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獣の棲む森にて  作者:
TRPG
63/66

振り返りなど

五人が、フラフラと階段を降りて行くと、一階の居間では、ゲームに参加しなかった13人が待ち構えていてワッと寄って来た。

そして、全員が手を叩いて五人を讃えて、言った。

「凄いよ!よく生きて帰ったよな!」久隆が、笑って言った。「見てたけど、めっちゃすごい!腹減っただろ?ちょっと遅いけど、昼ご飯があるぞ。」

そういえば腹が減った。

始めたのが朝の9時、そこからぴったり時間通りに流れて行って、あれから大体四時間ほど。

今は昼の1時過ぎだった。

「振り返りやるか?」博が、言ってあちこちに設置されたモニターを指した。「録画があるから、みんなで見られるぞ。」

章夫は、疲れ切った顔で言った。

「ああ、別に流してくれてていいけど。とにかく、なんか食べたいよね。」

妃織と日向が、せっせとワゴンを押してキッチンからやって来た。

「あのね、お節じゃなんだから、温かいものをって。冷凍うどんがあったから、作って来たよ。みんな食べて。」

出汁の良い薫りがする。

五人とジョアンは、喜んでそれに手を伸ばした。

「いただくよ。ありがとう。」

乙矢が言って、どんぶりを手にした。

それにしても、たった四時間の事だったのに、本当に長い間こんな環境から離れていた気がする。

あれは、本当に現実だったんだろうか。

そう思っていると、五つの画面が一斉について、いろいろな角度からあの、荒んだ部屋を映しているのが見えた。

「はい、再生開始だ。」博が言った。「まあ、適当に見てたらいいんじゃないか?ここで、みんな現場に居ないからって言いたい放題だったんだぞ?全部五階に居たオレにも聞こえてたんだけどな。」

え、と邦典が驚いた顔をした。

「ちょっと待て、ここも録画してたのか?」

博は、首を振った。

「なんでだよ。ただ様子を見てただけだっての。具合が悪くなったりしたら、すぐに救護の者を向かわせないといけないしな。君達だって、あれが本当に存在する物に見えてたんだろ?」

確かにそうだった。

例の薬が効いていて、皆現実にそこにあるように見えていたので、ハラハラしたのも確かだった。

映像の中の四階は、記憶と同じかそれ以上のおどろおどろしい様子に見えていた。

全員がジョアンと合流して、博の説明を受けているのが流れている。

識は、うどんを食べながら言った。

「聞きたいことがあるのだ。マシューが合流しただろう。あれは、決められていたのか?」

博は、答えた。

「まあ食堂にはトイレもあったし、全く入らないって事は無いだろうからな。だが、会わない事もあり得たのはあり得た。食堂のマシューに会わないままマシューの死体を4で見つけていたとしたら、そこまでSAN値を失いはしなかっただろうがな。」

「最後まで気付かなかったらどうなったの?」澄香が言う。「あのまま、マシューの死体を見つけることも無くて。」

博は、それにも答えた。

「食堂で会ったマシューがニャルラトホテプであるのは間違いないから、何らかの隠蔽工作や妨害はあったと思うけどな。あのマシューは、あまり積極的には動かなかったはずなんだ。話はするが、あまり率先して行動しないようにしていた。指示された通りにしか動かないし、何かを見つけていても言わない事がある。章夫はいつも一緒に行動していたから、分かるんじゃないか?」

章夫は、首を傾げた。

「どうかなあ。確かに、雰囲気は積極的に関わってますって感じだけど、思えば発見とかは僕がしてたね。1の部屋に入った時も、祭壇の下に何か落ちてるのを見つけたのも僕だったし。見つけてしまったら否定はしないけど。あ、それから2の部屋でフィギア置いてる棚の方を探せって言われたなあ。重要なアイテムのティクオン霊液は、あの人が行った方の薬品棚にあったんだ。結局、澄香さん達が来て一緒にそっちの棚を探したから僕が見つけたけどね。言われてみたら、そうだったかも。」

博は、頷く。

「そういうことだ。そう動くと決まっていたからな。それから、渡してもいい情報も決められていて、それはきっちり全部話していたぞ?律儀な邪神だな。ま、そのまま知らずに居たら一緒に帰っていたから、結局戻った場所で正体を現して連れ去られることになったんだ。全員ロストってこと。気付いて良かったよな。」

識は、言った。

「つまり、初日にマシューを発見して、4の部屋を探索して偽だとバレるというルートもあったということだな?」

博は、それにも頷いた。

「あった。その場合は同行した者達が皆発狂するので、全員で行ってたら全滅することもあり得たよなあ。ジョアンが一人で一緒に行ったのはある意味正解だった。だが、唯一の精神分析スキル持ちだったから、自分は回復できないから失うしかないんだけどな。」

乙矢が、言った。

「後から識さんみたいに気付いた場合は、あんな感じでニャル様が正体を現して見つけた人が眠らされるのか?」

博は、首を振った。

「いや、あの場合はあの時あいつが言ってた通り、一番スキルを持っている人が一人、失神することになるって決まってたんだ。その眠りはどんなスキルでも起こすことができないから、他の人がしっかり後を継がないととんでもない事になるところだった。頭の良さとかじゃなくて、どれだけの事をそれまでやって来たかってのを見てるんだ。識は計算を解いて乙矢達を助け出したし、いろんな情報も見つけ出して解析していたし、みんなに指示を出して、佐織さんの事も閉じた扉の中から助け出して来た。SAN値も一番高かった。だからあの時、選ばれたんだ。より生き残りづらい状態に持って行くための策だな。」

識は、バツが悪そうな皆に、言った。

「それでも、君達は最後にはしっかりやったではないか。私一人では時間制限もあったしあれほど情報を収集できなかっただろう。皆で手分けして情報とアイテムを集めたからこそできたことだ。私一人が何かをやったからと、成せることなど限られていたよ。」

だが、識が倒れるまではみんな識に丸投げしようとしていたのだ。

識を失ったからこそ、頑張った結果がああだった。

章夫は、うどんを食べ終わって、箸をおいて言った。

「…まあ、でも良かったよ。みんなロストしてたら後味が悪いところだったから。頑張って良かったよねえ。」

そんなことを話しながらうどんのどんぶりを片付けて戻って来ると、映像はちょうど、マシューを発見したところのターンを映していた。

改めて見ると、マシューの顔は曖昧だ。

暗いのもあるが、はっきりとこういった顔、という認識ができないのだ。

「これ、顔はどうしてたの?」妃織が言う。「みんなで気付いて言ってたの。顔が思い出せないなあって。マシューさんの顔ってどんなだっただろうって。」

博は、ハッハと笑った。

「それは全部映像だからな。いろいろな人の顔をゆっくりと変えて行って投影する手法でやってた。ほんとの顔でマシューはそこに居たが、誰もその顔を認識できていなかったんだ。その上に、投影されてる顔を見ていたからな。」

そういう事だったのか。

優秀な映像技術と、薬のお蔭であんなリアルなゲームを体験できた。

でも…。

「…あの、浮いてたのは?」乙矢が言う。「こっちでも見てただろ?あれ、ほんとに浮いてたんだよ、ニャル様が。なんも支えなんてないの。ほんとに正味浮いてた。めっちゃ軽々。あれも映像か?」

澄香が、言った。

「そりゃあんなに綺麗な人連れて来るの大変でしょう。多分映像よ。入れ替わったんじゃない?」

博が、顔をしかめた。

「あれなあ、確かに映像も投影してたから、髪の長さとか肌の色つやとかは調整してたけど、まんまあのままの人で、足に履いてるホバーで浮いてたんだよ。」

え、と全員がびっくりした顔をした。

「え、でもあの人、識さんそっくりだったわよ?!修正した映像じゃないの?!」

識が、ため息をついた。

「あれは、私の父だ。」

ジョアンも含めた全員が、仰天した顔をした。

父…。

「え、お父さん?!」

章夫が、びっくりした顔で叫んだ。

だが、言われてみたらしっくり来る。

何しろ、話し方から声、言うことまでそっくりだったのだ。

識は、渋々頷いた。

「最初に会った時、顔は違うから分からなかったのだが、声で一発で分かった。多分映像と薬で認識できていないが、これは父なんだと。父は私の今の職場のOBでね。見学にでも来ていたのだろう。昔から、こういうゲームは好きだったのだと聞いている。」

ジョアンが、識に食い気味に寄って行って、言った。

「ジョン、つまりあれが、初代のジョンってことですか?!知っていたらもっと話したのに…あの人の残した論文が、どれほど皆に未だに読まれていることか!」

識は、顔をしかめて言った。

「ゲーム中に研究の話はできないだろうが。まだ居るのではないか?五階へ行って来たらどうだ。」

ジョアンは、頷いて急いで扉へと向かった。

「行って来ます!」

すると、そこへ中年の男が入って来て、言った。

「皆、楽しんだかね?」

そこに立っていたのは、まごう事無く識そっくりの、あの時見た邪神…が人の姿をして舞い降りたかのような男だった。

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