執事ライト
街中を散策・・・いえ、人探し中の私は、彼らの行きそうな処に足を運びます。
酒場・・・いません。
冒険者なら昼から飲んでいると思ったのですが?
定食屋・・・いません。
お腹を空かせた冒険者なら来ると思ったのですが?
他にも調べましょう。
ジル様は、白銀髪の方。
ホムラ様は、茶髪の方。
ロート様は、燃える様な色の赤髪の方。
ネロ様は、黒髪の方。
とりあえず、目立つ白銀髪と燃える様な色の赤髪の方を探しましょう。
大広間から伸びる細い路地に足を伸ばす。
ここの通りは、ジル様とロート様が指輪を買ったと言われてる。
腐女子達が言っていました。
かなり前の情報ですが・・・
・・・腐女子達の方が、詳しいかも知れません。
人海戦術です。彼らの隠れファンは必ずいるはずです。
私は笑顔で、腐女子達が集まるカフェに足を運びました。
カフェの名前は貴婦人。
窓から中を伺いますが、男性もいるようです。
・・・入ってみますか。
扉の取ってに手をかけて押し開きます。
チリン、チリンと音がします。
貴婦人を謳い文句で派手な音では無く、大人しくでも店内に遠くにいても聞こえる音。
店内に足を踏み入れます。
場違いのは、分かっております。
執事の服を脱いでも長年執事をしていた行動は隠し通せません。
なので、開き直りました。
大抵、こう言う処のボスは店の奥にいるのは定席ですが、ここは貴婦人です。
皆さんが、ボスです。
それでもリーダー的な方はいらっしゃいます。
そして・・・いました。
「お話中申し訳ございません。お時間を頂いても宜しいでしょうか?」
物腰優しそうな口調で話かけます。
「あら、貴方は、ブラウン家の執事ライト様ではありませんか。どうされたのですか?。」
大貴族、ヨハン・ブルックス・アンサンドラ様
アンサンドラ家の奥様。
ピア・ブルックス・アンサンドラ様
「ブラウン家の執事は辞めまして、今は、ただの冒険者ライトでございます。」
私はお辞儀をします。
少し、緊張しますね。
「ああ、お掛けになって下さい」
「ありがとうございます。」
進められた椅子に私は座り、たわいもない世間話から貴婦人達に、特にピア・ブルックス・アンサンドラ様にジル様、ホムラ様、ロート様、ネロ様の事を聞きます。
勿論、彼らに恋心は有りません。
「・・・と、言う訳なのですが、彼らの居場所はご存知でしょうか?」
ピア・ブルックス・アンサンドラ様は少し難し顔をしております。
「冒険者ギルドが我々の推しの方々に何をしたかご存知ですか?」
声に少し怒気が含まれております。
「冒険者ギルドからお聞きしております。それについては、彼らに謝罪をしたいが中々捕まらないとおっしゃられておりました。」
「そう。謝罪はまだのようですね。」
ピア・ブルックス・アンサンドラ様は何か考えているようです。
「彼らを探して冒険者ギルドに連れていくのですか?」
「一度、話をしてから持ち帰りたいと思います。」
「・・・そうですか。処でブラウン家で当主が女性に金貨9000万枚を支払ったとお聞き致しましたの。それは事実なのですか?」
噂話が好きな女性は、こう言う話は好物かもしれない。
「ああ、詮索するつもりはありませんよ。私の娘がブラウンのご子息が気になっておりましたの。ですが、最近の推しはどうやらホムラ様の様なの。ブラウン家がどうなっても構わないですが、推しに危害を加えるのではないかと思っているの。でも元執事のライト様が来てくださいました。ブラウン家はこれから大変ね。」
それは、そうです。
もう私はブラウン家の執事ではありませんから、どうなろと知ったことでは、ありません。
ピア・ブルックス・アンサンドラ様とお話中に勢いよく扉が開きました。
あの顔は良く知っています。
今、話題のブラウン家のご子息、ディージー・ブラウン様です。
ディージー様はヅカヅカと入ってくるなり私の前に立つと胸ぐらを掴んで来ました。
「ライト!こんなところで何をしている!父様が大変な今、この時に女どもと飯か?」
「手を離していただけませんか?」
冷静に答えると
「何?俺に命令するのか?」
今まで自分の思った通りに事が進んでいたのに、思い通りに動かなくイライラをつのるディージー・ブラウン様。
「手を離して上げては頂けませんか?」
ピア・ブルックス・アンサンドラ様がディージー・ブラウン様に言います。
「何?ババアの分際で俺に命令か?」
ディージー・ブラウン様がティーカップを掴み中身の紅茶をピア・ブルックス・アンサンドラ様のお顔にかけました。
「ピア様」
私はすぐに駆け寄り清潔なハンカチをピア・ブルックス・アンサンドラ様に渡す。
「大丈夫です。ありがとうございます。ライト様。いえ、ライト兄様」
「ライト・・・兄様だと・・・」
「そうです。ライト兄様です」
「こちらは、ピア・ブルックス・アンサンドラ様。ヨハン・ブルックス・アンサンドラ様の奥様です。」
「なっ!!」
分からなかったかい!
ヨハン・ブルックス・アンサンドラ様は、私の妹、ピアに一目惚れをしてブラコンであるピアに告白をするもの断れ続け、ヨハン・ブルックス・アンサンドラ様が、私の手を借りたいとおっしゃりまして妹の好物の濃厚なBL本を探し渡すように伝えました。
・・・あの事は今でも思い出します。
「兄様!何故私の好物を教えたの?」
と・・・それからと言うもの妹とヨハン・ブルックス・アンサンドラ様の距離が縮まり結婚しました。
3ヶ月。
早すぎません?
今では、ヨハン・ブルックス・アンサンドラ様も妹の毒牙にかかり男好きになったとか
(妹よ。程々に・・・)
「先程はよくも私の顔にお茶をかけて下さいましたね。後から夫にそれなりの賠償をしてもらいます。」
「なっ、ピア・ブルックス・アンサンドラ様、待ってください!」
ディージー・ブラウンが慌てて言う。
そうでしょうね。これ以上ブラウン家の顔に泥を塗りたくないからね。
「それからライト兄様は、ブラウン家の執事は辞めましたよ。辞表を出しましたよ。新しい執事を見つけなさい!。ライト兄様に近づかないで下さい!」
ディージー・ブラウンが私を見て何とかしてと目で訴える。が、私も見なかったことにしてピア・ブルックス・アンサンドラ様の手を取り椅子に座らせる。
「お召し物が汚れてしまいました。ブルックス・アンサンドラ家に連絡を入れて迎えに来てもらいます。宜しいですか、ピア・ブルックス・アンサンドラ様?」
「兄様も来てください。夫も喜びます。」
「いえ、私も仕事をしないと行けませんので、御一緒は申し訳ございませんが、できません。」
「そうですか。では、また遊びに来てくださいませ」
ピア・ブルックス・アンサンドラ様はニッコリと微笑む。
次に視線を向けたディージー・ブラウンに
「それなりの処罰を受けてもらいます」
そう言ってピア・ブルックス・アンサンドラ様は迎えに来た馬車に乗り帰っていきました。
さて、私も仕事の続きです。
膝から崩れたディージー・ブラウンの横を通り私は貴婦人を後にしました。




