壊れたこころ
「ということだ、ジャック。土日に直接下見に行くよ」
「分かった。それがいい」
本日は双子のマンションにジャックとシャロンが来ていてロア大統領の警固の打ち合わせをしている。当日の襲撃に関しては微塵も危険はないと思っている。やはり気になるのは狙撃である。
「では私も行きます」
リーナが行きたいと言う。土曜は空港から皇居、ホテル、首相官邸のルートを回る。そして日曜はホテルからカトレア、カトレアから迎賓館のルートを回る。狙撃の可能性が高いのは日曜のルートである。
「では……土曜はリーナ、日曜はニーナと現地見回りに行く。それでいいかな?」
双子はあまり単独行動はしない。いつまでも2人でいても自立しないので別々に連れて行くことに、ヤマトの決定には誰も逆らえない。
「なんかデートみたいですねっ!」
ニーナは嬉しそうである。リーナは……何も言葉を発しないが満更でもない様子。
こうしてロア大統領の警固ミッションがスタートした。
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とうとうこの日が来た。リーナはドキドキしている。ヤマト様と2人での任務、ヤマトから指示があった時は何も思わなかったが、ニーナが、デートみたい、と言ったことで意識するようになった。
「なによ、リーナ可愛い、今日は楽しんできてね(笑)」
「ニーナ、これは任務だそ、楽しめる訳ないだろ」
「何いってんの! そんな可愛い格好して(笑)」
今日はホワイトのワンピースにした。胸にはピンクの花があしらわれている。コートはグレー、シンプルである分、ワンピースが映える。自分でもイケてると思う。
「では行ってまいります!」
「リーナ、今日は素敵な格好だな。やはり戦闘に向いた服より、可愛いのが似合う」
「ありがとうございます」
「そうだ! 今日はどうせ見て回るだけだから……ニーナが言っていた通りデート風視察でいこう!」
「真剣にやらなくていいのでしょうか……」
「この視察って不真面目でも真剣でも結果は変わらないよ。オレが確認するんだよ?」
「そうでした。ではデート風でお願いします」
ヤマト様を異性として見たことはない。異性とは……自分に害をなすもの、だからヤマト様は違う。三姉妹の命を救ってくれた恩人、いつかこの人のために命を捧げたいとも思っている、それがリーナの夢でもある。
「空港で狙撃されることはないな。ホテルに移動しよう」
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リーナとタクシーで空港からロア大統領が宿泊するホテルへと向かった。タクシーの中ではリーナに学園での出来事を聞いた。楽しくやれているみたいである。その間も狙撃ポイントノチェックは欠かさない……が、ロケット弾を使わない限りタクシーへの攻撃は不可能であろう。
「リーナ、せっかくだからホテルで食事をしていこう。何か食べたいものはないか?」
「和食がいいです。お料理の勉強にもなりますし」
リーナと食事をした。先付が運ばれてくる。リーナの顔がパァっと明るくなる。
「リーナは本当に料理が好きだな」
「はい! 見ていても楽しいです。この手間、凄い」
「それならリーナは将来、料理人かな?」
「いえ、私は…………ヤマト様の為にこの命を使いたい……それか私の夢なんです。いつかヤマト様にこの命を捧げたい……」
日本の高校に来て少しは変わってきたとは思う。だが大きな心の傷が癒えてるはずはない。リーナのこころは……もう死んでいるのだ。
「リーナ。何度も言ってるだろ、リーナにはこの日本で幸せになって欲しい。幸せの定義は……分からないかもしれないが、平穏で心が満たされた状態、というものなんだ。命を投げ出すことは禁止だ、たとえ私のためでも」
「私は……数多くの……命を……」
「リーナ、戦争では命の重さが変わるんだ。だから人ではない何かにならないと、生きていけない、そして人は人でなくなる……でもここは日本、人として生きる事の出来る国。リーナは生き延びた……そしてこれからも生き延びないとならない、その為に必要なことは……心を持ち自分を大切にすること」
「この穢れた身体を大切にしないとならないのでしょうか……」
リーナは泣き出してしまった。この2年で泣けるまで心が回復してきたということ、もう少しかもしれない。2年前に保護された時は罪悪感や人としての尊厳も持っていない有様であったが……
「リーナ、やっと泣けるようになったな。それでいいんだ、泣きたい時は泣こう。でもね、止まない雨はないんだ。きっといつか、心に虹がかかる」
リーナは落ち着いてきた。ここは和食会席店、店員さんから見たら別れ話をしている若いカップルに見えるだろう。んー、悪くない。
ホテルから皇居、官邸まで全工程を一巡した。空港や皇居、官邸周辺に関しては警備も厳重なので襲撃も狙撃もないと報告書をまとめた。問題はホテル周辺である。狙撃可能なポイントがいくつかある。
みなさんいつもありがとう
第一章において二番目に重要な大統領訪問イベントが近づいています。何が起こるやら……。