最終話 財布には金額以上に、価値あるものが入っている
「……長くない?」
警察の方々が、コンビニのレジ裏に行ってから、1時間が経過した。時刻はそろそろ、15時になる頃か。
警察官の方々は店内で待機するように言っていたので、仕方なく、俺は他のお客さんも行き来する店内でうろちょろしていた。
「はぁ……昨日のことがあって、すぐに家を出たから、シャワーも浴びてないんだよな……」
炎天下の中で警察を待っていたこともあり、体中が汗だくだ。
「あのー」
俺は心房堪らず、手暇にしているコンビニの店長に声をかけた。
「まだ掛かりそうですかね?」
「あー、ちょっと聞いてくるね」
「お手数をおかけします……」
本当にこの店長には頭が上がらない。
そして、すぐに女性の方の警官がやってきた。
「すいません、どうかしました?」
「いえ、実は、17時位から予定がありまして……。それまでに帰りたいところでして……」
「え! あー」
女性警官はすこし難しそうな顔で時計を確認し、考え込む。時刻は、現在15時前である。
「けっこう時間的に厳しそうなんですよね……。巻で終わらせるようにしますね」
「え、あ、はい……」
流石に俺も戸惑った。
いや、警官が来たのが14時くらいで、今一時間くらい経って、まだまだ拘束されるという。
長くね……?
3時間は平気でかかるってことだよな……?
というか、俺は何時間もコンビニの前で、何もすることなく、イートインスペースも無い店内で待機だよな。
いやいや……。
唖然としつつ、三十分ほど経過した。
警察官がレジの裏にいるので、気を使って店内にいたが、周りのお客さんの目が辛かった。
「古田さん、書類の方のご記入をお願いできますか?」
「あ、はい」
やっと、レジ裏から女性警官がやってきて、俺に声をかけた。
「それで、盗難が行われた経緯の確認ですが……」
「はい。まず私はそこの居酒屋で呑んでて……」
女性警官は俺が財布を落としたあらすじを尋ねたので、何度話したかもわからない話を俺は答えた。
俺が敬意を答え、警官が質問し、それを返す。 重箱の隅をつつくような警官は聴取をし、それを一字一句A4のコピー用紙にメモをしていく。
だいぶ長く、炎天下の外でやっている。
てか、もう30分はやってんじゃねーのか……?
「お財布、早く見つかるといいですね」
女性警官は優しく言ってみせた。
しかし、酔っぱらいが過ぎたとはいえ、財布一つでだいぶ苦労した。
これから、免許証を再発行しなきゃいけないし、キャッシュカード、保健書だって早く発行しなきゃいけない。
財布というのは、金銭だけではない大事なものが詰まっているんだなぁと感じる。
「ええ。今後はお酒に呑まれないようにしたいですね」
そう俺は笑顔で答えた。
「確かにそうですね。ああ、そろそろ古田さんの用事の時間ですね。早く切り上げれるようにしますね。……ちなみに、どんなご用事なんですか?」
「ええ、家族とご飯を食べに行くんですよ」
「へぇ。ご家族と。楽しんできてくださいね」
「ええ、日本酒をいくら呑んでも奢ってくれるらしいので、楽しみです」
俺は、笑顔で答えた。
この小説を始めてから、約一ヶ月が経ったでしょうが、未だに財布は見つかっていません。
警察官に『帰ってくる見込みってありますか?』と、尋ねましたが、十中八九見つかる。ただし、いつになるかはわからないとの答えでした。
一年後、ふらっと見つかるケースもあるようです。
この小説を執筆するにあたって、皆様に伝えたいことが一つあります。
財布を盗むのは良いですが、カード類だけは返してください。