SS〜永久(とこしえ)の恋 真実
「スギタ、このプロジェクトも大成功だったな。もしかしたら君は世界一のエンジニアかもな(笑)」
「チャン、そう言ってくれて嬉しいよ。君もなかなかだと思うが……私のほうが少しだけ上かな……」
薫は29歳になっていた。4年前、日本に戻ろうと決意したが、彼女に振られ、辛さから逃れるためにニューヨークに残った。この4年でかなり成長した……しかし、女性に関しては、4年前のトラウマから抜け出せない。もう人を愛することは出来ないだろう、と感じた。
「スギタ、君に招待状が来てるぞ……なんだろ、吉井ななさん、知ってる?」
「アリー、誰からだって?」
「吉井ななって確か女優さんじゃない? ブロードウエイで今度公演するって何かで読んだわ! さすがね、杉田の活躍聞きつけて送ってきたんじゃない?」
「ホンモノなのかなぁ、週末ならみんな空いてるだろ、3枚あるからみんなでいってみるか!」
吉井なな、日本で活躍している女優さんのようだ。謎に包まれた女優さんで今回アメリカ進出をする。その程度の知識しかなかった。そもそも女性はウンザリ、興味もない。でも、薫の心には少し引っ掛かる所があった。チケットは3枚、薫はプロジェクトパートナーのチャン、アシスタントのアリーと3人でミュージカルを観に行くことにした。
「お、これでみんな揃ったな! では行こう!」
席に行ってみると……そこは1階中央の特等席だった。他の2人は感動している。演目は雪の女王、吉井ななが主演を務める。
「ねえ、スギタ。さっき、劇場スタッフの人がこれをスギタにって……」
そこには、終了後に控室に来て欲しいと書いてある。やはり…………。そしてミュージカルか始まる、
「あ! ななこちゃん…………」
「ねえ、スギタ。あの子知ってるの?」
「知ってる。詳しくは言えないが……」
「もしかした、以前振られた彼女とか? だったら私、ぶん殴りたいっ。スギタが今も傷ついていること謝らせたいよ!」
「安心して、それはないから」
ななこちゃんは由美子の妹、芸能事務所に居ることは知っていたが、ここまでの女優になるとは……。懐かしい、由美子の近況も聞ける……複雑な気持ちだが、チケットのお礼もしないとならない。
ミュージカルは……素晴らしいのか、どうなのか、よく分からなかった。チャンとアリーが喜んでくれたのは何より、ミュージカル終了後指定された場所に行く。
「すみません、杉田です。吉井ななさんにこちらに呼ばれまして……」
「あー、聞いてるよ。今日はちょっと手が離せないみたいなんだ。これ、預かってるから……」
また日時と場所を指定されたメモが渡された。プロジェクトがひと息ついた状況なので、指定された日は空いていた。その日はちょうどミュージカル最終日の翌日、場所はマンハッタンのホテル。
△△△△△△△△△△△△△△
マンハッタンの高級ホテル。薫はロビーでななこちゃんを待っている。何やら騒がしい……口論している、ななこちゃんだ……。埒が明かなそうなので薫から声をかけてみた。
「あのー、ななこちゃん?」
「杉田さん! お久しぶりです」
「どうしたんですか?」
「杉田さんと私の部屋で2人きりでお話したいって言ったら猛反対されてしまって……他人には話せない、2人でお話したい事だから……」
どうやらマネージャーと口論しているようだ。薫はマネージャーに自己紹介をし、危険がない事を説得した。どうにか説き伏せて今ななこちゃんのホテルの部屋にいる。
「杉田さん、さっきはありがとう。覚えてますか?
ななこです」
「うん、もちろん。活躍してるみたいだね。僕はニューヨークで研究ばかりだから、世間の流行りは分からなくて……招待状の名前を見てまさかと思ったけど……」
「杉田さんこそ凄いじゃないですか……日本人で世界的なエンジニアって、この前国営放送の特集で観ましたよ。そうじゃなければ、こんなに活躍されてるなんて分かりませんでした」
「お互い様だね(笑)」
以前のイメージよりもマイルドになった感じがした。学生の頃に由美子と3人で食事や映画に行ったことがあるが、気が強く甘えん坊、そんなイメージだったからだ。
「あまりお話もしていられないので……本題から入りますね。これ、姉から預かったものです」
ななこちゃんは2通の手紙を差し出した。宛名は薫宛になっている。結婚式の招待状?……ではなさそうだ。
「これを渡しに?」
「はい……姉は……半年前に……」
ななこちゃんが泣き出した。薫は悟った……由美子に悲しい出来事が起きたことを……。薫は自然とななこちゃんを抱きしめた……。
ななこちゃんが落ち着きを取り戻し由美子の事を話し始めた。由美子は薫がニューヨークに赴任して間もなく病気になったそうだ、不治の病……。プロポーズをした日に病気の事を薫に告げるつもりだったらしい。だが、不意のプロポーズ、そして自分より長生きして欲しい、と言われた時、咄嗟に嘘を付いてしまったらしい。
(何故、あんな事を言ってしまったのか……)
後悔しても仕切れない。薫はプロポーズを断られて由美子から逃げた。そして両親以外の日本からの連絡も遮断してしまった……全てから逃げる代わり、仕事は精一杯頑張った。いつか由美子よりも素敵な女性を見つけてやろう……そんな風に思っていたが、それは叶うことではないと悟った〜彼女の代わり、はこの世にいない、彼女だけだと理解したのだ。薫はもう、女性を愛せない……
時間だけだ過ぎていった……。
みなさんいつもありがとう
こちらも予定通り更新です!




