木を隠すのは森の中、人を隠すのは人の中
僕達は、今、王都にいる。
そして遠くに黒い物体。
剣山の様に色んな処から黒い物体が出ては消え出ては消えを繰り返している。
その姿はまるで幾度もなく波の様に動く。
屋根で見ていたジルは、ギルドマスターを見つけると、屋根から飛び降りて声をかけた。
「電報で読んだが、あれは何?」
「ジル!」
ジルを見たギルドマスターの顔が緊張から少し柔らかくなった。
「ああ、あれか、分からん。ただ、大昔の何からしい。俺には、よく分からんが」
苦虫を潰した顔でギルドマスターは言う。少しでも目を離すとこちらに向かって来るのではないかと恐怖が有るらしい
「何だそれ?「分からん」って、あんたギルドマスターだろ?」
ロートが屋根から飛び降りて、ジルの横に華麗に降り立った。
「飴の様な物体見たいですよ。手作りの」
ホムラが、黒い物が何度も突き上げ色が変わっているのを見てジルに報告をする。
「飴とは、手作りの飴で、練り続けると色が変わる、" あれ "か?」
「" あれ "です。」
考えているジルにネロが、
「(あの黒い物体。人工密集の処に来る見たい)」
念話で話して来た。
考えるのを直ぐに辞めて、ジルは、ネロ、ロート、ホムラに
「(今行く。ホムラ、ロート)」
「(分かりました。)」
「(おう!)」
念話で短く声をかけてまた、屋根に跳躍し、ジル、ホムラ、ロートはネロの側に来て見るが、ジルとホムラは、
「「う~ん。よく分からない。」」
と答えた。
ただ、ロートとネロは髪の毛が逆立っていた。
「(あれは不味いな。)」
「(本当に、不味い)」
「(何かあれは、王都を簡単に見捨てれる)」
「(俺達が一番大事なのは、ジルとホムラだけだから)」
念話で話すロートとネロ。
「どうした。突然黙って?」
ジルが、視線を離さずロートとネロに言う。
「「何でもない。」」
と言うと黙るロートとネロにジルとホムラは顔を見合せて直ぐに黒い物体に視線を向ける。
◇◇◇◇◇
「ハハハ。いいぞ。いいぞ。これこそあのお方。始姐様が生きていた時代に幾度もなく現れた稀人の力。」
稀人の力の劣化版。
術師は稀人の結晶化した力を現代に甦らせた。
だからか、手当たり次第、取り込もうとしている。
人になる為に………
術師も例外ではない。
適度な距離を空けておかないと術師も食われる恐れがあった。
ニヤニヤが止まらない。
「いいぞ!いいぞ!この世を今一度、混沌の時代の幕開けだ~!」
「「!!」」
ネロとロートの身体がビクリと動いた。
「どうしました。ネロ?」
ホムラが、心配して言うと
「邪悪な気配がした」
とネロが言う。
「方角」
何かを睨み付ける様に誰もいない処を見るジルは短く場所を聞いた。
「2時の方」
ネロを軸に大体の方角を言う。
「かなり距離があるな」
ロートもジルと同じく空中を見ていたが、視力はロートの方がいい。完全にそこにいる人を捕らえている様だ。
屋根の上を跳び移動するジル、ホムラ、ロート、ネロ。
◇◇◇◇◇
『いいのですか?始姐。』
『何が?』
『あの者を野放しで』
『「私が介入出来る」とでも』
『………』
『私達の時代は終わった。今は彼らの時代だ。それに本当に手助けが欲しいなら主砲でも三式弾でも撃ち込むよ。時代遅れだけどね』
◇◇◇◇◇
「おい!」
「何だ?」
「後は、稀人の結晶体がやってくれる。見つかる前にずらかろう」
ジル、ホムラ、ロート、ネロが来る前に怪しい人物は、人混みの中に消えた。
木を隠すのは森の中
人を隠すのは人の中
と言う様に………。
「(逃した)」
「(ああ。近くで見ると何かの塊みたいだな)」
「きもっ!」
ホムラが吐き捨てた。
飴の様な " あれ " と思っていたが、ブヨブヨした物を箸で掴むとどろどろに溶ける豆腐の様な物だった。
「あれを消し去る方法はあるか?」
ジルがロートとネロに聞く。
ネロは顔を横に振り、ロートは
「(今の時代には)無いな………大昔………。本当に大昔、始姐様が46㎝砲で打っていた。」
ポロリと出た始姐と言う言葉。
いつもロートとネロが " あのお方 " と言って言葉を濁していたのに
「「しそ?」」
「「ん?」」
「今、 " しそ " と言いましたね」
「「なっ!?」」
なんでその言葉を知っていると言いたげな顔をするロートとネロ。
知ってしまったなら仕方がないと顔を見合せるロートとネロは、
「始姐様なら片手間で簡単に終わらせる………事が出来る。被害が凄いけど………」
「ここは、王都は、更地になる」
「「本当にいたんだ、始姐族は」」
ホムラは、始姐族が本当にいたとは思わなかった。
誰かが言い出したお伽噺だと思った。
「どういう字を書くんだ?」
「始まる姐さんって書いて始姐と読む」
「見た事がない字だな、何て言う文字何だ?」
「「分かんない」」
ロートもネロも文字名前までの事は知らなかった。




