久々の2人旅
僕とジルは久々の2人旅に出ていた。
寝台列車に揺られながら
車窓から流れる景色を楽しみながらゆず茶を飲んでいた。
「うん。旨い。」
「ゆず茶にして良かったですね」
ゆず茶を選んだのはジル。
お酒も有ったが、飲みたい気分じゃない2人は色んな紅茶やお茶の内、ゆず茶を選んだのだ。
車窓から外を眺めるジルと僕は、
最近の出来事を思い出していた。
「壁の穴が貫通していなくて良かったですね」
「そうだな。まさか家の中でプロレスごっこをするとは思わなんだ。やっぱり人の姿は、力の発散が出来ないのかね?」
「この辺の話をすると彼らは嫌がりますから秘密裏に調べましょう」
「だな」
目的地は龍の都とドラゴンの都だ。
人の姿になれるドラゴンと龍に合いに来たのだ。
「それにしてもまさか蝦夷の山羊蹄山の奥にドラゴンの都が有るとは、予想外だね。」
「しかも、龍の都は、筑紫島(古い言葉で今の九州を指す言葉)ある宮ノ浦岳にあると書かれている。嘘か本当か調べないと、しかも伊予二名島(古い言葉で今の四国を指す言葉)にも行きたいね。」
「調べる事が沢山有ります。でも何故蝦夷からにしたんです?こんな大雪の中で?」
「海鮮が美味しい時期だから」
ジルがキメ顔で言う。
食に関して妥協をしないジル。
ジルと僕は寒いのへっちゃらだけどはっきり言って蝦夷の雪をなめていた。
「「寒い!」」
冒険者の装備服だけでは駄目だった。僕達は慌てて冒険者に作ってくれる店に直行した。
さすがに気合いだけでは乗り越えれない寒さだ。
素材持ち込みでコートを作って貰える、その道150年の歴史のある店。外見はボロいけど………
「すいません。」
「ハイハイ、只今、行きます。」
出て来たのは年若い女性だった。
「こんにちは、どうしました?」
「コートを作って頂きたくて」
話をして素材を出すと目の色を変える女性。すると奥から腰の曲がった老婆が出て来て女性の頭をコツンと叩いた。
「これこれ、お客さんをほっといて涎が出そうな勢いで小躍りをしない。お客人がどん引いているよ。すまんね。お客人」
「「あ、……ああ………」」
ジルとホムラが出した素材は、オオシロクマの毛皮とオオクロクマの毛皮だった。
「これオオクロクマとオオシロクマの毛皮じゃないですか!!毛皮では、イエティの次にいいと言われてる奴じゃない!」
涎を滴しながら鼻息を荒くする女性に対してジルとホムラは来た店を間違えたと思い初めていた。
老婆が杖で若い女性の頭をコツンと叩き現実に戻す。
「あ、あの、他の店で作って貰います。」
「ま、待って下さい。」
慌てて女性は扉の前に立ちふさがる。ジルとホムラは慌てる事もなくマジックバックに毛皮を入れて、立ち去ろうとして押し問答になった。
「すまないね。お客人。この娘は、毛皮に目が無いんだ。腕は確かなのに、この性格のせいでお客人が逃げちゃって。言って聞かせているのだが、」
イヤイヤ。俺達は関係無いぞ。と言わんばかりの顔をするジルとホムラ。
「お願いします。オオシロクマとオオクロクマの毛皮でコートを作らせて下さい。」
土下座する女性に対してホムラは、冷たい視線を送って呟いた。
「気色悪い」
思わず出てしまった言葉は、辺りが静かだった為、ジルにも女性にも老婆にもはっきりと聞こえた。
「き、気色悪いって」
女性がナワナワと震え出す。
言っていいことと悪いことがある。が、今のホムラの思考回路は変態=気色悪いになっている。
「確かに娘は変態だよ。それは、認める。」
「お婆様。えへへ」
娘は嬉しそうに笑う。
「誉めてないよ。」
全くと、深いため息を吐いた老婆はジルとホムラを見て頭を下げてお願いする。
「最後の仕事として、オオクロクマとオオシロクマの毛皮でコートを作らせて貰えないだろうか?」
無言のままジルとホムラは顔を見合わせる。
「(どうする?)」
「(どうしようか?)」
念話で会話をする2人。
「お願いします。先程は不快な思いをさせてすいません。ですが、最後に遣らせて貰えないだろうか?」
女性も頭を下げて話をする。
「お代はいらない。私達の最後の仕事として作らせて下さい。お願いします。」
女性と老婆はジルとホムラに対して頭を下げる。
しばしの無言でジルとホムラはオオシロクマとオオクロクマの毛皮を渡して3日後に取りに行くことを承諾した。
◇
蝦夷で有名な7つ星のホテルに泊まっているジルとホムラは、何処にも出ずに金貨1枚をかけてトランプゲームをしていた。
窓の外は、大雪。吹雪いてる。
どうやら明日は、雪が止むらしいが、乗り合い馬車も今日は動かないだろう。
トランプゲームも飽きて、ベッドに寝転ぶジルとホムラは何気に天井を見つめていた。
「ロートとネロがいないとこんなに静かなんだね」
「そうだな。なんやかんやいつも騒がしかったからな………」
「問題だらけで、飽きが来ない」
「その辺俺達は頭下げたり、謝罪の嵐どったりしたもんな」
「静かだね」
「静かだな」
「「………」」
「知ってました?僕、ジルの事が好きなんですよ。ただ、恋愛としてでなわくて、ずっとそばにいたい。ジルと一緒にいればとてつもなく安心出来る存在なんですよ」
「奇遇だな。俺もだよ。一緒にいると安心する。」
「ただ、傷をおったり、チャラ男や金の匂いにつられた女がジルに近寄るのは物凄く嫌ですね。」
「俺もだよ。ホムラが傷をおうのは嫌だな。それにホムラの料理は美味しい。俺なんて煮るか焼くだけだし」
「一度ロートに抱かれた事有りますよね。」
「ああ、あったな。」
「あれも嫌だったんです。汚された感じがして、だけど、抱かれた後、ロートの魔力が落ちたと言うより、少なくなって、替わりにジルの魔力が増大したんです。」
「ホムラもネロに抱かれただろ?」
「ええ。それ程テクニックは無かったし、ただ、痛いだけでしたが、最初で最後ですね。」
「俺も抱かれるのはあれっきりだな」
「そう言えば、青い黄身の卵があったじゃないですか、あれ2回程食べたけど、どんな味でした。」
「何にも味がしなかっただけど、食べるとしたら後1回で十分だよ」
(あ、不味かったんだ。)
「ロートとネロは何をしているかな?」
「必要な物はマジックバックに詰め込んでいますから、大丈夫でしょう」
「そうだな。変な心配せずに蝦夷の2人旅を楽しもう。せっかく、海鮮の旅に来ているのだから、それに蝦夷には最近発見された迷宮も有るしな。」
「あれですよね!。蝦夷の食材がドロップする迷宮」
「ああ、楽しみだな!」
「明日、コートを取りに行きましょう。」
「そうだな。3日も吹雪で外に出れな買ったからな」
「「………フフフ、アハハハ」」
ジルとホムラは久々に大笑いして、備え付けの魔石冷蔵庫から赤ワインを取り出して2人で乾杯をした。