四話
お姉さんは魔法学校の長期休暇でこっちに帰ってきたみたいで、1週間くらいでまた戻っていってしまった。
お姉さんとの話は楽しくて、魔導学校の話を聞いてるうち魔導学校が楽しみになってきた。フィーエンさんのこと以外にも魔導学校に行く理由ができて、練習のモチベーションが上がった。
でも最近になって新しい悩みができた。ジークに魔法を教えてもらっているうちに、ジークの優しさとか……気遣いとか……そうゆうのを感じてしまって、この師弟関係をやめたくないな、と思ってしまったことだ。
ジークとの契約は僕が魔導学校に入るまで……もちろん僕が魔導学校に落ちればこの師弟関係は続くんだけど、魔導学校にだって行きたい。
幼かった僕は、フィーエンさんに会うために魔導学校に入るのが手っ取り早いと盲目的に信じていたけど、別に魔導学校なんかに行かなくてもいいんじゃないか、でも魔導学校にも……
そんな思いを抱えながら、日々の練習に励んでいた。
「オォ、そうダ。その調子ダ」
最近はジークの声が嬉しそうに聞こえるようになった。聞いている分にはめんどくさそうな雰囲気を感じる声ではあるんだけど、いつもより体がふよふよしてるところとか、いつもより少し大きな声とか、そういうところでジークが喜んでくれていることがわかった。
「いやいや、ジークのおかげだよ」
普段あまり褒められていなかった僕は褒められるとどうすればいいのか分からない。褒められると照れてしまって、取り敢えず否定から入る性格をどうにかしたい。
「いぃヤ、ルティーの才能のおかげダナ。ルティーは自分のことを凡才とでも思っているのだろうガ、どちらかと言えば秀才ダ」
「才能があるってこと?」
「アァ、そうダ。ただ、一発やれば大体分かるっていう天才とは違って、コツコツと積み重ねていく才能ダ。やり続ければそのうち天才を超えるだろうナ」
ジークから才能があると言われて僕は嬉しくなった。こんな日が続けばいいのに……
ジークに師事をしてから、一年とちょっと。今、魔導学校のある町までやってきた。いよいよ持って魔導学校の入学試験が明日に迫ってきたのだ。
「ジーク、今までありがとう。僕絶対受かってくるから!」
「楽しみにしてル。ったく、子どもの成長のなんと早いことカ……ついこの間までこんな小さかったというノニ」
ジークが自分の体で僕の腰あたりに触れてくる。いつの時代の話をしているんだ、なんて突っ込みを入れたり、二人で笑い合ってるうちに緊張がほぐれてきた。
「マァそんなに気負わずに頑張ってこいヨ。俺が一年以上も教えてたんダ。落ちるはずがないダロウ?」
「……うん!ありがとうジーク」
「……アァ」
話がしんみりしてきたところで僕は寝た。明日の本番までに最善の力を出せるように。
次の日、まずは実技の試験が始まった。大きな魔導学校の体育館と運動場、魔法試験会場を使った大規模な魔法の測定だ。
試験の日には後輩たちの激励にと現役の魔道士の方が何人もいて応援の言葉をかけていた。ジークによると見どころのある子を見つける目的もあるらしい。必死になって探してみたけどフィーエンさんは見つからなかった。
ちなみに魔導学校の先輩たちはどうやら休みのようで魔導学校には受験生しかいない。
「よし、次。番号1564ルティー。好きな魔法を二つ使ってみろ」
「はいっ!」
僕の番がきた。前の子は僕じゃ出せないような大規模な魔法を使っていて後に続くのは気が引ける。周りの人もあの次はかわいそうだ、なんて言ってるし……いや待て、自分の出せる最高効率の魔法を使うんだ!
ジークの言っていたコツというのを思い出して一つ深呼吸をしてから魔法を唱える準備をした。
「いきますっ!」
その後はなんか色々過ぎ去っていった。筆記試験なんかもあったが、大体がジークと一緒にやっていた場所ですらっといけてしまった。何があったかよく分からないまま半分放心した状態でジークの待つ宿屋に帰ってきて、ジークに説明した。
「イヤァ、たまに起こるんダヨ、そういうヤツ。なんていうンダ?ゾーンに入ったって感じカ?何にせよ自分の全力を出し切ったってこっタ。心配すんナ、受かってるサ」
ジークは僕の話を聞き終わるとケタケタと笑って言った。ジークの笑い声を聴くと本当に受かったような気がして嬉しかった。
それから1週間の合格発表当日、合格しているかどうかを見るために多くの人が集まっていた。
「えぇとえぇと、1564はっ」
「そう焦んナ。大丈夫ダ」
遠くからじゃ文字が小さくて読みにくく焦っていた時に、1564の番号を見つけた。
「やった!!受かってる!!受かったよジーク!!ありがとう!!」
「よかっタ。本当にナァ」
思わず泣いてしまったが、合格者には学校説明会があるので、これからも本番だ。
ジークを連れて説明会の会場に行くと、結構な数の子がいて、そのほとんどが泣いているようだった。
「受かったことが夢のようだよ」
「現実サ」
「ふふっ、分かってるよそんなこと」
「……なら、いいんダガナ」
その日、学校で使う教科書や資料などを受け取り、次の学校登校日までは自由にして良いと言われて帰った。
「何度もごめんね。ありがとうジーク」
「一回でいいサ」
「さて、そろそろ契約が切れるわけダガ……」
ジークは切り出した。もうすぐ僕は正式に魔導学校の生徒という身分をもらう。そのためその時になったら契約が切れてしまう。
「一つ、卒業課題を出そうと思ってナ」
「課題……?」
「課題は課題ダ。俺が一つ魔法を教えてヤルからその魔法を成功させてみセロ。それでもって晴れて俺から卒業ダ」
受けるのか?受けないのか?そんなことを言ってジークは僕を煽ってくる。
「受けるに決まってるよ。どんな魔法?」
「アァ、詠唱は……」
ジークは一つの魔法を教えてくれた。
初めて使う魔法だし、なんなら初めて知った魔法だけど、なんとなく使い方がわかった気がする。
「よし、それじゃいくよ?」
全力で魔法を唱えると、ジークの魔導書が光り出した。ひとしきり光終わったことがわかったので、眩しくて閉じていた目を開いて見るとそこには一人の男性が立っていた。
「……ジーク?」
「あぁ、そうだ。俺がジーク。そして、この姿では初めましてだなルティー。フィーエンだ」
理解が追いつかなかった。だって、ジークは悪魔だって……
「いやぁ、諸事情があってな。色々あって本に閉じ込められていたのさ」
ジークは……フィーエンさんはジークの時のガラガラした声じゃなく、低いながらもよく通る声で言った。
「えっ、フィーエン……さん?えっ?」
本当に理解の範疇を超えていたが、かねてからのあの言葉を忘れることはなかった。
「フィーエンさん!あの時、僕を助けてくれてありがとうございました!!」
フィーエンさんは微笑みを浮かべて頭を撫でながら、どういたしましてといった。
ちなみに後になって聞いてみると、どうも封印の魔法の開発をしていたらしい。
戦闘魔道士なのになぜ開発をとも思ったが、その封印はどんなに強力な奴も無力化するといったリスクのある魔法で誰もやりたがらなかったから自分で開発していたと。それで自分の魔法が暴発し自分が封印されちゃったらしい。
僕に魔法の安定感の重要性を教えていたのもその経験があってのことなのだそうだ。
そして、数年ぶりに魔道士の同僚に会ってみたら、なんだ居たのかみたいな反応をされて、迷惑をかけてないようで安心したと同時に悲しかったと話した。正直、ジー……フィーエンさんにも悲しむことがあるのかと驚いた。
「やぁ!少年!受験成功おめでと〜!」
「お姉さん!いや、先輩!ありがとうございます!先輩のおかげです!」
「いやぁ、先輩かぁ!君に言って貰えるなんて嬉しいなぁ」
学校ではお姉さんとも会うことができて嬉しかった。
思えば入学までにいろんな色んなことがあったけど、ジークに師事していてよかったなと思う。今ではジーク……フィーエンさんのことを心の中で師匠と呼んで慕っている。