1-1 山道
…ぱきり。
足元の小枝が踏みにじられる。
子供の頃よく遊んだ裏山に登りながら、小枝みたいな人生だったな、などと益体もないことを考える。
幸せな家に生まれた。幸せな家で育った。
小さいながらも会社を経営し、休日には一緒にゲームをした父さん。
専業主婦で、帰るとおやつを用意して待っていてくれた母さん。
このまま幸せに生きていくんだ、そう信じて疑わなかった。
「幸翔」「こうちゃん」
両親が僕を呼ぶ、そんな声が、耳に今も木霊する。
歯車が噛み合わなくなったのは、いつからだろうか。
父さんが、家に帰らなくなった。
母さんが、家事をしなくなった。
その頃僕は、高校受験に追われて家族に目をやる余裕すら無くなった。
忘れもしない去年の夏。合宿から帰ってきた僕が見た光景は、缶ビールを片手にゲームに誘ってくる父さんでも、母さんの手作りの料理でもなく、首を吊っている両親だった。
夏の暑さで遺体はとうに傷み、腐臭と死臭、汚臭が漂う居間に立ち尽くし、
吐き続けることしかできなかった。
親戚の話によれば、父さんの会社はとうに経営が傾き、借金苦で自殺したようだ。
残った借金は俺が払う羽目になった、と叔父が文句を言ってくる。
無理もない。叔父と父さんは折り合いが悪かった。
僕が生まれる前に死んだ祖父の会社を父さんが継いだからだろう、
と酔った時に話していたのを覚えている。
僕は、叔父一家に引き取られることとなった。
そこからは地獄だった。従姉妹に風呂を除いたと濡れ衣を着せられ、叔母はそれがわかっているのに僕を
犯罪者のように扱った。叔父に至っては、日常的に殴ってきた。
地獄は地獄でも、生き地獄だった。
…だから、この山に来た。
一箇所だけ木が生えておらず、間に合わせのようにガードレールの敷かれた崖。
ここから飛び降りれば、確実に...
「...クソッ。」
覚悟してきたはずなのに、飛び降りられない。
僕が、一体何をしたと言うんだ。何がいけなかったんだ。
こんな仕打ちを受ける謂れがどこにあるんだ。
「ねぇ、チミ。」
…は?なんだこのふざけた喋り方とアニメ声は。
そう思い後ろを振り返る。
「もし、ここで死ぬつもりならその体、ボキに預けてみないかい?」
そこには、喋るタヌキのぬいぐるみがいた。
初投稿です。学業の合間にまったり更新していきます。