8話
「優奈は後方で魔法の準備を、サポート方法は任せた」
僕たちは、街から少し離れた草原に来ている。
聞いた話によると、この草原は初級冒険者が討伐依頼の練習をするにはもってこいな場所らしい。
モンスターから身を守る壁がなく、完全に外の世界だ。
見かけるのはたいがいゼリースライム。
調理してもらうと食べることのできるモンスターなんだという。
僕は、パンチやキックをゼリースライムに向けて行うが、全然当たらない。
なかなか素早い奴だ。
「グフッ」
ゼリースライムは夏雄に体当たりをする。
ゲームみたいに体力ゲージが表示されるわけじゃないから、あとどれくらいで力尽きるかは、みんな感覚だよりらしい。
ちなみにまだ全然余裕だ。
「水の精霊よ、癒しの力を、ヒーリング」
優奈は夏雄に手のひらを向けて呪文を唱える。
すると夏雄が水色に光だし、打撃の痛みが完全に消えた。
「奇妙だけど、すげー、朝起きた時のスッキリな感じに似てる」
自分の常識にない魔法を体感し興奮する。
僕の格闘技の方は動作がずっしりしてる感覚だけだ。
「エクセラレーション」
続けて魔法を唱える優奈、僕の周りが黄色に光だし行動の速度がぐんと上がる。
ゼリースライムにようやく打撃がヒット、2発で動かなくなった。
遠くから新しいゼリースライムがやってくる。
「この調子でまた倒すぞ。さっきみたいによろしく」
「わかったわ、任せて!」
その後5体のゼリースライムを倒し、その日は引き上げることにした。
「魔法どうだった?実践してみてなにか掴めた?」
「詠唱なんだけど省略ができるみたい。でもその分、効果が弱いような気がする。勘だけどね」
「そうか、場に応じて使い分けだな。僕の方はシンプルだから特にないよ」
ちょうどお昼だ、お腹が空いてきた。
僕らはだべりながら街へ向かう。
「昨日はBランチの花鹿の焼肉、今日はなに食べる?」
「Cランチがいいんじゃない、まだ食べたことないし」
「決まりっ、すぐ帰るぞ!」
その時だった、優奈が真剣なまなざしで何もないところを見つめている。
「まって、何かいる。サーチ・・・・・そこ」
優奈が指差したところを見つめてみると、いきなりだ、目の前に大きな黒い熊が現れた。
「よくぞ見破った、あっぱれだ人間」
熊は行く手を阻み、抱えた魚をおろす。
「熊が喋ってる・・・モンスターなのか?」
熊は戦闘態勢に入って、また喋り始める。
「いかにも、魔王様配下の一匹ベアリー、見つかってしまっては仕方ない、お前ら二人とも食べてやる」
熊はいきなり、こちらに高速で向かってきて、夏雄にストレートを打ち込む。
夏雄はガードするが、ど派手に吹っ飛んだ。
「がはっ!」
「ヒーリング」
優奈は夏雄が力尽きるギリギリのところで、回復の魔法を使い命をとりとめた。
痛い、痛い、痛い、痛い、猛烈に痛い。
鈍い感覚の中最悪の気分だ。
これは本当にやばいことになった。
一発受けてみて、勝てる気が全くというほどしないのだ。
でも、戦うしかない。
「優奈さっきみたいに頼んだ、僕は最大の一撃をあいつにぶちかます」
「了解!無茶はしないで、エクセラレーション」
体が軽い、重力が無くなったみたいだ。
夏雄は走り出す。
魔力を振り絞って、熊の腹に一撃打ち込むことに成功する。
だが、熊は微動だにせず堂々としている。
見る限り全然きいていない。
殴ったこっちの手の方が痛いぐらいだ。
「冗談だろ・・・・・・」
打つ手がなく立ち尽くす夏雄。
「グオーーーーっっっ」
熊はビリビリと空気が震えるほどの遠吠えをする。
熊がまたストレートを繰り出す。
夏雄はギリギリかわすが、かすって吹っ飛ぶ。
これだけで死にかけてるのが感覚でわかった。
「ヒーリング、ヒーリング!・・・あれ?魔法が使えない」
熊は優奈に牙をむき襲い掛かる。
その時、優奈のペンダントがまばゆく光だし、熊の攻撃を防いで割れて無くなってしまった。
どうやらペンダントには一度だけ身を守る効果があったらしい。
それでもピンチは変わらない。
助けに行こうと思っても体が動かない。
こんな時思うのは、後悔ばかりだった。
どうしてもっとリサーチをしっかりしなかったんだ。
僕がもっと強ければ、こんなことにはならなかったのに。
「・・・・もっと時間があれば」
そう強く思ったときだ。
夏雄は、周りが段々スローになっていくのを目の当たりにする。
それは止まることなくスローになっていき、ついにピタッと止まってしまった。
時間が止まってしまったような感覚の中、自分の呼吸だけが動いている。
「・・・・打ち所が悪かったか?」
目をつむった次の瞬間だった。
暗闇の中、光る文字でリープと浮かび上がる。
目を開けると僕と優奈はギルドにいた。




