第五話 ポテト、タイマンすーー
ーーさて、じり貧状態の戦闘であるが、少しずつ綻びは生じる。
勇者パーティーの一人、ミコトが焦れた様子を見せていた。
勇者がコミカルな動作でポテトの挑発に応じ、他のメンバーに負担がかからないようにしていたようであるが、ミコトはそれを知ってか知らでか限界に達した。
「くそぉぉっ!」
突貫ーー!
やや火力に劣るがゆえの、捨て身の攻撃である。
ガァッ!
そこへ狙い澄ましたかのような一撃が放たれる。
タマデニウムの尾による突きだ。
これまでタマデニウムは大振りな攻撃ばかりをしており、尾による攻撃は身体全体の動作を伴うものばかりだった。それが、この突きは鋭くコンパクトなもの。
ミコトは意表を突かれた。
「!?」
ミコトは被弾を覚悟するが、捨て身の攻撃を放つタイミングだったため防御もままならない。
カウンターの一撃を受け――ることはなかった。
「フウッ!」
大きな呼吸音とともに、勇者がタマデニウムの攻撃を受け流したのだ。
「すまん、助かった!」
勇者に礼を伝えるミコト。
「いいのよぉ。その調子で、ガンガンイキましょ!」
それにウィンクで返す勇者。
(そろそろいいかな……)
ポテトはその様子を見て、潮時を判断する。
これ以上の続行は怪我の元だろう。もともと、模擬戦の目的は勇者たちの『弱点』を体感させるためのものである。
勇者も、お目当てのタマデニウムと闘えたので満足しただろう。ということで、目的は達したはずだ。
なお、勇者たちの弱点とは、
連携ができない
ことであった。
個々の自我が強すぎて、ワンマンプレーに走りがちなのである。S級の人材は貴重である。
なので、S級の実力を持つ者は周囲からチヤホヤされる。ましてや若くしてS級になった優秀な人材で、勇者パーティーに抜擢される程だ。
自尊心も人一倍強いだろう。そういった人物であるからこそ他人と協力する機会は少なかったのだ。
現に、タマデニウムを前にして連携が取れず、苦しんでいる。
ーーそれをわかっているから勇者は【竜】という強敵と闘いたかったのだろう。経験を積ませる意味も含め、一度打ちのめされて、己を知らねば今後の成長がない。
実力的には、全員が協力すればタマデニウムにも負けることはない。また、ポテトの挑発に乗ってしまうようでは精神的に未熟だ。
ミコトだけが反応をしたようであったが、他のメンバーもポテトの挑発に乱されていた。
ポテトにはそれが透けて見えた。
(安い挑発に乗るようでは、先が思いやられる。アルベルトが心配するのも無理はないか。まあ、俺くらい精神修養ができた大人になるには、まだ年月が必要だ)
勇者パーティーを冷静に分析するポテト。
勇者たちはまだ若い。たっぷりと時間はあるのだ。弱点については、後で修正していけばいい。
若くしてS級の実力を身につけた逸材揃いなのだから、これからどうとでもなる。
ある程度の時間は必要かもしれないが。
「ポテトちゃん」
傍観するポテトに勇者が声をかける。
「……なにか? そろそろやめにしますか?」
ポテトが勇者に応じると、
「そうね、ありがとう。楽しかったわ、チュッ☆」
という勇者の暑苦しい投げキッスが返ってくる。
ポテトは思わず青筋を立てる。
……ポテトも、精神修養はそんなにできていなかった。
◇◆◇
模擬戦の後は撤収準備である。
(……しかし、勇者の野郎は派手に攻撃するだけに見えて、細かいとこにも目が行き届くな。妙に老成している……)
ポテトは騎士たちの撤収作業を眺めつつ、勇者パーティーに目を向ける。
勇者はパーティーの連携不足を自覚し、円滑にメンバーが動けるよう気を配っていた節がある。
「ポテトちゃん、今日はありがとぅ。参考になったわ」
勇者がポテトに近付き、話しかけてきた。
「お役に立ててなによりです……」
勇者の軽い口調に、ポテトは苦笑する。
勇者も苦労しているのかもしれない。ミコトが一番若く、他のメンバーも二十代だ。若さゆえ、血気盛んであろう。
そこへ、ミコトが何か言いたげに近付いて来る。
「おや、お疲れ様でした」
ポテトがミコトに話しかける。
「……守護竜の強さを体感できて、勉強になった。しかし、男爵の挑発はどうかと思うが」
案の定、一番若いミコトがポテトに苦言を呈す。
他のメンバーも、ミコトの言葉に合わせてポテトに視線を送る。
同じく、ポテトの行為について快く思っていない様子だ。それを察知した勇者の表情が、一瞬陰る。
(あ。これは、わかってねーな)
ポテトは、内心イラッとした。
しかし、これは失礼、と慇懃に会釈をする。
慇懃に会釈をしたが、顔を上げると、嫌らしい笑みを顔に貼り付けている。
(もう少し、気合入れてやるかーー)
そしてポテトは、不敵に言った。
「では、ミコト殿と私でーー、一対一で、もう一勝負いきましょうか」
「なに!?」
ポテトの言葉に、ミコトが思わず声を上げたーー。