第六話 もうひと勝負
ーー砦の外にて、ポテトとミコトが対峙する。
二人の対戦ルールは単純である。どちらかが、身体にタッチすれば勝負あり。
ただし、武器や魔術は使用しない。単純な身体能力での勝負だ。
『軽いゲーム』と笑うポテトに、勇者パーティーは眉をひそめた。ポテトとミコトでは身体能力の差は歴然としている。
ポテトは魔術を操るようにも感じられない。ポテトの意図を掴みかねた勇者パーティーの面々は、困惑する。
ミコトは憮然とした表情を浮かべていた。
(やれやれ。『こんな茶番に付き合ってられるか』とか思ってんだろーな)
ミコトと対峙したポテトは穏やかな笑みを浮かべている。
「ポテトちゃん、頑張ってねぇ~」
と、その勇者が面白がって黄色い声援(?)を送る。
「……」
「……」
ポテトとミコトの額に青筋が浮かぶ。
精神的には、互角か――。
さて、審判役の勇者が二人を見定めて、
「イクわよ~。始めッ!」
合図をした。
一閃、ミコトが踏み込む。ミコトは真正面から、ポテトの胸元に手を伸ばした。
ーーこのままタッチされ、終わりだ。圧倒的な速度である。ポテトがなにを仕掛けようが反応できるよう警戒も怠ってはいない。
そして、ポテトの胸元にミコトの手が触れたと思った瞬間、ポテトが消えた。
「なっ!?」
ミコトが驚愕すると同時に、ミコトの背中に掌の感触が――ポテトである。
「しまった……!」
呆然とするミコト。
「それまで! ……やるわねぇ、ポテトちゃん」
勇者がすかさず、勝負あり、の声を上げる。
「一本とれましたな」
ハッハッハ、と高笑いをするポテト。
「ぐっ、魔術は使わないはずだ」
「魔術ではありませんよ。『特技』です」
ポテトを非難するミコトに、ポテトは説明する。
ーーセツカ大陸には、稀に『特技』と呼ばれる特殊技能を持つものが産まれる。
魔術とは異なるが『火を出す』や『音を鳴らす』など多岐にわたる。
ポテトの『特技』は【初めの接触】。
対峙する者に必ず初めに触れることができる、というものだ。
触れる、という行為のみが有効で、攻撃などはできない。あまり、役には立たない……。
ミコトは、ポテトの思惑にまんまとハマったことになる。
「……茶番だ。模擬戦のときの指弾といい、今の『特技』といい、戦闘には関係ないお遊びだ」
ミコトはたまらずポテトを睨む。
「……わかってねーな」
ポテトが笑みを深める。
「なんだと!?」
それがミコトの癇に障る。
「指弾が当たった。身体に触れた。ーーそれだけで死ぬこともあるだろうが。俺の指弾を全部防いでたのは勇者だけだ。他の奴等は小石を当てられたと思って無視してたようだが……。防具や防御装置を無効にする特殊攻撃だってあるだろうが」
ポテトは一息つき、
「お前らは天狗になりすぎて、足元が疎かになってんだよ。プライドが高すぎて、細かいことに目を向けない。互いに協力もできない。そんなんじゃ、すぐ死ぬぞ」
と言い放つ。
これは、ミコトだけでなく、勇者パーティー全員に向けた言葉だ。
「……」
ミコトは押し黙る。
これまで、勇者パーティーを諫める者はいなかった。他とは隔絶した実力を持つが故。
ーーしかも、勇者のパーティーという立場があるため物を言うのが憚られるのだ。
「……ぐうの音も出ないわね」
しばらく間を置き、勇者がため息をつく。
他のメンバーも雰囲気が悪い。ポテトに言われたことは正論だろう。
が、すぐには呑み込めない。これまで、自分だけを信じて強くなってきたのだ。
それを否定されたようで、受け入れ難かった。ポテトは、その様子を見て笑みを浮かべる。
「ーーんじゃ、ま、もう一勝負いきますか」
そして、軽い口調で言った。
「もう一勝負?」
それを聞いた勇者は、目を瞬かせた。