瓶底メガネ
5月1日は映画観賞会があり、その後の休みはミクと海外のリゾートへ旅行に行った。連休はあっという間に終わってしまう。学校が始まった早々、渡邉先生から呼び出しがあり、職員室へ。
「桜井くん、もうすぐ生徒会の会長選挙だけど、本当に立候補するの?」
「はい、せっかくなので……面白そうだし」
「それなら来週までに立候補届けを出してね。私、結構期待してるわ。1年生が勝利したことないけど、去年はいいところまでいったのよ」
「去年、ですか?」
「そう、今生徒会の副会長やってる今中さん。あと一歩だったんだから……今回は彼女が大本命ね。他にも立候補者いるみたいだけど」
あの似合わないメガネっ子だ。ヤマトも生徒会役員にはなっているが、今のところ生徒会での主だった活動はない。一度顔合わせがあったくらいである。
「公約とか作らないとならないんですよね? まあ考えていることはありますけど」
「そうね、それは必須かな。校則や規律についてのことが多いかな、ココ最近は」
「ありがとうございます。参考にします」
何となく行けそうな気がした。早く戻って公約の準備をしよう…………。職員室を出た時、ばったりとメガネの副会長と鉢合わせしてしまった。
「こんにちは」
「桜井くん、ちょうどよかった。生徒会室に来てくれない?」
相変わらず似合わないメガネをしている。そのメガネの厚さたるや……瓶底だ。顔の輪郭が変わって仕舞う程。
「桜井くん、あのー、お願いがあるんだ。立候補はしないでほしいんだ」
やはりそんな事か……想定内の話だ。
「そして……私を桜井くんの推薦人にしてほしい」
「??? 副会長は立候補しないんですか?」
「私はもう2年生だから……1年生の時は燃えたけど、2年生だから勝って当選、そんなのつまらない。それに、私の希望は1年生生徒会長を誕生させることなんだ」
なるほど。この学校は意外性があり面白い。ミクが勧めるのも納得する。
「副会長の夢ですか……では僕が当選したらまた副会長やってもらえますか? 慣れてない1年生会長なんて心細いですから」
「よし、それなら大丈夫、交渉成立ってことでいい?」
「わかりました。多分僕、会長になりますよ」
「自信あるのは結構なことだ。ところで公約はどうするんだ。一緒に考えてあげようか?」
「それには及びません。絶対に負けない公約をこれから用意しますので。用意したらお話します」
「わかった。待ってるね」
こうして一番のライバルと目されていた今中さんがヤマトの推薦人に決定した。これ、当選したも同然だ。
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「なんだよ、本当に立候補しないのか」
「はい、あまねさん。2年生になっても意味ないですし、正直副会長って肩書きが性に合っていて」
「そうか……。1年生だと問題は公約だな。校則や服装規定を公約にすることは難しいから、そこはフォローしてあげてくれ」
「いやでも、公約は考えがあるみたいですよ。聞いてみて駄目なら私が用意したものを提案します」
あまねは少しガッカリしている。昨年、みのりとは激闘をした。僅か20票の差での辛勝であった。あまねは中学の時から生徒会をやっている、力不足で肉薄された訳ではなく、単にみのりが強敵だった為に接戦になった。
「ところでみのり、そろそろメガネ外したら?」
「いや、これはもう、私のトレードマークみたいなものですから。卒業まではこれでいきます!」
あまねは知っている。みのりはワザと似合わないメガネをしている。中学の頃にその容姿で揉めたことがあるそうだ。でもここはカトレア、容姿で揉めることなどない。寧ろトレードマークの瓶底メガネは目立つ。
「せっかく可愛いのに……勿体ない。みのり、いつまでも若くはないんだぞ、女たるもの賞味期というものが……」
「あー、わかってますっ! カトレア卒業したら外しますから。それは私の公約ってことで!」
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ヤマトは公約の為に動き出した。公約の発表まで時間はない。5月下旬の中間試験が終われば演説が待っている。少なくともそこで発表出来るようにしておきたい。
(まずは教育担当省の蓮見大臣に電話だな。ちゃんと筋を通さねば……)
蓮見大臣は快く話を引き受けてくれた。あとは各関係者に連絡をするかだけ。この公約は成るべく多い方がいい。精力的に活動する。
「ヤマト、試験勉強とかしてるの?」
「いや、あまり……。試験3日前に少しだけ見直せば余裕だろ、この内容なら。ヒロシはどうなの?」
「おれはキチンとやってるぞ。でも彼女探しとの両立がかなり難しい……(笑)」
「文化部とかに入ったらどうた? 女子がウヨウヨいるぞ」
「それはポリシーに反する。彼女への時間が減るではないか。彼女にはなるべく時間を割きたいんだ」
相変わらずオモロい奴だ。
みなさんいつもありがとう
生徒会長選挙はヤマトのかなり有利な展開に。そして負けようがない公約とは……。