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獣の棲む森にて  作者:
人狼
6/66

チュートリアル

東吾が居間へと出て来ると、そこにはもう、数人が出て来ていてソファに座っていた。

その中には、さっき階段で行き会った博と識も居た。

…博さんは仲間だし、側に行くかな。

東吾は思って、そちらへ足を向けた。

すると、博は何か宝石でも入って居そうな箱を手に、何かを識に話していた。

「博さん。」東吾は、声を掛けた。「それ何ですか?」

博は、答えた。

「退屈だし何かないかって探してたら、暖炉の上にあったんだよ。人狼ゲームのカードみたいだ。」

蓋を取って見せてくれたが、そこらで見るような紙の素材ではないようで、キラキラと輝いていてつるりとした表面で、艶々していた。

「すごい!何か光ってますね。高そう…。」

浩介が言う。

博は、苦笑した。

「めっちゃ高級そうだけどゲームのカードだからな。せっかくだからこれを使ってゲームでもするかって。みんながどれぐらいやるのか見てみたいじゃないか。」

なるほど、敵の力量を調べるんだな。

東吾は思って、頷いた。

「いいかもしれませんね。まだ四時過ぎだし夜まで暇ですもんね。」

そこへ、いつの間にか来ていた日向が言った。

「えー人狼するの?やりたい!やる人だけ集まる?」

晴太が言った。

「オレもやりたい!キッチンに残ってる奴に伝えて来るよ。」

晴太は、急いでキッチンへと走って行く。

浩介が、少し不安そうに言った。

「なんだかドキドキするな。初めて会う人ばかりだし。」

どうやら浩介は、これまでの言動を見ても気が小さい方のようだ。

東吾は言った。

「慣れるためにもいいんじゃないかな。だって、これから賞金の掛かった長いゲームをするんだしさ。」

浩介は頷いたが、まだ不安そうだ。

そこへ、キッチンからわらわらと人が出て来て騒ぎ出した。

「人狼やるの?やろうやろう、絶対肩慣らししといた方がいいもん!」

章夫だ。

梓乃が相変わらず背後霊のように後ろについて来ていた。

博は、言った。

「じゃあ、オレがゲームマスターをしようか。みんなやるんだな?」

識が、横で首を振った。

「私は見てる。」

ノリの悪いタイプなのか。

東吾は思ったが、博には想定内のことのようで頷いた。

「だったら書記をやってくれ。ほら、そこにホワイトボードがあるから、それにゲームマスター用のメモ書きを頼む。」

識は少し眉を寄せたが、仕方ないと思ったのか、頷いた。

「ではそれで。」

言いながらも、壁際に立ててあるホワイトボードの方に行く様子もない。

そもそもこの洋館にホワイトボードは完全に場違いで浮いているので、恐らくゲームに使うために置いてあるのだと思われた。

仕方がないので、博が引っ張って来て、それをソファの方に向けて立てた。

「さ、じゃああっちの丸く椅子が置いてある所に移動だ。参加する人だけ移動してくれないか。」

そこなら、ホワイトボードが背を向けた形になるので、ソファからは見えるが、あちらの椅子からは見えない。

皆は頷いて、識以外の全員がそちらへと移動して行った。

…みんな参加…ということは、博と識が抜けて17人か。

博が、言った。

「17人だな。運営が言ってたレギュレーションのカードが入ってるんだが、何を抜くかな。村人…いや、背徳者と狂信者を抜こう。人狼4、狐1、村人6、占い師1、霊媒師1、狩人1、共有2、猫又1。」

妃織が言う。

「村が強すぎない?あの、狐がとても不利だから、背徳者は残して村人を一人減らしたらどうかな。」

博は、頷いた。

「じゃあそれで。初日の議論時間10分、そこから1分ずつ減らして行こう。後はおいおい決めてくよ。ええっと、狩人の連続護衛なし、占い師の初日お告げありで。肩慣らしだし、本チャンと同じようなルールで行こう。」

「タイマー要ります?」東吾は、スマホを出した。「オレのスマホ、使ってくれていいですよ。」

そこで、ハッとした。

当然と言えば当然なのだが、全く電波が届いていない。

つまり、ここは完全に圏外だった。

「うわ、やっぱり圏外なんだ。」

それには、日向が答えた。

「そうなの。さっきSNSに到着投稿しようとしたら、全く圏外でびっくりした。まあ、ここは山奥だもんね。」

博が言った。

「これだけ山奥ならそうだろうな。じゃ、東吾のタイマー使わせてもらうよ。」と、東吾からスマホを受け取った。「じゃあ、カードを配るね。上から順に取って隣りに回してくれ。」

スマホの代わりにカードを手渡された東吾は、そのすべすべした表面に驚きながらも上から一枚取って隣りへ回した。浩介が、緊張気味にそれを受け取って隣りへと回して行く。

ソッとカードを確認すると、美しい絵と共に『村人』と書かれてあった。

おおよそ村人ではないほど豪華な絵だなあ。

東吾は、そう思った。

「じゃあ、カードを確認したら隣りに渡して回して行ってくれ。」

東吾は、浩介にカードを伏せたまま渡す。

浩介は、小刻みに震える手でそれを受け取り、隣りへと回した。

…何か引いたな。

東吾は、直感的にそう思った。

浩介は、本当に素直に態度が現れるタイプのようだ。

どう考えても人狼など向いていない性格のようだった。

博が、言った。

「では、役職の確認をします。全員、目を閉じてください。」

東吾は、内心の想いを顔に出さないように気を付けながら、目を閉じた。博の声が狼から順に呼んで、その度にトントンとホワイトボードに何かを書いているような音が微かに聴こえて来る。

東吾は、何も役職を持っていないので黙って下を向いているだけだ。

博正は、占い師に初日の白先を告げ、狐の位置を背徳者に告げ、そうして、やっと言った。

「…では、朝になりました。目を開けてください。」

言われて、目を開くと目を閉じる前と変わらない様子の皆が見えた。

皆、一様に緊張したような空気を漂わせていて、誰が人狼なのか、全く分からない。

隣りの浩介が、何を引いただろう事だけは東吾には分かっていた。

博が続けた。

「では、初日の議論時間は10分間です。どうぞ。」

全員が、皆の顔をじーっと見回し始めた。

ここは、誰かがイニシアティブをとらないと人数多いし大変だなあと思った東吾は、言った。

「共有者には出て欲しい。人数が多いからまとめ役が必要だと思うんだけど。」

すると、久隆が手を上げた。

「あ、オレ共有。」

すると、その隣りの隣りの敏弘も手を上げていた。

「あ…」

一人だけ出るつもりが、二人とも出てしまったような気まずい感じが流れた。

久隆は、ため息をついた。

「ごめん、そう、相方はそっちの…ええっと、敏弘だっけ?だよ。両方出ちゃったな。まあ各白二つ出たから良かったとしよう。じゃあ、オレがお勧めなのは占い師と霊媒師を出すことかな。狩人と猫又には潜伏してもらって。みんなはどう思う?」

澄香が、頷いた。

「私は役職は出てくれた方が分かりやすいから出て欲しいな。」

すんなり、二人が手を上げた。

「はい、オレ占い師。妃織さん白。」

歩が言う。日向も、手を上げていて言った。

「私が占い師。白先は乙矢さん。」

すると、遅れて澄香がドヤ顔で言った。

「やった!人外が二人出て来たわ。私が占い師、白先は哲弥。」

占い師が三人だ。

思えば人外が多いこの村だと、こうなるのは予想できた。

久隆が、ため息をついた。

「三人か。じゃあ、霊媒師は?」

皆が顔を見合わせる。

すると、おずおずと隣りの浩介が手を上げた。

「はい。もういっそ潜伏かと思ったんだけど…共有が言うなら出るよ。」

一人か。

東吾は、霊媒師を引いて緊張していたのかと浩介をまじまじと見た。霊媒師は、そこまで緊張する役職だろうか?

だが、対抗が出たらとか考えたら、浩介からしたら大事だったのだろう。

久隆が頷いた。

「よし、じゃあ確定だな。霊媒師だけでも確定してくれたら良かったよ。狩人は、共有か霊媒師のどっちかを守ってくれたらいいもんな。」

「というか、じゃあここからどうする?」章夫が言う。「占い師を吊ったら三分の二の確率で人外だよ?吊っとく?」

久隆は、頷いた。

「そうだよな。真占い師を吊るのが怖いとか言ってられないよなあ。人外が多いんだし、もう吊り切る勢いで吊ってくか。この際、狐も吊る方向で。」

東吾は、口を挟んだ。

「占い師が三分の二人外なのは分かるんだが、狐はやっぱり面倒だし、一日だけ全員にチャンスを与えたらどうだろう。つまり、狐探しの占い指定をさせて、呪殺を出させるんだ。そうでなくても占い結果で真贋も付きやすくなるし。今日はグレーを吊って、その他を占い指定させて進めよう。それで、どう?」

だが、歩が言った。

「占いに狐か背徳者が出てるのが普通だと思うんだ。背徳者が出て居たら囲ってるだろうしね。だから、グレーを占って呪殺が出るとは思えないんだよなあ。黒を見つけろって言われたら頑張れるんだけどな。」

敏弘が言った。

「じゃあ確白作る形でやる?占い師は最後に決め打ちする形にして。噛まれるかもしれないしね。噛まれたら確実に残りを吊る方向でさ。今日はお互いの白先を占い指定しよう。」

澄香が言う。

「でも、それじゃあ噛み合わせされるかもしれないわよ。一指定は危ないし、だったら白先か、その白を出した占い師かどちらかを占う事にさせて指定したらどう?どっちが狐かって考えてもらって。分かりやすいでしょ?」

久隆が、顔をしかめた。

「まあ、確白三つ作るのに二日かけるってのが良いのか悪いのかって感じだがなあ。何しろ明日も占ってないとこ指定するわけだろ?」

日向が言った。

「そんなの無駄だわ!狼は四人もいるのに、最後には運ゲーになっちゃう。それで狐が処理されても、真占い師が噛まれて狼が分からなくなるのよ?グレーから指定してまずはグレーに色を付けて行くべきだと思うわ。」

東吾が、眉を寄せた。

「…確かにそうかも知れないけど…だったら、もう白先とか関係なく占い師達に決めさせて指定させたら?ここが狐なんじゃないかって所。占い師は確かに噛まれる可能性があるし、相互占いも今日はまだ早いと思うから。残してグレーを吊ろう。」

久隆は、頷いた。

「そうしよう。残り1分で占い師達に占い指定先を宣言してもらう。一人につき二人な。じゃあ、グレーが話してくれ。急げよ、もう後5分だぞ。」

見ると、博が5分、5分と手で合図している。

東吾は、慌てて言った。

「オレは村のために発言しようと頑張ってると思ってもらいたいな。しゃべってない所に話を聞こう。」

すると、哲弥が言った。

「じゃあオレが話そうか。後五分で全員の話なんて聞くのは無理だから、積極的に話をしていた東吾は今日は吊り対象じゃないと思うんだ。初動で怪しいと思ったのは浩介だったんだけど、役職だったからだと分かったから、だったら次は梓乃さんかな。じーっと黙っててなんだかびくびくしてるみたいに見える。」

浩介の事に気付いてたのはオレだけじゃなかったのか。

東吾は、それを聞いて思っていた。あれだけ分かりやすかったら、鋭いヤツなら見ているのかもしれない。

一方、名指しされてビクと肩を震わせた梓乃は、助けを求めるような視線を章夫に送った。

だが、章夫は黙って興味深そうに見ているだけだ。

梓乃は、仕方なく口を開いた。

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