調査開始
ヤマトは3人の候補者の中で最後の演説になる。演説に先立って今中さんから推薦理由演説がある。
「…………という総合的判断で今回、桜井ヤマトさんを生徒会長に推薦いたします」
「今中さん、ありがとうございました。それでは桜井ヤマトさん、よろしくお願いします」
「皆さん始めまして。桜井ヤマトと申します。今回1年生ではありますが、今中さんの推薦を頂き立候補することになりました。それでは私から公約を皆さんにお伝えいたします。今、皆さんのお手元に資料が届いていると思います。その資料に基づいてご説明させて頂きます」
ヤマトは
「指定校推薦の拡大と更なる学校力アップについて」
と書いてある資料の説明を始める。有権者の学生は驚いているだろう、特に真剣になるのは進学を控えた3年生、ここが恐らくヤマトの大票田になる。
「…………指定校推薦の拡大ついては既に学校側にも通達されており決定しております。公約というよりは実績と捉えてもらって構いません。そして、ここからが公約です。公約には細かな資料はありません、2つのことをお約束します」
「まず、ニューヨーク工科大学への留学についてです。お手元の資料に明記してある通り、実費での留学は可能になっております。公約として、それに加えて授業料と渡航費が無償になる特待生留学枠を獲得したいと考えております。それには当校校長先生、生徒会長、生徒代表の3者で面接を受けなければなりません。私が生徒会長になることで面接を受けることが可能になります。そして、必ず待生の留学枠を勝ち取ってみせます」
「2つ目は、学校内に大きなレストランを作りたいと思います。地域の方にも来て頂けるようなレストランを! 財源に関しては詳しく話せませんが、これを生徒会長の任期を使って成し遂げたいと思います。想定は2年はかかりますので、来年度の生徒会長選挙でも同じ公約を掲げます」
「それでは投票をよろしくお願いします」
終わった。あとは投票前に立会演説会があるだけ。事前準備も完璧なので特に用意することもない。
「桜井くん、本当にありがとう。私の意を汲んでくれて……全力で協力するから!」
「今中さん、こちらこそありがとうございます。これ刺さりますよ」
今中さんが生徒会長になってやりたかったこと、それは学校内にレストランを作ること。最低でも2年はかかるのでそれをヤマトに託したかったのだ。それに……ヤマトには飲食関連の強力なコネクションがある。ヤマトにとっては実現しやすい公約でもある。
「ねえ、桜井くん……名前で呼んでもいいかなぁ。生徒会はね、伝統的に名前で呼び合うって暗黙の了解があるの……」
「逆にお願いします! みのりさん、って呼んでもいいってことですね、とても素敵な名前です。一度呼んでみたかった(笑)」
女心をくすぐってみた……素直に顔が赤い。みのりさんの純粋な心に触れた気がした、青春バンザイ!
「うん……よろしくね、ヤマト!」
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学校生活にも慣れてきた。そろそろ真の目的も始動させなくてはならない。ジョージからは伊集院さんの事故について多くの資料が届いている。伊集院さんを知っている人を探し出してヒアリングをしたり、聞き込みもしたい。だが、仲間がほしい。まず巻き込むのは……奴らだろう。それと生徒会を利用する。
〜土曜日に3人に相談があります。高級ステーキ奢るので来れる方は12時半に横浜駅に集合で〜
4人のグループチャットに連絡をしてみた。個人的に連絡することが多いヒロシにも相談があるとだけしか言ってない。ヒメリンの情報をたくさん持ってそうなので、あおいの協力は是非欲しいところ。開示する資料も選定済みである。
「ありがとう、みんな集まってくれて!」
「高級ステーキは外せないよな」
「あおいもニカもありがとう!」
「高級海鮮焼きもあるなら外せないわ!」
仲間とはこんな感じで出来ていくものだ。とても有難い。協力をしてもらう手前、接待は重要。ステーキと鉄板焼のお店をチョイスした。
「いやー、こんないい場所奢ってもらえるなんて。犯罪絡みのお願いとかなの?」
「法は守る……多分」
みんな楽しそう。3人に協力してもらうが、正直成果はどうでもいい。大切な調査ではあるが半分は娯楽のようなものである。
「本題だけど、実は……伊集院姫さんのことを色々調べてるんだ。謀殺説や生存説、憶測の域を出ないが、様々なことが囁かれている。この真相を解明したい」
「私、ヒメリンのことなら喜んで協力する!」
「私も……面白そうだし」
あおいもニカも乗り気になっている。
「ここで1つ気になる資料……これは今回の墜落事故の経緯を調べたもの、これが原本で、これは僕が要約したものなんだけど」
「ヤマトってほんとにスゲーな」
「この角度で墜落してるんだ。他のケースと照らし合わせてみると……明らかに、おかしい。この角度で墜落するとしたら……全機能が停止したか自動運転しかない」
「それ、本当なの? 第一その資料って……」
「ああ……これね。合衆国の偵察衛星が捉えていた画像をニューヨーク工科大学の友人に分析を依頼したんだ。彼も明らかにおかしいって。仮に、全機能停止なら、謀殺説が当てはまる。けどもし……自動運転ってことになるなら、生存説も一理ある」
「で、何を調べるの?」
「伊集院さんと親しくしていた方から事故について聞き取り調査をして欲しい。オレは企業の方をあたる。みんなは学校関係者を当たってもらいたい」
「なんで? それ意味あるのかな?」
「オレの仮説は……まず伊集院さんは生存してると思う。墜落自体がフェイクで、目的は……伊集院さんの身の安全かな。伊集院さんが親しくしていた人なら何か情報を持っているかもしれない。悲しむ様子があるかどうかも重要、悲しまないとおかしいからね。とりあえず仲の良かった人にアプローチしてみよう」
「え? 誰から?」
「今分かっているのは……足立舞さん。サッカーの!」
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