2年前〜地域紛争
遡ること2年ちょい前…………
「ヤマト、怪我はないか? 奇襲があることは想定していたが、この規模とは……」
日系アメリカ人のジャック榊、ヤマトの護衛として帯同している特殊部隊の隊長。軍人らしい大きな体格である。身を挺してヤマトを守っている。ここはテロリストが占拠している国タロニア、軍事クーデターで2年前に独立した世界で最も新しい国家である。ヤマトは現大統領であるジョージの忠告を無視してテロリストの代表との会談に臨んでいた。そこに政府軍の奇襲があったのだ。
「ジョージの言う通りだったな。それでもやり遂げなければ……ブラックは大丈夫だろうか……」
「恐らく我が部隊が守っているので問題はないかと……政府軍も我々がいると分かれば一端引くでしょう」
ブラックとはテロリストの代表のことである。人前に出るときは必ず黒のマスクを付ける、そして自らもブラックと名乗っている。
テロリストと国家権力の争い、それがこの地域紛争の原因であるが、現状を見る限り国家権力の乱用で抑圧された民衆の一部がテロリストと呼ばれるようになった。元は解放軍と名乗っていたが……。
「ヤマト、ブラックは無事だそうだ。我々に感謝をしているから今後の会談は有利に働くと思う」
奇襲から2日後、やっとブラックとの会談が実現する。ジョージの名代としてヤマトが会談の総責任者として立っている、若干13歳の少年である。
「ではこの停戦投稿の協定にサインを……」
「分かった……ヤマト、一つ聞いていいか。アナタは私達の国とはなんの関係もない国の人、なのに何故私達を助けるのか……」
「私は人の不幸が嫌いなだけです、Mr.ブラック。政府も解放軍も不幸極まりない、だけど私はその解決策を知っていて、それを直接伝えたかっただけだよ。だが、アナタも紛争の当事者だ、相応の覚悟をしてもらう」
紛争解決の最善手段、それは独裁を続けている現国家元首の退陣と新たな民主政治の導入である。今合衆国には国家を丸ごと監視できる人工衛星がある。その衛星の監視の中で改革が行われる。
「それは承知している。私の命ので仲間が救われて国が変われるなら御の字だよ。だが、それを見届けるまで刑の執行は止めてもらいたいがな(笑)。それと以前、政府軍が放った暗殺部隊の生き残りがこの屋敷に捕虜として監禁されている。ヤマトの命を狙った奴らだ。まだ生きてると思うが、ヤマトの方で処理してくれまいか……」
ブラックは自分の命と引き換えに事態の収拾を臨んだ。ブラックには戦争犯罪者として裁かれることになるだろう、政府軍への攻撃や捕虜の拷問、様々な嫌疑がある。決して正義の味方ではない、それがヤマトの認識である。
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捕虜の監禁されている場所は屋敷の地下である。暗い地下への階段を下ると鉄格子がみえる。ひどい腐敗臭、高性能マスクでも防げない。鉄格子の中には6名の人のような影があった。生死は不明である。ひどい有様である、息があるのは3名。その他は既に息絶えている。政府軍の暗殺部隊、敵を油断させるために特別な暗殺技術を仕込まれた若い女性部隊。ヤマトは初めて目の当たりにする。そして無惨にも……兵士共のオモチャにされていたのであろう……。
「ジャック、こりゃひどいな……」
「ヤマト……これはあれだな……。かなり酷い事をされてるようだ、女性としての尊厳を踏みにじっている。君の年齢の子には見せたくない……」
「別に大丈夫だよ。気遣いありがとう。亡くなられた方は丁重に葬ってほしい。息のある方はヘリで病院まで運んで最善の治療をしてくれないか」
ヤマトは数日後、ヤマトが作った野戦病院に向かった。野戦病院はこの地域にあった邸宅を病院にしたものであるが、決して大きい施設ではない。停戦が実現してスタッフも怪我人も表情は明るい。今日の目的はそこで働いているスタッフの労いと救助した彼女達に会いにいく為である。
「こちらです、Mr.サクライ」
案内されたのは病院の一室。そこは女性専用の部屋のようだ。3名の女性がいた、2人はまだベッドの上である。一人は立ち上がって窓の外を見ている。
「シャロン、こちらは3人を助けたMr.サクライだ。3人を見舞いに来た」
一人立ち上がっている女性が振り返る。長い髪の毛、目鼻立ちがスッキリしている。驚いたのは、アジア系であったこと、救助した時は見分けがつかないほどの有様だった。年齢は、ヤマトよりは上だが日本では高校生か大学生くらいか。だが…………目が死んでいる。
「サクライ……ありがとう」
感謝の言葉を述べているが目が虚ろで……廃人寸前である。せっかく助けた命が……
「シャロン、気分はどうかな?」
「…………」
「うーん、ではシャロン、何か要望はないか?」
「殺してほしい……あなたの手で」
これがヤマトとシャロン、リーナ、ニーナ、3人の出逢いの場面であった。
みなさんいつもありがとう
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