鬼人族の口伝
俺達の村は、海の言葉を使う年寄り共がいる。
はっきり言って「何で?」と心の底で思っていた。
最近分かった事は、俺達の祖先は少しの間、海に出ていた事が有ることが分かった。
そこで、年寄りや親方が口を揃えて言う「あの方」。
調べても書物は、ここ300年程の物。過去の書物は全て燃えて無くなったそうだ。
何で?何で燃えたの?
神代文字を喋れる若者も数が減り、年寄り共が何を言ってるか分からない若者も増えた。
俺の両親は、ある程度の神代文字を使う事が出来る。
だから聞いたのだ。
「あの方とは誰の事?」と
前置きで言われた事は
「これは口伝だから、着色も少し有るかも知れないが、この村で伝わって来た事だ。」
俺の父は背筋を伸ばして、お茶を一口飲んでから語り始めた。
「まだまだ、色んな種族が蔓延っていた時代まで遡る。3000年前に俺達の祖先が海に居たことは知っているよな?」
「ああ、最近知った(3000年前とは知らなかったが)」
俺は頷く。
頷く俺を見て父は話を続けた。
「俺達の祖先は、昔、海賊と呼ばれていてな、当時の一番偉い人にその腕を買われて、海の航海を安全と海での戦に出来る様にと水軍と名を変えた。海賊のままじゃカッコ付かないからな」
俺は頷く。
父は煙管を吹かして、口から煙を吐き出した。
長く吐き出される煙が天井にあがって消えた。
「上手く、行っていたのだろうな。天狗になっていたんだろう。1000年前、その時の頭の息子が権力を傘にして遣りたい放題してな。」
苦虫を潰した様に顔をしかめる父。
「何となく分かる。親や先祖の築き上げた物が自分の物だと勘違いしてしまう。」
俺はお茶を一口飲む。
父は、煙草盆に煙管を打ち付けて灰を落とした。
煙管を置いてちゃぶ台の上の湯飲みを手に取り緑茶を喉の奥に流し込んだ。
そして静かに語りだす。
「世の中手を出しちゃ行けない人がおる。」
「ああ」
「我らは、手を出してしまった。あの方の小姓と仲間に手を出してしまったそうだ。」
「その時は船員達が宥め、その場は何とかなったのだが、運悪くあの方とその時の息子は鉢合わせ。あの方と小姓と仲間の方が綺麗な服だったから金銭的な物を要求し、女を孕ませようとしたそうだ。」
「は?」
俺は何言ってんだと顔をして、父は、「そうだろう。そうだろう。そんな顔になるな。」と口の端をつり上げて喉の奥で笑い言葉を続けた。
「当時は、服がいい物、綺麗な女を見ただけで狙われてしまうそんな時代だ。」
「そうなんだ。」
「これは、そうじゃないかと言われてる話だが、酒に酔った息子があの方の小姓と仲間の方に傷を付けたりとか、死ぬかも知れない程の重症を追わせたとか、付き添いの女性を無理やり孕ませようとしたと言われてる。・・・真実は分からん。当事者じゃ無いからな。」
「・・・」
「なぁ、息子よ。真実はな2つ有るんだ。」
「2つ?。1つしかしないよ?。」
「有るんだ。本当に有るんだ。」
「いいか?真実ってなのはな彼方側の真実。そして我々の鬼人族の此方側の真実の2つが有る。」
「うん」
「でも、どんなに探しても事実だけは、1つしかない」
「・・・」
「そして始まった戦」
「戦?戦が始まったのか?」
「ああ、相手は遠くから砲弾を打って来たそうだ。昼も夜も関係無く。全てを殲滅する勢いで、海から命がらがら陸地に逃げても、まるで監視されているかの様に大砲を打ってきたよ。辺りは死屍累々だった。五体満足なら尚良い。ほとんどが、腕や足が無くなったり、頭蓋骨にめり込む頭蓋骨。上半身や下半身、ミンチになっていたり、黒焦げの姿になっていたそうだ。大地は穴ぼこだらけ、当時のお頭が白旗を振ったが、意味なかったそうだ。ガルーダにあの方へ降伏を宣言の手紙を書いて、大砲の雨は止んだ。興味が無くなったのかも知れない。・・・真実は闇の中だ。」
俺はついつい「うわ~」って顔をしていた。
「"あの方"と今は伝えて有るが、今から1000年前までは"異端者"と呼ばれ我らは、馬鹿にしていた。眉唾だと。それまでは怖い物知らずだからな。」
「異端者?確か、化け物の様な力を持ってる人の事だよね?」
「そうだ。"あの方"の血を受け継ぎその力を持った者を"異端児"と呼ばれる。まぁ、怖かったんだろう。」
「父も怖かった?」
父は、お茶を一口飲んで、静かに心を内をさらけ出した。
「ああ、怖かったな。夜、廁に行けないとぼにな。我らは鬼人だ。怖い物などない程に強さが有る。だがな"あの方"で我らの強さが揺らいだ。そして口伝で伝え続けた。書物に書く事が出来ないほどにの恐怖を与えてられてな」
父は遠くの昔を思い出す様に遠い目をした。
「当時、儂は、「何言ってる?誇り高き鬼人族が!」っと思っておったよ。だが、今、儂達の周りに有る湖全てが砲弾の跡だと分かった時からは恐怖をしたよ。今は木々に覆われているが、ちょっと深く掘ると鬼人族の骨が出て来る。恐ろしかった。こんな恐ろしい事を遣ってくる。鬼人すら死んでしまう物を撃ってくる人がいるとは。男、女、子供、赤子、年寄り連中関係無く殲滅にかかる。中には"あの方"の所まで行き首を取って来る。と言って行った夫婦は、見事に"あの方"に捕まって、男1人で錯乱状態で帰って来た。」
「・・・何が有ったんだ?」
俺は、その内容を聞かなければ良かったと後悔した。
「夫婦は、妻の方は妊娠しており、お腹が大きくなるまで暗闇で監禁されてな、産まれる1ヶ月前に腹を引き裂いて赤子を取り出し、その赤子を調理・・・素揚げして夫婦に食わせた。妻の引き裂いたお腹は、何を使ったのか分からんが元通りに治して、その後、夫婦を瀕死になるほどの殺し合いをさせたらしい。勝った男の方は、美味しい肉が手に入ったと聞かされ知らず、知らず、妻の内臓を焼き肉として食べさせた。旨い。旨いと言って最後にジュースとして妻の脳ミソをスムージーにして飲ませた。今まで食べていた肉全てが愛する妻だったを事を銀の盆に苦痛にもがき苦しんだ表情で、男に首を見せつけて、「美味しかったでしょ?」と笑顔で聞いてきたそうだ。男を錯乱状態になり、鬼人族が隠れてる村に投げ捨てたそだ・・・」
「・・・」
「鬼人族は野蛮と言われているが、それでも仲間意識や他種族の事も認めている。ましてや多族を食らいする事はない」
父はその後にこう綴った
「だが、"あの方"だけは違った。」
「・・・」
「"あの方"の"仲間"や"小姓"の方を死なせたりしたら一族は生きて無かった。」
俺は、気になった事を聞いた。
「滅んだ種族は有るのか?」
「ここから遠く無い所に大きな人間の街が有ったんだ。」
「有ったんだ?」
「滅んだよ。たった1日で人も動物も虫も何もかも消えた。」
「1日で?」
「1日だ。」
父は、空になった湯飲みに緑茶を急須で注いだ。
「何が起こったのか分からない。空を多い尽くす黒い球体が人間の街にゆっくりと落ちていくのが分かっただけだ。」
父は目を閉じて軽くため息をついて、煙草盆を持って部屋から出て縁側に座った。
その背中が小さく見えた。




