1話 焼酎を頼んだところまでは覚えてる
「お兄さん、意識ありますか?」
「うぅ……あう……」
その声で、俺は少しだけ意識を戻した。
えっと、どうしたんだ俺……?
確か、会社の飲み会があって、そこで分かれたあと、近所にある飲み屋に寄って、ええっと、確か焼酎をめちゃめちゃ飲んだ覚えがあるが……。
あれ、ここ何処だ?
「えっと、ここ……」
酔が覚めない中、俺は霞むような声で呟いた。
眠い、視界が薄い。
「警察署です」
「……はぁ」
眼の前にいたお兄さんが答えた。
警察署か。
ふむ。
「お兄さん意識あります? お名前は?」
「古田、賢治」
「あー、ようやく意識を戻したみたいですね。駄目ですよ? 呑み過ぎたら」
「ええっと、俺は……」
「道端で倒れてたんです」
なるほど……。
「覚えて、ないんですけど」
「呑みすぎですね」
なんで警察署に……。ああ、倒れてたからか。
ともくん(一緒に呑んでた友人)は、無事帰れたんかね。てかどこで別れたんやろ。
「身分証明書は……ああ、無理か。お兄さん。家の住所言える?」
「えっと、名古屋市の」
「はい」
「〇〇区、✕✕1丁目……合ってますかね?」
「それを私に聞かれても……」
あー、警察って俺の住所しらないんだ。
「あの、ええぅと、マンハッタン名古屋って名前のアパートなんですが……」
「あー、はい。こっちで調べますから」
警察官のお兄さんは俺の住所を調べる。
まもなくして、お兄さんは俺の住所を特定したらしく、
「はい、そこね。とりあえず、今から送ってあげるから、すぐ帰ってくださいね」
「はぁ……」
そう言われ、俺は警察官二人に引っ張られながらパトカーに乗った。〇〇警察署……。そういえば、前になんかの用事できたことがある。家も割と近い。
「あの、俺ってどうしたんですか……」
「いや、道で倒れてたんで、通報があったんですよ」
「ええ……」
「あ、それとここにお名前と住所、電話番号の記入をお願いします」
「はぁ……」
パトカーの中で何かよくわからない書類を渡され、とりあえず俺は適当に書いていく。
「字、かけますか?」
「なんとか……」
ミミズのような字で良ければですが。
「かけました」
「……。はい。まぁ良いでしょう」
「じゃあ出発するから」
運転席にいた、中年くらいの警官が合図をすると、パトカーは発進する。
「えっと、俺って道で寝てたんですよね」
「はい。思い出せませんか?」
「あ。全然わかんないです……。それで、警察に、捕まったんですよね……?」
「捕まったというか、保護ですね」
「申し訳ございませんでした……!」
ここに来て、今の状態を理解した。
俺はどうやら、居酒屋で呑んでる途中で意識をなくし、どういう経緯か道端で倒れたらしい。
閉店ギリギリまで呑んで店長に追い出されたのだろうか、いや、あの店長がそんなことするとも考えにくい。
「まぁ、今後は気をつけてくださいね。道端で寝るなんて危ないですから」
「古田さん、さっきまで全然意識なかったみたいだしね」
「相当飲んでるみたいなので、とりあえず運びましたけど、意識が戻ってよかったです」
「はい……。警察の方にも、ご迷惑をおかけして申し訳ございません……」
「いえいえ、自分たちは仕事ですから」
なんてかっこいい人たちなんだ。
夜勤で糞大変なところ、こんな意識のない酔っ払いの介抱をしてくれた上に、こんなことをいってくれるなんて。
お役所仕事なんて言葉を作った人は、きっと地獄で舌を抜かれているに違いない。
「ああ。帰ったら身分証明になるものを出してくれますか?」
「え? ああ……。免許証でいいですか?」
「いえ、帰ってからでいいですよ」
「え?」
その言葉の意味を、俺はすぐに気がついた。
俺がポケットを確認すると、スマホと、鍵、それにレシートが1つあるだけだ。
財布が、ない。
「お財布が無いんですよね」
「え、あ、は。はい……」
「落とされたんだと思います。あとで遺失届出してくださいね」
「……」
サイゼリヤで小エビのカクテルサラダとハンバーグ、それにデカンタのワインを食べながら執筆すると捗ります。