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第四話 ジャガ領の守護

 翌朝ーー、


「ーーは?」


 勇者がポテトの言葉を聞いて絶句した。


「はっはっは。いや、ですから私と模擬戦をしましょう。稽古をつけてさしあげます」


 ポテトが勇者に、再度伝える。

 朝食後、ポテトがくつろぐ勇者たちに伝えたのだ。

 ――せっかく武者修行に来たのだから、俺が稽古つけてやるよ、という内容である。

 突如として上から目線である。

 ーーポテトが連れて来ている騎士たちは強い者でA級。ポテトや騎士たちでは、S級の強さを持つ勇者たちには敵わないことは明白であった。

 このポテトの発言には、勇者たちの矜持が傷つけられ――てはいない。しれっとしている。


「……」


 反応の薄さに、ポテトは苦い笑みを浮かべた。

 安い挑発には乗って来ない。


「いいわよぉ~。せっかくだから、お願いしようかしら。どこで、どぉやるの?」


 やれやれ、しょうがないわねぇ、といった感じで勇者が応じる。


「今から、うちの『もの』を呼びますので少々お待ちください」

「呼ぶ? もぉ、早くしてよ。ポテトちゃん☆」


 ふう、と溜め息をついてウインクを飛ばす勇者。


「……」


 上から目線で、勇者たちのペースを崩そうとしたポテトが、すっかり挑発されて額に青筋を立てた。

 ーー精神戦では、どうも分が悪いようだ。

 なんとか気を取り直し、ポテトは自分の従者に言いつけて通信用の使い魔を放つ。



 ――宿泊している砦の外に出て待つことしばし、辺りが陰った。

 ポテトたちの周囲が薄暗くなったのだ。


「……っ!」


 勇者パーティーの誰かが息を呑んだ。

 勇者パーティーは瞬時に重苦しい臨戦体勢を取った。

 ーー勇者パーティーが臨戦体勢を取っている原因は、ポテトが呼んだ『もの』にある。

 到着したのは、


 【竜】


であった。

 【竜】は雄大な翼を器用に動かし、ポテトたちの上空にホバリングしている。その姿には理知的で静かな佇まいを感じさせられる。

 ーーまるで、生態系の頂点に君臨している余裕を誇示しているかのようだ。その兜を被ったような頭部からは穏やかな目が確認でき、ポテトを認めるとわずかに視線を止めた。

 そして【竜】は巨躯であるのに、しなやかな動きでポテトたちの近くに着地した。

 一同、押し黙ったままだ。


(――デカい)


 一同が感じたであろう感想だ。

 何度も見たことがあるポテトも、威圧される。

 頭までの高さは十五メートル、全長で二十メートル程だが数値以上に力強さを感じる。


 『ショベルカーに翼をつけたみたい』


 ポテトの率直な感想である。

 が、この有翼のショベルカーは咆哮で対峙するものの戦意をくじく。

 体躯と純粋な力で戦闘を優位に運ぶ。

 飛翔し、高所を取る。

 さらには、殺傷能力の高い炎を放射するという暴力装置も兼ね備えていた。


(ーーああ、なんか覚醒したばかりの頃を思い出すな)


 ポテトは勇者たちの様子を見て、自分の前世の記憶が甦った当初のことを思い起こす。


 ――とにかく、シビれたのだ。


 見るもの聞くこと全てが驚きで、新鮮だった。

 食事、衣服、睡眠、排泄、言語、魔法、魔獣、人種……。

 触れるもの全部が、強烈な衝撃を与えてくれた。肌が粟立ち、気分が高揚した。

 【竜】を初めて見たときは、怖さと嬉しさで卒倒しそうだった。


(勇者たちも、初めて【竜】を見てビビったろうな。そして、どう反応するか……)


 ポテトが感慨に耽っていると、


「まさか、本当に【ジャガの守護竜】タマデニウムが出て来るとはね……」


 勇者が呆然と呟く。


「驚かせることが、できましたかな? 他ならぬ勇者パーティーの皆様を相手にしますので、特別に呼び寄せました」


 ポテトはその呟きを聞き、口角を上げた。

 ポテトは、ある手段で【竜】を呼び寄せることに成功した。

 色んな要因が重なり、ポテトが昨夜のうちに必死に頼み込んだところ、呼ぶことができた。後日、そのための代償を払わなければならない約束だが……。

 それを差し引いても、勇者パーティーの度肝を抜くことができたため、ポテトはご満悦である。



 ――なお、この【竜】は【ジャガの守護竜】タマデニウムという。

 ジャガ領に生息する竜である。ジャガ領を守ってくれる存在で、通常はポテトの館近くの森に棲む。

 まだ若い竜であるが、竜種であるためにS級の力を持つ。有事の時以外では、年に数度しか動かないという性質で、姿を見ることができるのは稀だ。

 ポテトにはタマデニウムを動かすことはできないが、ある方法があった。そのある方法とは――。



「イクわよぉ! どいしょーッ!」


 という勇者の号令の元、模擬戦が始まった。

 ポテトが余韻に浸る間もない。模擬戦は勇者パーティーの、


 ①勇者

 ②【鋼の戦姫】ナナル(重戦士)

 ③【隼】ミコト(軽戦士)

 ④【深森の大魔導士】ヨウキ(魔術師)

 ⑤【大海の神聖者】ディアナ(回復・補助魔術師)


 に対して、


 ①タマデニウム

 ②ポテト


 が闘うという形である。

 また、模擬戦であるため勇者たちはいわゆる『必殺技』、タマデニウムは『息吹き』を使わないようにルールも取り決めた。



 さて、闘いの状況としては、勇者が中央から切り込み、戦士のナナルとミコトがそれに続く。

 魔術師のヨウキとディアナは後方から攻撃と補助の魔術を使う。

 勇者パーティーは必死にならざるを得ない。タマデニウムの攻撃も防具のある箇所を手加減して打ってくるものだが、とにかく痛い。ディアナの回復魔術で怪我は回復するが、痛みは消せないのだ。

 ――互いに攻撃すること約十分。

 両者ともに攻めあぐね、じり貧である。

 ……一人を除き。


「ほらほら~。動きが鈍いんじゃ、あ~りませんか?」

「惜しい! もうちょっと!」

「私もそろそろ本気をだしますよ!」


 などと茶々を入れながら、遠距離攻撃を加えるポテト。

 攻撃の方法が指弾であり、ペシ、と小石が防具に当たるのが癪に障る。露骨な挑発であるため、勇者パーティーは誰も反応しな――いや、反応する者が一人。

 勇者である。


「あらあら」

「つんつーん」

「どうぞ、キてぇ」


 などと、おちゃらけてポテトの指弾を防ぐ。

 ただよく見ると、剣や拳で叩き落とした指弾が細切れにされていたり燃え尽きたりと、余力を感じさせた。同時に、タマデニウムと油断なく交戦しているのだから底が知れない。


「……」


 ポテトはそれに気づいて、嫌な汗をかく。

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