2話 窓口が24時間やってて良かった
「あ、〇〇銀行さんですか? えっと、キャッシュカードを紛失しまして、ええ。はい。停止させてくださればと……」
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「あ、〇〇警察署ですか? 実は財布を落としまして……。ええ、はい、遺失届で。黒革の財布で、メーカーはCROCODILEです。はい、キャッシュカードが2つと、免許証も入ってるはずです。はい、見つかったらよろしくおねがいします。電話番号は……」
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「とりあえず。キャッシュカードの停止と、警察への遺失届は終わったか……」
缶ビールやらペッドボトルやらが散らかっている1dkの部屋の中、俺は布団に寝っ転がりながら一呼吸した。
時刻は深夜3時のことである。
キャッシュカードの窓口や警察の窓口って、24時間やってんだな……。すげぇ。確かに、俺みたいな頭のおかしいやつは深夜に電話をかけるんだろうが、それでも、対応してくれるなんて驚きだ。
「あー、気持ち悪っ」
今になって、二日酔いが来た。頭が重い。
しばらく、休みが少なかったし、だいぶ疲れが溜まってる中、呑みすぎた。いつもより体が持ちこたえれなかったのも頷けるな……。
あーあ、万全だったら、もっと呑めたのにな。
そこだけが、悔いが残る。
「えっと、とりあえず財布だ。えっと、会社の飲み会では先輩が全部払ってくれたやろ……? その後、飲み足りなくてまっすぐ酎ちゃん(店名)に、いって、友くんを呼んで……あれ?」
俺、酎ちゃんで会計をした覚えがないぞ?
友くんは何だかんだ、俺が潰れたら会計してくれるキャラクターだし、黙って払ってもおかしくない。
俺は酎ちゃんまで財布持ってたのか?
自分がどの段階まで財布持ってたのかが分からん。
「とりあえず、連絡するか。ワンチャン、彼女と音声通話してる時間だろう」
思えば、彼女と話してるだろう時間にムサい男が横槍してきて出るわけがないだろうが、その辺りはすっかり忘れ、とにかく俺はライン通話で友くんに発信した。
「……出ないな」
とりあえず、ラインで「ごめん、いま話せる?」
と打ったが、それにも既読がつかない。
あんにゃろ、JKの彼女とお楽しみか……?
いや、まぁ俺もJKのかわいい彼女がいたら男の連絡があっても無視するか。できれば俺より身長が高くてスレンダーで、俺の尻を蹴ってくれる女の人だと嬉しい。
まぁ、それはともかく。
「友くん、とりあえず寝てるか。今日の昼にでもまた連絡するとして、問題は……」
キャッシュカード。
だろうな。
クレジットカードは、不幸中の幸いにも持っていないから大丈夫だったけど、キャッシュカードがないと一文無しだ。
一文無しの何が問題かというと、ミネラルウォーターが買えないということだ。
水のみてぇ……。でも水道水は美味しくないんだよね……。
「あー、とりあえず、気持ち悪いし吐いてくるか」
何にしても腹の中にアルコールが残ってるみたいなので、さっさと内容物だけ吐き出して行こうとトイレに向かった。
つーか、トイレ汚ねぇ。シートでさっと拭いて、喉元に指を突っ込み、そして便器の臭さを鼻に入れて、
「ゔぉれっっっ!」
吐けた。
凄い、俺の吐瀉物、透明の水だ。
本当に焼酎しか呑まなかったから、胃の中には焼酎しかなかったんだな……。
こんなゲロは初めてだ。
「ゔぉれっ!」
追加で吐いてみても、やはり固形のゲロはなかった。本当に、焼酎しか飲んでないんだなぁ。
「うん、スッキリした!」
酔というのは奇妙なものだ。
朝あれだけ苦しかったものが、さっさと吐いてしまえば少し楽になる。
「あー、思い出した。キャッシュカードは駄目だけど、通帳で下ろせば良いか。郵便局に向かえばいいな。ATMは土日でもやってるはず」
やはり酔ったときは無理矢理吐くに限る。