トヨハシ2
ガルーダ便の老人と青年の話が終わり、俺は何でも屋の鈴蘭に来た。
ここは、みたらし団子を売っていて、甘い匂いにつられてフラフラと足が何でも屋の鈴蘭に向いた。
「お客さん見ない顔だね」
「はい。異端者の森に行こうと思いまして」
「異端者だと?」
女将の顔が変わった。般若の顔になる。
鬼人族の俺ですら、恐怖を感じる気迫だ。
「す、すいません。始姐の森に行こうと思いまして」
元親が言い直すと女将の顔が菩薩の様に変わり、ニコニコの笑顔になる
(ここでは異端者の言葉はタブーだな)
「あんたはこの街に滞在するのかい?」
「はい。」
「ならホテル向日葵がいいよ。」
「ホテル向日葵?」
「そうさ、あそこはシロエさんが止まった処だからね」
「しろえ?」
「知らないのかい?。始姐様の名前さ。ここらでは有名だよ。本人は隠してるつもりだけど、皆知ってる。近くには迷宮も有るから行ってみるといいさ」
「迷宮ですか!?」
「そうさ、みたらし団子を5本買ってくれたら話の続きをしよう」
(遣り手の女将だ)
「買うかい?」
「1本にだけ」
「ケチ臭いね。シロエさんなら、いつも20本は買ってくれるのに」
(ハハハ。旅費も馬鹿にならないので、それよりも)
「迷宮の事より、シロエさんの事を聞きたいのですが」
「信者になりたいのかい?」
宗教に興味は有りません。
神に祈れば罪が消えます?
祈れば天国に行けて祈らなかった先祖は地獄に行きますとか?
「そう言う訳では有りませんが、どんな方なのか知りたくて」
「知ってどうするんだい?」
「どうとは?」
警戒してる?
何故?どうして?
訳がわからず俺は聞き返す。
「始姐族のシロエ様と従者にジェラルドさんに手を出さない様に(死にたくないなら)」
「出しませんよ。いるのか分からないのに」
「………いたら手を出すのかい?」
「そんな事しませんよ。只、物凄い方だと聞いておりまして、色々知りたくて聞いているのです。」
女将が無言になる。
何かを考えているようだ。
「ガルーダ便の爺さんにも聞いた?」
(ガルーダ便の爺さん?)
「聞きました。いつものど飴をくれると言っておりました」
(当たり障りの無い内容だね。ガルーダ爺さんも警戒してる?)
「それに料理が苦手とも聞きました」
「シロエさんは料理が苦手では無いよ。」
「そうなんですか?」
「そうさ。料理は旨い方だよ(一部はだけど)」
何処か苦笑いをする女将の横に現れた亭主がくわえたばこの先端に火をつける。
「シロエの嬢ちゃんの話か?」
「あんた、シロエさんからタバコは駄目って言われているだろう?」
女将の言葉に亭主はニコニコ笑い
「シロエの嬢ちゃんに無理言ってokをもらった」
「対価は?」
女将の目がキランと光ったのは、俺は見逃さなかった。
「料理酒で手を打ったジェラルドが欲しいとシロエの嬢ちゃんに力説していた。シロエの嬢ちゃんは紅茶がいいと言っていたけどな」
ポリポリと頬をかき、気まずそうに言う亭主に女将は「もお~」と声に出さず人目を気にせずラブラブな雰囲気を出す夫婦。
(ラブラブですね。ハートが飛んで来ますよ)
「処でこいつは何者だ?」
『角無しの鬼人族がシロエ様の事を聞き回ってる』
女将が聞いた事が無い言葉で亭主と話す。
自然と何でも屋の夫婦の顔を見る。
全身を走る悪寒。
顔から感情が消えて生気を失った顔をしている
俺は逃げる様に何でも屋を後にする。
女将に教えてもらったホテル向日葵に向かった。
宿はそこしか無いからだ。
走りながら街を中の人々の顔を見るが皆の顔が生気の無い様に見える。
神隠しに有ったみたいだ。




