恋の予感……
7月に入った。あおいはため息をつく。期末試験も一通り終わったが、土日には撮影会や収録があり休む暇もなかった。そして今、部屋のベッドに横たわりながらボーッと時を過ごしている。あおいの部屋にはヒメリングッズが満載である。大きく引き伸ばした記念写真は自慢の一品。入手出来た動画と音源は全てコンプ、非売品も抱きまくらもコレクションとして飾ってある。
(今頃、ヤマトはどうしてるかな……)
何となくそんな事を考えている自分に気がつく。23時を過ぎたところ、まだ寝るには早い時間、ヤマトに電話をしてみたくなった。
「…………もしもし、あおい? どうしたのこんな時間に」
「あ、ヤマト。まだ寝る時間には早いでしょ」
「そうだけど、こんな時間に電話くれたことなんて今までなかったし。何か嫌なことでもあった?」
「ううん、そんなんじゃ……。土日はずっと仕事で、今やっと落ち着いたところなの」
「お疲れ様。あおいはとても頑張り屋さんだな。そんなあおいには、立ち止まったりお休みしたりする時間こそ大切だよ」
「ヤマトっていつも癒やされる話をしてくれるからさ。声が聞きたくなったというか…………」
(やだ、私。I miss you って話してるみたい)
あおいは急に恥ずかしくなってきた。なぜ電話してしまったのだろう……暇だから? それとも……
「そういう時もあるよな。疲れてないか? オレに出来ることあるなら言ってくれ。感情は抑えない方がいいぞ、ため息ついて、悩んで落ち込んで、思い切り泣く、なんてことが出来ると人生楽になるからな」
「…………泣いても…………いいんだね…………」
仕事は楽しい……けどプレッシャーも相当なもの。ヒメリンになりたい、その一心でこの業界に飛び込んだが。ユニットの相方のマネージャーとの関係、エゴサーチをすると出てくる批判、人前で水着になるのも嫌だ。常に大きな重圧に晒されている。ホントは……辛い。
「いいぞ、電話じゃ背中は貸せないけど」
感情が爆発してしまった。涙が止まらない。夢に向かって堪えていたことが一気に噴出した……自分の頑張り、理解できない大人達、心折れそうになるグラビア撮影。もう止まらない…………
あおいは気が付いた。泣きながら寝てしまったようだ。もう明け方、カーテンの隙間から薄く光が差している。もう
(そうだ、電話の途中だった…………)
電話をみるとまだ繋がっている。恐る恐るあおいは話しかけてみる……。
「もしもし……」
「あ、あおい。お目覚めかな? おはよう」
「お、おはよう。ヤマト……ずっと起きてたの?」
「当たり前だろ。背中は貸せないから、見守るくらいの事しないと格好つかないじゃん(笑) 気分はどう?」
「うん! スッキリしたかも…………ありがとう…………」
「今日は学校だからな。目が晴れて大変なことになってるかも知れないから、気合い入れて化粧してこいよ」
「うん……」
「じゃ、学校で…………」
「うん……」
見守ってくれた、一晩中。そんな事されたら……反則だ。久しぶりの……暖かい気持ち、今はハッキリ自覚できる。
△△△△△△△△△△△△△△△
「おはよう、ヤマト」
「ヒロシか……おはよう」
ヤマトは眠い。今朝は2時間の仮眠しか取ってない。金曜日からの睡眠時間は合計でも5時間足らず、バイタリティ溢れる15歳の身体にも限界ってものがある。昨日はあおいの電話にハマった。突然泣き出して、そのまま寝落ち。起きるまでは切らずに待った。もちろんその間も伊集院さんが残した資料に目を通していた、無駄に待っていた訳ではない。
「幾分、お疲れかな? また生徒会の資料とかで夜ふかしとか?」
「さすがはヒロシくん、よく分かってるじゃん」
あおいが登校してきた。決して眠たい素振りをしてはいけない、ヤマトは気持ちを強く持った。
「おはよう」
「おはよう、あれ? あおい、お化粧変えた? 今日はとてもいい感じよ」
「うん、少しね。いつもよりバッチリ目にしてみたの」
あおいとニカの会話が聞こえる。昨日のことは当然内緒にする約束をした。あおいの声を聞いている限り、いつもと変わらず元気そう。
「今日のあおいはとても素敵! 恋する乙女のよう! 彼氏でも出来たんじゃない?」
「やめてよ、そんなわけないじゃん。仕事でやってもらうメイクを真似てみたの 似合うかな(笑)」
笑い声が聞こえる。大丈夫そうだ。
「おい、ヤマト、聞いてる?」
「え? なに? なんか言った?」
「ちゃんと聞いてくれよ。おれ、頑張ったんだぞ、土日の成果を今日話すって伝えたじゃん これをみたまえ!」
〜足立舞チビっ子サッカー教室 横浜サッカー場にて〜
「なんだ? 足立舞さんに会うためにチビっ子に変装でもするのか?」
「いや、違う……サッカー教室のボランティアをしたいって問い合わせてみたんだ。カトレアの在校生って伝えたらお願いしますって! 何人か人手が欲しいらしくて」
「ヒロシ、でかした! やる時はヤル男だな。見直したぜ」
「やらない時が多いけどな(笑)」
終業式の次の日に足立舞さんと会えることになった。
みなさんいつもありがとう
あおいとヤマト、どう展開するのでしょうか……。そして、いよいよ伊集院姫さんの友人の1人、足立舞さんと会えることに。
前作よりもご覧になっている方少なすぎですよね(笑)。もっとやり甲斐欲しいかも〜面白いと思ったら評価やブクマよろしくお願いします。