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二話

「アァもう!そこは魔法に込める力の分量が間違えているダロ!詠唱自体は完璧なんだガ」


 ジークに師事してもらってから少ししか経っていないが早速辞めたくなってきた。

 ジークの教え方は上手で、こっちのことを考えて指導してくれているのは分かるんだけど、少し言葉がきつい。

 ジークは正しくて、それを素直に受け取れないのは自分のせいだとは分かってるけど、自分が弱いと常々感じて、コンプレックスになっている僕にはジークの言葉が刺さりに刺さった。


「何だよ力の分量って!具体的にどんなくらい教えてよ……」

「そうは言ってもそれこそ人それぞれダ。俺が具体的に言ったところでルティーに最適かどうかは分からないし、変な癖がついたらもうどうしようもなくナル。数をこなしていくしかナイ」


 ジークは最初に効率的な魔法の出し方というものを知ることが大事だと言った。そこからはずっと、色んな魔法を出すだけの地味な練習と色んな座学だった。

 たしかに大事だとは思うけど、それとこれとは話が違う。だって魔法を撃つだけなら別にジークがいなくてもできるし、座学だってそんなに必要だとも思わない。


「ねぇジーク。これで本当に魔法上手になるの?」

 ジークに師事したいと言ったのは自分だったが何度も何度も聞いてしまった。その度にジークは決まって

「アァ?やらんでも上手くはなるかもしれんガ、やらんと危険ダ。自分の力の出し方を覚えておかねば、いざという時に少し毛色の違う魔法を使っただけで全てがおしゃんになる可能性がアル」

と言う。その後に続くのは、嫌なら契約は打ち切ってやるが今後は受けんぞ、だった。この言葉に色んな言葉が浮かんでも口から出てくるのはごめんなさいの一言だった。



「詠唱は完璧なんだけどナァ……非常に惜しイ」


 何度も言われてイライラが収まらなかった。

「天才は?天才って呼ばれる人は力加減とかも一発でわかるもんなの?」

「天才か?アァそうダナ、そうサ。ただあいつらは変態ダ。あんま気にすんナ。それよりも丁寧に魔法を使えるようになった方ガ……」

いい、とまでは言わせなかった。自分から始めた天才の話で、ジークからお前は天才ではないと言わせて逃げるのは卑怯だと思う。


 でも、正直これが限界だと分かった。ただ諦めたくなくて、ただ魔法の練習を辞めるのは怖くて、でも逃げたくて。何のために魔法の練習をしているのかも分からなくなっていた。

 オイ!待テ!と止めようとしてくるジークを見ず、ただ離れたい一心で、なるべく人の少ないところへと逃げていた。


 ふと気づけば、そこは森だった。もうすぐ夜だと言うのに、色んな魔法が自然に漏れ出しておりキラキラと森の中を照らしていた。

 ――そういえばこの森、ジークと出会った場所だっけ――

このキラキラの景色に、なぜか見覚えがあるなと思ってよくよく考えてみるとここはかつて僕が迷った森だった。


 この思い出の場所は自暴自棄になっていた僕にとってはとても落ち着ける静かな場所で、しばらく何も考えずにボーッと座っていた。



「うん?こんなところにどうしたの?迷子?」

 声をかけられた気がして後ろを振り向くと女の人が一人で立っていた。何か返事をしないとと思ってはいたが、急に声をかけられたので声が出ず、

「え?あ、うん……」

と歯切れの悪い返しになってしまった。

「ふーん、違うっぽいね。当てて見せようか?家出でしょ、君」

女の人は少しいたずらっ子みたいに笑って言った。家出と言えば家出なので、こくんと一つ頷いてみせると、お姉さんは僕の隣に来て座った。

 辺りがキラキラ輝いているとは言え、夜の暗さで見えなかったがこのお姉さんはどうやら魔導学校の生徒のようで、魔導学校の制服を着ていた。

「お姉さん、魔導学校の生徒なの?」

「そうよ?すごいでしょ!」

 お姉さんは明るい笑みを浮かべてそう言った。魔導学校に在籍していることを誇りに思っているようで、羨ましかった。

 すごい、と答えてから続ける会話が出てこず、静かに座っていた。


「……なんで家出をしたの?」

 お姉さんが静寂を破って聞いてきた。

「魔法の練習が嫌になって……」

「どうして魔法の練習を?」

「……魔導学校に入りたかったから、知り合いの魔法の上手な人に教えてもらってた」

 お姉さんはなるほど、と言って少し考えてから、

「どんな練習をしてもらってたのかな?」

と質問してきた。

 お姉さんには、魔法の出し方が大事だからと言われて延々と色んな弱め魔法を撃たされて、強い魔法を教えてもらえなかったり、よく分からない座学をさせられたりしたと詳細に答えた。

 お姉さんはそのまま目を数秒閉じてから言った。

「ふんふん、君はどうして魔導学校に入りたいのかな?強い魔道士になるためなのかな?」

「いや、魔導学校に入りたくて……」

「夢は魔導学校に入ってから強い魔道士になること?」

「いや……会いたい人が、会って伝えたい言葉がある人がいて!」

「じゃあ、君に魔法を教えている人は良い師匠だよ。たしかにその練習じゃ、すぐに大魔道士に慣れるとは思えないし、座学なんてもっと要らない」

 なら……と口に出しかけた僕を遮ってさらに続ける。

「でも、魔導学校はあくまでも学校なんだよ。強い魔法をバンバン撃てる子と地味な魔法しか使えないけど安定感のある子は評価がトントン……いや、後者の方が評価が高いかもしれない。魔法を使う上で安定感というのはとても大事なんだよ!」

 お姉さんは少し大きな声を出して、魔法の安定感について語った。

「それに、座学だって毎回あるからね。いくら実技がよくてもテストの点が悪ければ……ね?」


 お姉さんの言ったことは衝撃だった。僕の目的はなんだったのかということを再確認させられた。僕はあくまでフィーエンさんに会いたいのであって、大魔道士になることじゃない。

 お姉さんのおかげで少しやる気が出てきたのは事実であった。


「ありがとう、お姉さん!」

「いやいや、こっちこそ。私だってまだ入って一年目のぺーぺーだし、あんまり点数も高くないから威張れないんだけどねー。でも、何かあったらまた、話を聞かせてよ。多分この辺の時間ここにいるから」

「うん!また来る!」


 お姉さんと出会えて良かった。意気揚々と歩き出して、ふと大事なことに気がついた。

「お姉さん……道、分からない……」

お姉さんは目を丸くした後、大爆笑していた。すごく恥ずかしかった。

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