがられてるのよね。うちのギルド」



 声の大きいヒソヒソ話に、苦笑するマカウェストさん。



「仕事柄、どうしても荒事は避けられないけど、民間人への暴力はご法度。手を出したりはしてないのよ?  民家を壊しちゃったり、居住区に何かしら被害が出ることはあるけど。ちゃんとIGOから賠償されるし!」



「なんでかしらねー?」と首をかしげ、思案するマカウェストさん。

 んー。

 煙たがられる要素としては薄い気がしなくもない。



「平穏な生活を脅かされるのが嫌なのかもね。うちはヒューマンがほとんどいないし、混血とか訳アリのメンバーも多いから」



 どこか寂しげなマカウェストさん。

 居住区というのはダンジョンが存在しない土地のことで、一般人はそこで暮らしているという。

 ダンジョンは居住区以外の土地の総称で、魔物や魔具がわんさか眠っているとのこと。



「ダンジョンは民間人にとっては死地だからね。IGOが管理して、私たちギルドが調達や生産を担う。民間人の生活を支えてるハズなんだけどねぇ」



 わたしには難しいことは何一つ分からない。

 今までのご主人様は、ダンジョンに放り込まれたら指定されブツを持ってくるまで帰ることを許してくれなかった。

 馬車馬の如く働かされ虐げられてきたけれど、ご主人様もその周囲にも『気味の悪い化け物』として見られてきた。

 マカウェストさんが同じ視線を向けられているのは、なんだか悲しい。



「え、なになに? どうしたの!?」



 慌てるマカウェストさんに、なんでもないと伝えたくいのに、涙が止まらない。

  大粒の涙がポロポロと次から次へと溢れてくるのだ。

 ご主人様のところにいた時には、どんな命令でも折檻をされてものにも感じなかったのに。

  体がおかしくなってしまったんだろうか?



「あっお腹すいちゃった? とりあえず、これでも食べて」



 口に押し込まれたのは、棒付きの飴。

 フルーツのような甘さが口いっぱいに広がっていく。

 舐めていると、いつの間にか涙は止まっていた。



「落ち着いた?」


「……あぃ」


「よかったあ」



 ホット息を吐き胸を撫で下ろすマカウェストさん。

 迷惑をかけてしまったことを反省しながらふと思う。

 ますたーといい総支配人ギルドマネージャーさんといい、お菓子を常備しているのは、どうしてなんだろう?



「あ――ここ、ここ。ついたわよ」



 マカウェストさんに声をかけられ、我に返る。

 眼前の露店屋さんは六畳間ほどのスペースに、会計の道具と、簡易的なフィッティングルーム(異世界辞典より)が置かれているだけ。

 初老の男性ヒューマンが店番をしており、マカウェストさんを見ると、顔を顰めた。



「客かと思ったら、じゃじゃ馬娘か。冷やかしならけえんな」


「馬じゃなくて、フォーンだって言ってるじゃないですかぁ」


「あぁん? やっぱ馬鹿じゃねぇか!!」


「繋げないでくれません!? 鹿じゃなくてフォーン!!」



 異世界辞典によると、半神牧人といって太古の人々から神の血族と呼ばれた種族がいるらしい。

 その中でも下半身が鹿を彷彿とさせる種族をフォーンと呼ぶらしい。

 マカウェストさんはフォーンという種族で、露店の主(と思われる)とは顔見知りということだけは理解した。



「いつの間にガキこさえたんだ。あぁん?」


「違いますぅ。後輩だもん!」


「店前でがなんな。客が帰っちまうだろぅが」


「はぁ? 一人もいませんけど!?」


「今だけだっつうの。これから、くっかもしんねぇだろ!!」


「閑古鳥なきっぱなしじゃないですか!!」




 眼前で繰り広げられる、激しい舌戦についていけずか頭からシューシューと煙が出かけたその時。




「嬢ちゃん、名はなんてぇんだ?」


「…………ひぃぃ」



 唐突に意識を向けられ、声にならない悲鳴が漏れ出た。

 不敬を働いてしまったことになるのではないなという不安で、震えが止まらない。

 マカウェストさんはほっとため息を吐き、わたしの頭をモフりだすし、さらに混乱してしまう。



「おっさんは此処――服処ダナザールの出張露店の 担当でね。変人だけど、怖くないから大丈夫よ」


「誰が変人だコラ」



 頭をポリポリとかく、露店の店主改めて担当さん。



「ガキにゃ服屋なんぞつまらんだろうが、ゆっくりしてってくんな」



 服屋というのは、知っている。

 ご主人様やその家族、部下などが『服自慢』をよくしていたから。

 ブランドなるめちゃくちゃお高いモノや、老若男女や種族で様々な服があるということも。

 1つ、解せないのは。



「きゃーっ。かわいぃっ。ワンピ似合いすぎっ。かぼちゃパンツ履かせたい!!」


「お前は変人つーか、変態だな」


「飾り気のない水色のロングワンピが、一瞬でハイブランドに見えてきた!!」


「うちはリーズナブルで高品質が売り。根っからの庶民派よ。ぼったくりハイブラと同列にしてんじゃねぇ」

 

「ラビはこんな――僻み嫉みの塊みたいな可哀想な大人にならないでね」



 わたしは何故、着せ替え人形が如くとっかえひっかえ、服を着させられているのだろうか?



「こんなガキが、魔窟の新人ねぇ。世も末とァこの事だな」


「魔窟じゃないし。野生児と問題児が絶妙なバランスで学級崩壊を免れてるからギリギリセーフです」


「意味わかんねぇよ」


「それにラビは、支配人マネージャーのファミリアですよ。高給取り!」


「支配人ってお前が左遷されたトコのか?」


「そうそう。て――左遷じゃないもん。要職も要職。縁の下の力持ちですよ!」


「お前の支配人マネージャー自慢はうざったくてたまらん。とっとと巣穴に帰れ!」



 同じ悪口なのに、敵意が感じられないのは何故なんだろう。

 露店担当さんは心做しか楽しそうだし、マカウェストさんに至っては先程までの寂しげな顔はどこへやら。とても表情は晴れ晴れとしていて、キラキラ輝いている。



「あ、領収書お願いします。ダンジョン*ワーク『迷宮案内・ロジスティクス部門』で!」


「相変わらずよく分からん部門だな。お前んとこは」


「部門統一された時に、決まったらしいですよ」



 どうやら、わたしの雇用主――キリク支配人マネージャーは2つの部門を統括しているらしい。

 迷宮案内はガイドだとして、ロジスティクスとはなんなのか?



「ロジスティクスっていうのは依頼品はもちろんだけど、ギルドの各部門からの注文品を調達して納品するんだけどね。私はさっきも言ったけど、そっち寄りなわけ」


「要は雑用係だろ」


「違いますぅ!!」



 だとしても。

 わたしが着せ替えさせられた服や寝巻きを大量購入(計10着)して領収書を切っているのだろうか?



「ラビの日常品を買うのに、女子供の勝手がわからん。女同士の方がいいだろうって。役得だわぁ」




 どうしよう。意味がさっぱり分からない。



「毎度ありぃ」



 ご機嫌のマカウェストさんに腕抱きされ露店を後にする。

 情報過多で処理しきれず、手をヒラヒラさせる露店の担当者さんに、頭を下げるのが精一杯だったのは言うまでもない。



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