海で使う言葉
ホムラと元住んでいた家に戻り少し狭い2部屋にいるそれぞれ別れて使う事にした。
空は灰色の雲で家の中に入ったらポツポツと雨が降って来た。
外は雨。屋根や窓をたたく音がする。
「洗濯物が乾かない」
「仕方がないですよジル。僕達の装備服は乾きやすいですがタオル関係は中々乾きません」
「家に入って来てから雨が降りだしたな」
「窓から外を見ていても変わらん紅茶を飲んで来る。薪は有ったか?」
窓に貼り付いて外を見ていたジルは興味が無くなったのかマジックバックから茶筒を取り出して土間の方に歩いて行く。
「魔法でやらないのか?」
ロートが振り向きジルに声をかけた
「やらない。味が違うから」
ジルが少し後ろを向いてロートに言うと今度はホムラが窓から離れジルの方に向かう。
「確かに味が違うよ。魔法でやる時は楽をしたい時だけ。僕達が決めたルールだよ」
ホムラは笑ってロートに言う。
ジルが釜戸に薪を入れ、薪と薪の間にネロの集めていた本を破く様に手を掛けた時ネロが慌ててスラインクしてジルの手から本を奪う。
ロートとホムラは目を点させて見て「あんなに早く動けるのか?」と思い、ジルは無言で舌打ちしてネロを見た。
「本は辞めて!。これは大事なの!!。俺のマジックバックに入ってる本は大事なの!!」
鼻息を荒くして口早く力説するネロに対してジルは冷ややかな視線を送り軽くため息をついて薪にナイフで幹をササクレにして火魔法で着火、薪と薪の間に入れた。
火は大きくなりヤカンに氷をナイフで砕き入れて蓋をする。
ヤカンの蓋がカタカタなり茶筒から紅茶の葉を取り出して沸騰したお湯の中に入れ蓋を閉めた。
「紅茶飲む人~?」
「「「はーい」」」
ジル、ホムラ、ロート、ネロはマジックバックからマイマグカップを出して直接紅茶を注ぐ。
小さな円形のテーブルにクッキーを出して紅茶を入れたマグカップを持って椅子に座った。
寒く無いのに暖かい紅茶が欲しくなる。
4人は無言で暖かい紅茶をすする。
「天候を操れる魔法使いはいないのですか?」
「大昔に1000年位前に1人いた。確か白い髪の10歳前後の女の子。皆、その人が作る薬を有りがたく使っていたけど強力な魔法を使うと知って恐れていた。」
「へー」
「1000年位前ってあのすんげー強い恐怖そのものと言う程のあの"お方"か?」
「あの"お方"?」
「すんげー怖いぞ!もし奴が生きていればジルもホムラもといい勝負だろうな?負けるけど」
「我やネロが相手にしたら龍族もドラゴン族もあたかもなく消されていただろう」
「・・・俺は相手にしたくないな」
ポツリと呟くジル。
「僕も嫌ですね」
苦虫を潰した顔をするジルとホムラに頷くロートとネロを見てロートは言葉を続けた。
「安心せい、2人共。あのお方に勝てる奴はいない。見た事も無い」
目を閉じてロートは染々言い、紅茶を飲んでいるネロもロートの言葉に続いた。
「まずあの"お方"に勝とうと思う心が悪だね。それにあの"お方"が大事にしている者を傷を着けたら報復があるよ?ドラゴン族に残ってる文献では、一夜にしてある大国が消えたとある。民衆が農具を武器にして貴族や王族を殺した訳じゃなく、突然消えたそうだ。虫、鳥、人間、モンスターがな。その場所で生きてる者が全て消えたのだ。平等に。建物や騎士が身に付けてる鎧は床に"今まで着てました"って感じに落ちていた」
口元がひきつりジルとホムラは紅茶を一口飲み落ち着いてジルは言葉を発した。
「生きていたら勝負は関係無しに話をしてみたい」
「古風の話し方をする人だったよ」
「そうそう」
「船の言葉も使っていたな」
「そうそう。"よーそろー"とか言っていたな」
「は?」
「どういう意味だ?」
ジルはこてんと首を傾げてロートとネロに聞く。
「宜しく候と言ってな了解や問題なしの意味で使われる。ある国の幕末海軍からのなごりで海上自衛隊で今でも使われてる言葉だ」
「幕末?海上自衛隊?」
「フフフ。そう言う国が有ると覚えておけばいいよ。」
「分かった」
その日からジル、ホムラ、ロート、ネロの間で了解をよーそろーと言う様になった。
(フフフ"あのお方"が戻って来た感じだな)
ロートは口元を手で隠して見えない様に笑った。
(まぁ、三式弾で狙われた時は、龍族は滅びを覚悟したって長老が言ってたな。三式弾って何だろう?長老は、全面降伏したけどお着きの小姓にケガさせてあのお方が切れたと言ってたな。あのお方の血を色濃く受け継いだジル。今後も面白くなりそうだ)
◇
「取り舵(左)に行け」
「何を言うか?ここは面舵(右)だろ?」
「もう、どちらでもいいんじゃねぇ?左右どちらでも」
「違う!これは"あの方"が教えてくれた左は取り舵、右は面舵だ!これは我々の伝統的な呼び方だ!46cm砲に狙われたいか?」
「親方がいつも言っていた46cm砲か?そんなの1000年前の出来事だろう?今でもあるとは限らないじゃねぇか?」
「嫌。ある。我々があの方についている男と女にケガさせて46cm砲の被害に有ったのは今でも鮮明に覚えてる!」
「そんなの代々受け継がれている口伝だろ?」
「逃げても逃げても狙ってくるあの恐怖。爆風で家や村人が死ぬ姿を見た事があるか?今の若い者は知らんだろうが、あの時お前らの先祖が生きてくれたからお前達がここにいられるのだ!」
「先祖が全面降伏して今の生活を手に入れる・・・嫌。あの男と女があの方に助言してくれたので今があるのだ!」
「じぃさん。血圧あがるぞ?」
「若僧ども、わしの話を聞かせてやる!着いてこい」
現役バリバリの白い髭を蓄えたじぃさんが腕に若僧の首を捕まえて引きずる様に家の奥に行った。
「おばちゃん、今日、にーにー達親方の方で46cm砲について話をしてもらうってご飯いらないって親方が言っていた」
「はいよ。ありがとさん」
「うん。」
少女はパタパタと家の隙間を走って消えた。
(46cm砲。久々に聞いたわ。たった1000年前の出来事だけど友人があの46cm砲の爆風にやられて目の前で無くなったのは今でも覚えてる。あの恐怖は忘れない。ダメだわ。今日は料理を作れない。外食にしましょう)
「貴方?今日の夕飯は・・・」
「・・・いいぞ」




