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第三話 【北の森】から

 ポテトの悪い予感は的中した。

 勇者はパーティーを引き連れて、こともあろうに【北の森】へ突撃したのだ。



【北の森】とは――。

 ポテトの領にある、強力な魔獣が多数生息する森で、別名【魔の森】とも呼ばれる。

【北の森】では貴重な魔獣素材が多数獲れるため、ポテトの領は魔獣素材の流通が盛んだ。

 そのため、ヒト、モノ、カネが大きく動く。

 従って、領を潤すものも大きい。――これが、勇者に荒らされると魔獣素材の流通バランスが崩れる。

 素材が溢れると素材の価値が下がるし、勇者たちが去った後に素材が激減していることも考えられた。勇者たちの武者修行としては最適な場所かもしれないが、森の生態系が乱れかねない。……ポテトは身震いをした。



 なお、勇者のパーティーは


【鋼の戦姫】ナナル(重戦士)

【隼】ミコト(軽戦士)

【深森の大魔導士】ヨウキ(魔術師)

【大海の神聖者】ディアナ(回復・補助魔術師)


というバランスの取れたメンバーで、全員S級の強さ……つまり『無敵状態』であったーー。


「ヒャッハー! 入れ食いよォ~」


 小指を立てながらA級魔獣を刈る……狩る、勇者。

 妙にくねくねしているが、強い。


「……」


 陣中見舞いと称して足を引っ張りに来たポテトは額に青筋を立てる。


(既に生態が乱れているッッ!)


 それにしても、強いはずの魔獣がまるで雑草のようだ。 

 ポテトは再度、震えた。



 ――通常、国が抱えるS級の戦力は厳しく統制され、気軽に動けない。

 S級一人で国同士の均衡を崩したり、生態系を狂わせる原因になるからだ。ポテトの領にも数人のS級がいるが、それぞれ重要な任務で動かすことはできない。


(反則だッッ! イレギュラー過ぎるだろ!)


 ーーなのに、勇者には四名ものS級の人材が従い、自由に動いている。

 勇者たちがS級魔獣に手を出すのは時間の問題であろう……。ポテトは、白昼なのに悪夢が見える。


「ハァーイ☆」


 魔獣を狩って、ご機嫌な勇者がポテトに手を振った。


「……」


 ポテトは、勇者が魔王が見えた。



 日が傾いたころーー、


「……まあ、今日はこのくらいね☆」


 勇者がそう呟いた。

 A級魔獣が約二十体狩られており、いつの間にか日が傾き始めていた。


「……お疲れ様でした」


 白くなったポテトは、それだけを呟いた。

 その後ろではポテトが手配した騎士たちが、勇者たちの食事の用意や拠点の警戒に従事している。

 拠点として使用しているのは、【北の森】に建てられた砦であり、勇者たちに個室を用意できるくらいの広さがある。明日は、森の深い地点にある砦へ移動する予定だ。


(一日に二十体……)


 通常、ひとつのパーティーで狩る魔獣の数は二~三体がいいところであろう。

 今はまだA級魔獣であるが、明日からは森の深い所へ移動する。明日からはS級魔獣が狩られるかもしれない。

 ポテトは領の運営上、S級魔獣の素材が市場に出回るのを調整している。勇者たちが倒した魔獣の素材は、領で買い取った方が良いかもしれない。

 ……このペースで『武者修行』されたら、素材の価値が暴落しそうなのである。


「……ぐぬぬ。明日は、俺が朝から勇者の道案内をするぞ。そして――」


 ポテトは自分の従者に宣言した。


「早めに王都へ追い返してやる!」



 ――二日目。

 勇者一行は【魔の森】の奥に移動。

 戦果、A級魔獣三十体。

 ポテト、胃が痛くなる。


 ――三日目。

 前日と同じ場所にて。

 戦果、A級魔獣三十体。

 ポテト、白目をむく。


 ――四日目。

 【魔の森】最奥部手前に移動。

 戦果、A級魔獣四十体。

 ポテト、痙攣する。


 ――五日目。

 前日と同じ場所にて。

 戦果、A級魔獣など四十体。

 ポテト、泣き笑いを始める。



「ふぅ……。まあ、こんなものねぇ」


 勇者が物憂げに溜め息をついたのは、六日目の夜だ。


「おお! 満足されましたか!? それは良かった!」


 思わず喜悦の声を上げるポテトは、勇者の飲み物に盛るはずだった下剤をポケットに収納する。

本日も魔獣を四十体ーー。しかも、その内二体がS級魔獣であった。

 ……それを見たポテトは、魔王に魂を売った――。


(勇者に下剤を盛るッ)


 そんなことを、密かに決意していたのだ。


「いつまでも、こんなところにいられないもの。もう、帰るわぁ」

「ああッ……」


 真っ白に燃え尽きたポテトは、歓喜の嘆息をする。


(S級魔獣が狩られた時には、もう駄目かと思ったが……)


 ーーまだ、被害は軽微だ。 

 A級魔獣の素材はまだいい。S級魔獣が問題だった。それが二体だけ、とは僥倖である。


「みんな、今日は早めに休みましょう」


 勇者の一声で、勇者パーティーは互いに目も合わさずにそれぞれの部屋に引き揚げていく。


(……ん? なんか引っ掛かるな?)


 ポテトはその様子を見て、違和感を覚えた。



 ーーその夜、


「……」


 その夜、ポテトは簡易ベッドで横になり、眠れずにいた。

 勇者たちのことを考えていたのだ。


(なにか、引っ掛かるような……。ふーむ、勇者たちはフカフカベッドなのに、俺は簡易ベッド……。許せん! ……じゃなくて、A級魔獣は狩りまくってたけど、S級魔獣は二体だけ?)


 寝返りを打つ。


(そういや、全員で出撃するかと思いきや、二~三人で出るだけで、あとは留守番だったな。……うちの領に配慮した? あまり魔獣を狩り過ぎないように?)


 考えても答えは出ない。


(ーーもう帰るって言ってるし、いいか)


 そろそろ眠れそうだ。

 明日は、森を出る。


(休めるうちに休んでおこう……)


 ポテトは安らかに眠りにつこうとした。

 ーーしかし、


「あ、もしかしてーー」

 

とあることを思いつき、急に眠さが薄れた。


「そうか、そういうことか……。アルベルトも、それを憂慮していたのか……」

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