厄介事がやって来た
王都から来た手紙に返信してから1ヶ月がたった。
その後も何通か来たが、返信手紙を出さずに、読むだけ読んで暖炉の中に入れて燃やしていた。
手紙の事なんざすっかり頭から消えていたジル、ホムラ、ロート、ネロは、今日もまったりとゆっくりと紅茶を飲みながら過ごす。
風が窓をカタカタと揺らす。
「そう言えば、ネロが見つけた大きな屋敷ほどうなったんだ?」
ジルが思い出した様にネロに訪ねる
「それがさぁ~」
次の日に行って見たら屋敷が無かったんだ。と言うネロ。次の日も次の日も確認したが、屋敷は見つからなかった。
「今度気が向いたら行ってみる」
「うーん。まだ行かない方がいいよ。」
「何か分かるのですか?」
「何となくだけど、そっとしといた方がいい。まだ知りたくないし」
意味ありげな言葉を出すジル。
「知りたく無いとは?」
「知ったら戻れなくなると思う。まだ心当たりの準備が出来てない」
漠然とした感情を言葉にするジル。
[それに知るのは、まだ早い]
ジルの姿でジルの顔で声だけは幼い女の子の声で言う。
「!。ジル?」
ホムラがジルの右腕を掴んで揺らし瞬き2回でジルがホムラを見上げ、それから辺りを見回し一言言った。
「どうした?」
いつものジルの声。
いつものジルの顔に安堵するホムラ、ロート、ネロ。
「何か有ったのか?」
「何でも無いよ」
一体ジルの身に何か起こったのか分からないホムラ、ロート、ネロだが、恐怖を感じる声じゃなく、安心感が有る声だった。
まったり過ごしていると、扉を叩く音がする。
始めは申し訳ない程度。
気付かないと、謙虚に叩く。
さらに気付かないと、分かりやすく叩く。
だが、気付かないと、主張してきた。
ドンドンと叩く。
ロートが「何か音してない?」と言うと一斉に静かになり耳を済ませて音を聞く。
ダンダンと扉が壊れるんじゃないかと思う程の音。
ダンダンと殴る様な音に対してロートが扉の前まで行くと扉を足蹴にして全力の力任せで蹴り開けた。
蹴り開けて勢い良く開け放たれた扉にいた人は、顔面強打し、鼻が折れ、鼻血を出し、前歯が2、3本ぐらついて、歯茎から出血して扉から離れた場所に踞っていた。
地面には血がボタボタと落ちている。
「・・・」
見下ろしているロートに、ネロが念話で聞いてくる。
「(誰かいたのか?)」
「(細身の男?が血を垂らして踞っている)」
「(何だそりゃ?)」
「(分からん)」
「(一応、見なかった事にして戻って来た方がいいと思うよ)」
「(そうする)」
なかなかの冷たい会話。
ロートは、何も無かった様に扉を閉めて鍵をかけて、ジル、ホムラ、ネロの居るところに戻る。
「誰かいたか?」
ジルに聞かれ、ロートは何事も無かった様に笑顔で
「誰も居なかった。」
と、答えた。
(誰か居たな)
(ロートが帰って来たって事は、関わちゃぁ駄目の事だな)
(関わらない方が楽だよ)
ジル、ホムラ、ネロは視線で会話をして、結果ロートの行動を咎めること無くしかも肯定している。
ヤカンからマグカップに紅茶を淹れて一口飲む。
暖かいお茶が喉を通り、胃袋に入るのが分かる。
ホゥと息を付いてホムラはケーキ、ロートは煎餅、ネロはマドレーヌを食べる。
ちなみにジルは、紅茶のみだ。
次の迷宮は何処に行くか地図を出して決めるジル、ホムラ、ロート、ネロは小さな地図を広げて唸り出すとまた扉を叩く音がする。
厄介事がやって来た。




