ホテル・ハマナス2
テーブルいっぱいに広げた地図と攻略本。
見比べて地図と合っているなら地図をひっくり返して見ない。
それを繰り返していた。
「あれ?」
「どうしたんですか?ジル。」
ジルの側に行きソファーに座って手の中に有る本と冒険者ギルドで貰った地図を見る。
「ここ、攻略本には秘密の通路が有るけど、冒険者ギルドの地図には載ってない。」
「まだ見ぬ宝が眠っている?って事?」
「多分」
「それなら明日行って見ませんか?」
「そうだな。ここで悶々してても仕方がない。何度もアタックしてみよう」
冷たくなった紅茶を飲んでベッドに潜り込むホムラ。
モソモソ動く姿を見てジルは、笑い本と地図をマジックバックに入れてベッドに潜り込んだ。
次の日、カーテンを開けたら外は吹雪いていた。辺りは、真っ白。
「これじゃ、行けれませんね。」
窓から見える横殴りの雪。
「行けるけど、態々こんな吹雪の中に外に出るのもなんだし、寒いし、コートがあっても凍死する時は凍死するしな。今日は、ホテルで過ごそう」
ホムラの隣に立ってジルは言う。
「朝から何食べる?」
ホムラは、何気ない言葉をかける。レストランに行ってまたあの少年がいたら嫌だし、ご飯が不味くなる。付きまとう少年。金の匂いを嗅ぎ付ける嗅覚を持っている。
もういないけどこの世に
「ボーイに頼みますか?」
「そうだな。コーンスープと山切パンだけでいいよ。」
「ダメです。コーンスープと山切パンとサラダとヨーグルトとハッシュドポテトにベーコン、茹で卵です」
ジルは大抵コーンスープと山切パンだけで済ますので、ホムラが何時も待ったをかける。
朝はガッツリ食べるのがホムラ流
「じゃ、お願い」
にっこり笑うジルにやれやれと息を付くホムラだが、何時も何時も美味しいと言って食べてくれるジルが好きだ。
「分かりました」
ホムラは、ドアの近くに有る鈴を鳴らした。
チリン、チリン、と鳴らすと扉の外でノックをしてホムラが扉を開けてボーイを入れる。
「朝食だけどこちらで食べます。何かメニュー表とか有るのですか?」
「お客様が望んだ物をお作り持ってきます。」
「では、コーンスープと山切パンにサラダにヨーグルト、ハッシュドポテト、ベーコンに茹で卵でお願いします。」
「かしこまりました」
オーダーを聞いたボーイは出て行った。
廊下を歩くと同じ同僚のボーイが聞いてくる。
「VIPのお客様はどんな人?キレイ?美人?」
「キレイな男の人だよ」
「2人共男なの?」
「そうだよ。オーダーが入ったから厨房に行ってくる。粗相がないように」
「えー、俺がそんな事すると思ってんの?」
「思ってるから言ってんだよ。じゃな」
ボーイは二手に別れた。
厨房にVIPの朝食のオーダーを持ってきた。
「おっ、これが、VIPの朝食かぁ。意外とシンプルだな」
シェフは笑いながらメニューを作っていく。
コーンスープ。
サラダ。
山切パン。
ヨーグルト。
ハッシュドポテト。
ベーコン。
茹で卵。
「簡単なメニューだ。もっと凝ったのかと思っていたけど、意外と良心的だな」
「そうですね。有難い限りです」
コン、コン、コンと扉を叩く音。
「はい?」
ホムラが扉の前に行き声をかける。
「お食事をお持ち致しました。」
「今、開けます。」
二重施錠とドアロックを解除して扉を開けてカートを押してボーイが入ってくる。
「お食事をお持ち致しました」
「………あ、ああ。今テーブルの上を片付けるから待ってて下さい。」
あわててジルはテーブルの上の本、地図、書類、ペン、インクを片付ける。
「お食事を並べても宜しいでしょうか?」
「お願いします。」
コーンスープ、山切パン、サラダ、ベーコン、ハッシュドポテト、茹で卵
「こちらが塩になります。山切パンにはマーガリンを塗って有ります。どうぞ」
「「ありがとうございます。」」
「失礼致します。」
ボーイが出て行って二重施錠とドアロックをかけてジルとホムラは朝食を食べはじめる。
「厚切りの山切パンはマーガリンがたっぷり塗ってあって美味しい。」
「コーンスープを温かい。」
「厚切りベーコンもハッシュドポテトもサラダも美味しいですね」
山盛りサラダに厚切りベーコン、温かいコーンスープ、山切パン、ハッシュドポテト、ヨーグルトを完食した。
食事が終わると迷宮の調べがまた始まる。
二条迷宮は24層の迷宮で23層の壁に秘密の横穴がある。そこから30層に飛ぶ。
「どうやって調べるか、ですね」
「そうだな。どうやって調べるか、だね。………ハンマーで投げつけて調べる?」
「他の冒険者が見たらシュールですよ」
「そもそも他の冒険者に合ったことなかったな……じゃハンマーで………」
「新たにこのためにハンマーを買うのも癪に障ります。」
「じゃ、どうする?」
「短剣とかで横に一本の傷を付けながら歩いて確認しませんか?迷宮は傷を付ける事はできません。だとしたら傷を着いた処は何かがあるっての事では有りませんか?幸い、ミスリルの短剣が有りますよ?」
「それでは、その手で行こう」
ジルとホムラは互いにの顔を見て笑った。
ちなみに食べた食事のお皿はボーイが片付けてくれた。
「それにしてもいいんですかね。こんなVIPの部屋に泊めて貰って、普通の部屋でも良かったのに」
「何か有るんじゃない?」
「例えば?」
「揉め事の対応も良く、それに関して宣伝して欲しいとか?」
「まさか」
そのまさかである。
VIPの部屋にとうしたのも宣伝して欲しいからである。
ホテル・ハマナスの名前を広めたいのも有るのだろう。
「社長の姿、見ましたか?」
「嫌、見てないけど、やり手だろう。俺達をただの冒険者をこんなVIPの部屋に泊めて貰い、さらに初めの料金と同じで良いと言ってくれる、太っ腹だよ」
紅茶を飲むジルとホムラ。
ボーイが見えないようにガッツポーズを取っている事に気付いてる。
茶菓子にバタークッキーを頂く。
「美味しいですよ。クッキー。ジルもどうですか?」
「いらない。ホムラが食べていいよ」
ジル、ホムラに悟られているのも知らず悔しがるボーイ。
彼らは、社長の命令で、2人の好みを調べている。
もう一度停まりたいと思えるホテルにしたいからだ。
そんな事は知らず、ジルとホムラは警戒をする。
「紅茶、コーヒー、出された物は全て完食や飲んでいる。嫌いな物はないのね」
「はい」
「ありがとう。職場に戻っていいわ」
葉巻の先端に火を付けて煙を吸い込む。
「うん。旨いわ。」
「明日は晴れますかね?」
クイーンサイズのベッドで横になり顔だけジルの方に向けてホムラは言う。
「太陽に聞いてくれ」
ジルは、言うと目を閉じて言う。
静かになった部屋に外の音は聞こえない。
次の日、昨日の横殴りの吹雪が嘘の様に晴れ渡っている。
だが、ジルもホムラも寝過ごして朝早く起きる予定がお昼まで寝てしまった。
ボーッとした頭を目覚めさせるには熱いお風呂に入るのが1番と思うジルとホムラ。
「髪の毛洗いますか?」
「洗うよ」
そんな話をして髪まで洗うジルとホムラ。髪が長いので洗うのに時間がかかる。2人して疲れた顔をしていた。魔法で髪を乾かし艶々のサラサラの髪。
頭がすっきりした2人は、思い思いの1日を部屋から一歩も出ずに過ごした。