動き出す未来
ヒメリンの宝物庫を出た後は、品川のタワマンで試験勉強をした。あおいは手につかない様子であったが、とりあえず月曜日の科目の対策だけは終わらせた。
そして……地獄の期末試験が行われる。
カトレア高校に二学期の中間試験はない。全ての力をカトレア祭に注ぎ込む為だ。その分期末試験は言うなれは2倍大変で、私立高校時代は赤点で複数の退学者を出したようである。5年前に公立になって赤点が退学に結びつくことはなくなったが、普通に留年する人は毎年出ている。
「ヤマト、昨日はありがとう。対策してたお陰で今日はどうになかったわ。物理基礎と英語表現、対策してなかったら赤点だったかも…………」
あおいが小さな声で話しかけてくる。
「良かったな。明日の数学Iも後でポイント押さえたノート貸してあげるから帰ったら対策しておけよ」
「ありがとう、スキっ」
青春バンザイ! ヤマトは嬉しい。伊集院さんの事故を調べるのも、その先にある隕石事故の謎を探るのも、卒業してから出来ること。無理に結論を急ぐこともない、だが、高校生活は別。なんとあと2年と3ヶ月あまりで終わってしまうのだ。それまで、学校生活を謳歌しなければ!
ジョージから連絡があったのは17時を回ったあたり。今回は通常回線でなくホットラインでの話し合い、また厄介事は確定である。
「ジョージ、相変わらず人をこき使うな」
「そんな冷たいこと言わないでくれよ」
「どうせロア大統領の訪問の件だろ、テロの危険性があるとか……」
「さすが預言者! 今回はユニシスから分裂したネオユニシスって奴らがロア大統領の暗殺を企てているらしい。ジャックの元に専門チームを派遣した」
「ユニシスは手を引いたの? 奴らが絡むとオオゴトになるから、それを懸念してたんだけど……」
「ユニシスはタロニア情勢について合意している。逆にロア大統領を守るべき立場なんだろう、それでタレコミがあった」
「で、ネオユニシスって何を仕掛けてくるんだ?」
「狙撃か直接の襲撃だと思う。爆弾を使ってのテロは日本国内では限りなく不可能だし、仮に民間人の犠牲が出たら日本政府を敵に回すことになる。今や世界最強の軍事国家だからな、ある意味で」
「そうか……それなら狙撃とかナイフで強襲とかレトロなやり口になるか。狙撃だけ押さえてくれればなんの問題もないかな(笑) シャロンに任せておけば……」
「シャロンはそんなに凄いのか…………」
「凄い……警戒しろ、と一言伝えれば強襲なんて未然に防げる。厄介なのは強襲の前に死体が転がる事だろう」
「なぜ、そこまでの手練れが捕虜になったんだ?」
「それは話せない……綿密な計算をして隙をつくり生け捕りにした、としか話せないかな。彼女の尊厳を傷つける事にもなるからね(笑)」
「とりあえず一度ジャックを含めて話し合ってくれ」
「りょーかい」
その日のうちにロア大統領の訪問日程がヤマトに届いた。空港からホテル、ホテルから皇居と官邸訪問。そしてカトレア高校を視察して次の日に迎賓館でパーティ。次の土日にコースを回って狙撃ポイントを確認する。しかし迷惑な話である、期末試験の最中に……。
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「試験どうだったの? ヤマト」
「余裕ですよ、暗記物で少し間違えましたけど(笑)」
期末試験が終わった。みのりが生徒会室に行くと、既にヤマトがいた。入学から常に学年1位、かなりの得点なので当面は安泰だろう。
「今週末の説明会はちょっと私用があるので顔出さなくてもいいでしょうか?」
「いいけど、見返り何かあるの?」
「みのりさんの言うこと一つだけ聞きますから!」
「それ高く付くわよ、いいの?」
「もちろんです!」
どのみち生徒会長としての挨拶すらない。形式的に来てもらってるだけだから、願い事一つ丸儲けだ。
「珍しいわね、いつもは都合つけるのに……」
「実は……ロア大統領の関連のことで、経路とか確認しないとならないんです」
「それは大変重要な私用ね! では許可します」
ヤマトが生徒会長であるが終始こんな感じて4ヶ月ちょいが過ぎた。ヤマトは人を動かすのが上手である。いつの間にか巻き込まれている。
「ありがとうございます! そうだ、みのりさん、報告忘れてました。レストランの件なんですけど、12月29日に給食サービスの担当者と食材提供する会社の偉い人と会うんだけど……みのりさんも同席しますか?」
「もちろん、私が望んだことだから。29日かぁ……私服ってあまり持ってないからなぁ……」
「それなら打ち合わせの前にお買い物行きませんか? みのりさん、お誕生日近いですよね? 一緒に選んで、それをプレゼントしますよ」
素敵な相談だが……どこか警戒心がある。男性に誘われると……今までろくな事にしかならない。
「でも……」
「それなら誰か呼びますか? 美優あたり……」
「だめ! 2人行こう」
なんでそんなこと言ったんだろう……
みなさんいつもありがとう
物語は少しずつ進んでいます。毎日更新も辛うじて続けてますが、まだ第一章を書ききれていません。




