表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/92

SS〜永久(とこしえ)の恋 手紙

 気付くと薫は自宅に居た。ななこちゃんが滞在しているホテルの部屋を出てからはあまり覚えていない。どこかを彷徨っていた……。


 薫の目の前には2通の手紙がある。1通は4年前、プロポーズをした日付、そしてもう1通は約半年前。心の準備が出来た、4年前の由美子からの手紙を開封した……



 愛しの杉田薫様へ


 薫さん、プロポーズしてくれてありがとう。とっても驚いたけど心から嬉しかったです。自分がドラマのように恵比寿のチャペル前でプロポーズされるなんて……夢みたいです。咄嗟に嘘ついてしまったけど、もちろん答えは、イエス、です。私は今日から杉田由美子として生活することにしました。


 本当はプロポーズされた日に私の病気のことを薫さんに伝えようと思っていました。変異型ヘルペスウイルス感染症、現代の医療では治療が出来ない病気です。私が病気だと話したら、薫さんはきっと私とずっと居てくれるでしょう。だけど私は薫さんを束縛して、薫さんの将来を台無しにすることは出来ませんでした。なので薫さんを傷つけるような嘘を咄嗟に付いてしまいました。本当にごめんなさい。もちろん今でも愛しています、私の命が尽きるまで、私は薫さんを愛し続けます。そして、いつの日か、もし、この病気が克服出来たなら……今度は私が薫さんにプロポーズに行こうと思ってます。もし奥さんが居ても略奪してみます! それを励みにこの病気を立ち向かいます。


 最後にこの病気に立ち向かえる勇気をくれたこと、心から感謝しています。そして嘘をついたことはごめんなさい。そして、やはり1番伝えたいのは……あなただけを愛しています。いつか、またその言葉伝えます。


 あなたの花嫁 杉田由美子 より



 涙は枯れ果てた。そして薫の心は既に壊れている。様々な後悔の念が渦巻く……あの日以来、薫は由美子に連絡をしなかった。確認の連絡さえしなかった……それは由美子が他の人と幸せにしているからだ、と勝手に判断していた。もし、一緒にいてあげられたら……もっと由美子の為に出来ることがあったはず……。


 もう1通の手紙……これはもう開ける勇気がなかった。由美子のことだ、きっと薫への沢山の感謝と愛の言葉で一杯なのだろう。今、それは読めない……。



△△△△△△△△△△△△△△△



 数週間後、薫は日本に帰ってきた。由美子と向き合う覚悟を持って戻ってきたのだ。これからは外国なんかに逃げず、ここ日本で生きていこうと決めていた。まずは会いに行かないと…………



「こんにちは杉田さん」


「こんにちは、ななこちゃん。今日はありがとうね。一緒についてきてもらって……」


「いいえ、今日は姉のためにありがとうございます」


 ななこちゃんと一緒に由美子が眠っている場所まで行くことになっていた。横浜から電車に乗る。小さな駅の改札でななこちゃんと待ち合わせをした。



△△△△△△△△△△△△△△△



 杉田さんはニューヨークで姉さんの手紙を渡した次の日に連絡をくれた。日本に帰って由美子に会いに行きたいと。あの日、姉さんの手紙を渡した時、不意にも泣いてしまった。杉田さんはそんな私を抱きしめてくれた……それも心が落ち着くまでずっと……。姉さんが心から愛した男性……やはり姉さんは凄い! オトコを見る目は完璧である〜杉田さんは心から優しく、素敵な男性だと感じた。姉さんとはお似合いだ…………


 待ち合わせ場所に杉田は先に来ていた。挨拶を交わしタクシーに乗り込む。


「ななこちゃん、今日は付き合わせてしまってごめんね。いつか埋め合わせするからさ」


「いえいえ、姉さんのためにこちらこそお礼をしたいくらいです」


 会話をしていた時に、ななこは気付いた。杉田さんの左手の薬指にはマリッジリングが……ななこは納得する、これ程優しく素敵な男性を世の中の女性が放って置くはずがない。姉さんのオトコを見る目は神なのだから。


 マリッジリングについては話さなかった。だが、姉さんに会いに行くのだから、外してほしいなぁ、とは思った。が、これも杉田さんの人を思い遣る気遣いなのだろう。



「ここかぁ。少し開けてて見晴らしがいいね 由美子が眠るにはピッタリの場所だね。風も心地よい……」


「はい……あの、本当にありがとうございました。姉さんは杉田さんにプロポーズされた事が励みになって病気に挑むことが出来ました。未知の病気なのでモルモットのように色々験されましたが、それも本望だって」


「由美子らしいな。きっと自分が治ること以上に病気の治療法に貢献したいとか、そんな感じで考えてたんだろ そういう女性だから」


 そう言いながら、杉田さんは手を合わせる。そして……小さな箱を2つそっとお供えする。


「由美子、ごめんな遅れちゃって……これは4年前に用意した婚約指輪、そして、これは同じタイミングで買った結婚指輪。これでお揃いだな、これからずっと………………これからもよろしくな」


 ななこの心に杉田さんの言葉が突き刺さった。左手のマリッジリングは姉さんとの……もう涙が止まらない。姉さんは本当に愛されていたのだ……。感情の乱れ、自分ではどうしようもなかった。



△△△△△△△△△△△△△△



 ななこちゃんとベンチに座っている。もう周辺は夕日に照らされている。今日、正式に由美子に結婚指輪を贈った。だからななこちゃんは今日から義妹だ。肩を抱きながら心が落ち着くまで待っていた。


「杉田さん、私…………」


「やっと落ち着いたかな……夕日、綺麗だね」


「姉さんは幸せ者ですね。本当に愛されていて……」


「さっき由美子に結婚指輪を贈ったから、今日から、ななこちゃんは僕の妹だね。いつでも頼ってほしい」


「杉田さん、素敵ですしエリートですから恋人くらいすぐ作れますよ」


「それは無理かな。何度もトライしたけど……生まれ変わらないと次の恋には進めないと思う。だから今日から兄さんって呼びなさい、僕もななこ、って呼ぶから……」


 もし由美子が居たら、次の恋に進めない、なんて言ったら怒られるだろう……しっかりして、と。だが、それでもいい。今は由美子が大好きだった妹の力になりたい、そう思った。そもそも、薫は由美子と別れてバツイチになる気はない。


 こうして薫は由美子と永久の恋の契りを交わした。薫は死ぬまで由美子を想うと心に決めた……。

みなさんいつもありがとう


 これでショートストーリーはおしまいです。第一章完結まであと少しお付き合いください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング cont_access.php?citi_cont_id=642620493&size=300 ネット小説速報
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ