*013*ファミリアのあれこれ
怒涛のファミリア登録と雇用契約が終わり、正式に、ますたーの所有物になりました。
「二度と、所有物なんて言うな」
思っただけなのに、ますたーにコツンと頭を小突かれた。
「返事は?」
「……ぁい」
納得はしていないけど、渋々頷き返す。
ますたーの命令は絶対だから従う他ないのだけれど、認識は間違ってはいないのにだ。
「所有物同然だったのは遠い過去の話ですよ。今は魔導職の一角を担っています」
異議申し立てと言わんばかりに手を挙げたのは、タマキさん。
彼女曰く、相次ぐ摘発で違法な従魔はめっきり数を減らしつつあるそうだ。
「…………まどー、しょく?」
「魔法を生業とする職種のことです。古くは魔女を指したそうですが」
「…………」
「俺か? ダンジョンガイドも、魔導職に該当する。まあ、厳密には業務によって呼称は違ってくるんだが」
なるほど。さっぱり分からない。
兎にも角にも。反対多数で否決されてしまったからには、認識を改める努力をせねば。
「漸く、全上級ライセンスホルダーと幹部クラスに常勤ファミリアがつきました。感謝感激雨あられです」
「…………じょーきん?」
「ファミリアとの契約は原則自由だが、上級ライセンスホルダーと組織運営に携わる『幹部』には常勤のファミリアが1人以上つけろとIGOが規定を作ってな……」
魔導職には色々あるけど、その全てがライセンス制とのこと。
取得資格や実績によってランク化されており、上級ライセンスホルダーと呼ばれる人は限りなく少ないらしい。
ギルドでの役職は管理職であり、ますたーはギルド運営にも携わっているんだとか。
――なのだけれども。
噛み砕いて解りやすくしてくれているはずなのに、全く頭に入ってこない。
小さなため息を吐きながらも、愚鈍さに憤ることなく『クソみたいなルールだ。気にするな』と頭を撫でられた。
「当ギルドでファミリア規定の未達者は、上級ライセンスホルダー兼幹部たるキリク支配人だけでしたから。罰則金も嵩んだものです」
「あの手この手でファミリアを付けようとしたけど、全身全霊で拒否してたからねぇ」
やれやれと言わんばかりに首を振るお2人。
異世界辞典の解説によると、ファミリア規定に限らずIGOの規定や所属ギルドの規定に違反すると罰則を課せられるとのこと。
ファミリアを持たなかったますたーはIGOとギルドの双方から相当な罰金を徴収されていたらしい。
「お嬢さん――ラビさんでしたね」
名前を呼ばれて、大袈裟に体が跳ねた。
「前にも言いましたが、別に取って食べたりしませんよ」
呆れたように猫っぽいおねーさん――タマキさんに戒められてしまう。
今まで注視されるということは、命令される時か折檻される時と相場が決まっていた。
条件反射で身構えてしまうんだから、自分じゃどうにもできない。
「タマキはギルドの従魔を統括している。今回ラビの指導係を買って出てくれた」
「登録上は『1ツ星』ですが、一部を除き見習としての加入となります。情報漏洩防止のため致し方なく、です」
新情報の続出に頭がついていけず、思考回路が焼き切れ頭からシューシューと煙が上がる。
「従魔は業務随行のため、多様なスキルを求められます。制度が複雑なので詳細は省きますが、最初は誰しも見習として心得や基本的な技術を修得するのですが」
タマキさんは、長く深い溜め息をつき「あなたの場合、違法従魔時代に一つ星に昇格してやがるんですよ」と苦々しい物言いで締めくくった。
「違法合法に限らず従魔としての経歴や昇格は、正式な手順を踏んでさえいれば可能なのよねえ」
「従魔としての価値が上がれば、売値も上がります。が、違法従魔が一般を通り越して星持ちなんて、聞いたことありませんよ」
見習から昇格すると「一般」になるらしい。
大半の従魔はこの階級にいるとのこと。
星持ちというのは、三段階に別れるらしいのだけど、『一ツ星』に昇格するのは狭き門。数十年の修練を詰んだ、一流のファミリアでも困難なんだとか。
「何度鑑定をしても従魔歴の偽証はなく。当ギルドの従魔として再教育を施すようにと。総支配人の勅命です」
複雑な事情があるのは、何となく理解できた。
何がなんやらだけど、迷惑をかけたくない。しっかりお勤めしよう。
なーんて。決意したところで、目の前が真っ黒に染まり、何も分からなくなった。
*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*☆*
「この程度でフリーズとは。先が思いやられますね」
ラビは情報を処理しきれず、気絶してしまった。
やれやれと首を振る従魔長と対照的にユエはのんびりと笑った。
「矢継ぎ早に専門用語を詰め込まれたら、混乱するのも無理ないわよ」
「この体たらくでは、まともに業務遂行できるとは思えませんが?」
ファミリアの業務は多岐にわたる。
キリクは、ダンジョンでの作業は勿論のこと。ギルド内外の者と深く関わっている。
控えめに言って『コミュ力皆無・常識欠如・内端者』の三重苦を抱えるラビには不適格な契約者である。
タマキの物言いに、キリクはゆっくりと口を開いた。
「ラビの――暴力と恐怖で支配されてきた過去は確かに悲惨だ。常人ならとっくに狂い壊れてるだろう。だが、此奴はどんな環境でも耐え忍び、心を喪うことなく生き抜いてきた」
「頭のネジはだいぶ緩そうですが」
「正規従魔ですら、大半が一般クラスで去っていく。ラビは生きるために必死に足掻いて『一ツ星』まで上り詰めた。賞賛に値すると思うが?」
「それは百も承知です。現場に出るのは時期尚早だと言ってるんです」
タマキが『論点をずらさないでください』とブチ切れかけたところで、キリクが制し言葉を紡ぐ。
「登録上は『一ツ星』だろうが、ギルドじゃ『見習』として見られる。従魔長が四六時中指導しちゃあ無理がある」
「それは契約者が支配人ゆえの処置と説明を」
「年端もいかぬガキの言動に目くじらを立てる奴は少ない。先は長いんだ。ゆっくり育ちゃいい」
飄々としながらも有無を言わせぬキリクに、従魔長は喉元まで出かかった抗議を飲み込んだ。
「子供とはいえ。ダンジョン*ワークの従魔である以上、最低限のマナーと教養は譲りませんからね」
「健全な従魔の育成の重要性は理解しているつもりだ。手の空いた時間で、教えてやってくれ」
「承りました」
渋々ではあったが、教育方針がまとまったことにタマキは安堵した。
これでらスケジュールの中に教育カリキュラムを組みこめる。
「これから業務はどうなさるつもりで?」
「いつも通り仕事をするだけだ。変わることといや、二人暮らしになるくらいだろ」
「何も考えてないよね。それって」
「一緒にいりゃ、否が応でも人馴れするだろう」
「安直な……」
「なるようになるさ」
愕然とするタマキと、ケラケラと笑うユエ。
2人の指摘に動じないように見えるキリクだが、何も考えていない訳では無い。
「過去の境遇がどうであれ、これからは真っ当に生きられるようにする。それが俺なりのケジメだ」
「うわー。くっさ!」
「重すぎて胃もたれしそうです」
周りの都合で、虐げられ放棄されを繰り返した違法従魔のレッサー・エルフ。
安全な養護院で健やかな生活をさせることも考えたが、従魔となることを断固として譲らなかった。
過去の教育という名の加虐と支配を刷り込まれた結果であり、そこに本人の意思がどれだけ残っているのかは甚だ疑問だが。正式に契約者と従魔の関係となった。
ならば、せめてラビが手元から去る時に、真っ当な人生を送れるよう、ありとあらゆる手段を講じよう。
そして、その決意表明こそが、青臭く小っ恥ずかしいセリフとなった。
「ダンジョン*ワークの品格を落とす様なことがあれば、それ相応のペナルティーがあること。肝に銘じてくださいね」
「留意する」




