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獣の棲む森にて  作者:
TRPG
58/66

情報共有ターン・四回目

「識さん!佐織!」

皆が駆け付けると、9の部屋の前で乙矢が扉に触れて叫んでいる。

ジョアンが、乙矢に駆け寄って言った。

「どうしたのだ?!」

乙矢は、涙目になりながら言った。

「識さんが…!佐織が中でモタモタしてるのに、扉が閉まって来たから飛び込んで行ってしまって…!」

「ええ?!」

澄香が、真っ青な顔をした。

何しろ、今ジョアンと一緒に邪神に襲われるのだろうということを、確認して来たばかりなのだ。

本の情報のほとんどは、識の頭の中にある。

皆が、愕然と扉を見つめていると、その皆の目の前で、いきなりに扉にまるで消しゴムで消したかのように、ぽっかりと空間の穴が開いて、中から識が、佐織の手を引っ張って転がり出て来た。

佐織は、ガクガクと震えていて、識と一緒にどう、と廊下へと倒れた。

「佐織!」

佐織は、まだ震えている。

その後ろでは、開いた穴はまた、中央に収束するように消えてただの扉に戻った。

ジョアンが、寄って来て佐織を見た。

「…精神分析を持っているから。」ジョアンは、言った。「多分、一時的発狂状態だ。キーパーが処理するだろう。私がやる。」

澄香は、頷いて佐織の肩を抱いて、居間の方へといざなって行く。

識は、ふうとため息をついて、立ち上がった。

章夫が、それに寄って行ってぎょっとした…識の右手が、血だらけだったのだ。

「え、識さん?!怪我したの?!」

識は、ああ、とその手を振った。

「いや、扉が閉まった後、扉が消失して。咄嗟にエルダーサインを書こうと思ったが、血ぐらいしか使える物が無くてな。慌てて血を握り締めて、エルダーサインを扉があった辺りに書いた。そしたら、その部分が抜け落ちたので、その隙に佐織さんを引っ張って出て来たのだ。危なかった…回りが、何やらおかしな動きをしていて。隣りの部屋とも、空間が繋がったような感じに見えた。つまりは、あの部屋と他の部屋が、廊下を介さなくても行き来できるような状態だったというべきか。どこかの部屋に、廊下の突き当りにあった扉のような物が見えたな。よく見てはいない…必死だったからな。しかし、エルダーサインも長くはもたないようだ。」

識は、閉じた穴があった場所を振り返りながら言った。

マシューは、言った。

『そういえば、さっきライアンと澄香が話していなかったか。章夫、聞いた事を話しておいた方がいい。』

章夫は、頷いた。

『識さん、実はジョアンと澄香さんが、3の部屋であれと同じ扉を見つけたらしくて。それが、石板が嵌まっていて完成しているものだったそうで、血塗れで多分、そこから邪神が出て来てるんじゃないかって。出て来るのは、気配を感じて出て来るんじゃって…今みたいに。しばらくしたら、諦めて帰る感じで。だから、あの廊下の突き当りの扉を開いても、帰れないんじゃないかって僕、思うんだけど。』

識は、険しい顔で頷いた。

『やっぱりそうか。何か違うような気がしたのだ。とはいえ、恐らくだが、私が読んだ本によると、出て来た邪神は退散させなければならないらしい。この特殊な空間は、恐らくはサミュエルか他の誰かが呼んだ邪神が作っている場所で、それを退散させることで元の空間に戻れるのではないかということだ。然る後に門の呪文で道を作って、元の場所へ帰るという事になる。だが…どうも、ニャルラトホテプではないような気がするのだ。』

章夫は、眉を上げた。

『え、どうして?』

識は、頷いた。

『別にあの邪神は、門とか扉とか使わずに、出て来ようと思ったらどこにでも出て来るのだ。それに、あんな風に人を食い散らかしたりはしない。ただ殺したりするだけでは面白くないと考えるのが、ニャルラトホテプなのだ。ニャルラトホテプがおもしろいと感じる反応をする人は、生かして帰すことまでするらしい。唯一、話ができる邪神であって、気まぐれでも対話で説得することもできるかもしれない。ただ餌として人を攫うなど、そんな下等な事はしないのだ。』

言われてみたらそうだ。

章夫が考え込むと、マシューが言った。

『ならば、君はいったいどの邪神だと思うのだ?』

識は、ため息をついた。

『まだ分かりません。何か情報はありましたか。』

マシューは、頷いて歩き出しながら、言った。

『とにかく、皆と合流しよう。手を洗いたいのではないか?トイレだと言えば、時間も止まる。一度食堂へ行って来るといい。』

言われて、識は頷いて、博に呼び掛けると、時間を止めて食堂へと向かった。


佐織にはジョアンが精神分析を成功させ、少し落ち着いていた。

博からの案内で、全員のSAN値は今、識64、乙矢49、章夫53、澄香50、佐織45、ライアン・カーチス53と知った。

佐織のSAN値減少が半端ないが、ジョアンからの精神分析で回復してこれだ。

本来は、狂気に陥るのは40以下ということなので、閉じ込められて一気にそこまで減っていたのだろうと思われた。

再び動き出した時間の中で、震動を感じながら識は言った。

『情報をくれないか。邪神の特定を急がねばならない。もう時間がない。何を見つけたのだ。』

乙矢が、答えた。

「7の部屋で見つけたのは鍵のかかった引き出しだった。その鍵は恐らくサミュエルさんが持っているのだろうと思って、9の部屋へ行った。奥にもう一人誰かが死んでいて、その人が持っていた小さな手帳に鍵が挟まっていた。恐らくこれが、あの引き出しの鍵だと思う。次の探索で開いて確認してくる。」と、手帳を出した。「これがその手帳だ。」

ジョアンが、その表紙を見て、言った。

『イアン!』と、その手帳を手に取った。『イアンの手帳だ!ということは、その死体はイアンか?』

乙矢は、顔をしかめた。

「分からないが、恐らくは。」

ジョアンは、手帳を開いた。

『…闇に棲むもの、ありえざるものと言われる神が、肉を求めている。いや、恐らくは肉ではなくその命が絶たれる瞬間の絶望を欲しているのかもしれない。誰があんなものを使役できると考えたのだ。召喚しても退散させることができなければ意味はないではないか。永遠にここに囚われるのか…まるで楽しむように、食料が尽きたと思うと現れて、私は飢え死ぬこともできない。いっそ彼の神の贄となった方が良いのだろうか。』そこまで読み上げて、顔を上げた。『やはり退散と書いてありますね。』

識は、頷いて言った。

『ならばそれはニョグタという邪神だ。』と、床に散乱している本を拾った。『ここにある本に説明があった。ニョグタは闇に棲むもの、ありえざるものと称される。ニャルラトホテプとも関係がある。ならばそれだ、それの退散呪文は分かる。だが…輪頭十字とティクオン霊液というものが要るぞ。輪頭十字は最悪書けば良いが、ティクオン霊液などあるのか。』

それには、章夫が手を上げた。

『はいはい!2の部屋で見つけたよ!』と、澄香と二人で集めたあの、派手な装飾の鉄の瓶を床に並べた。『ええっと、なんか本物か分からないけど、いろいろ書いてあったんだよね。ほら、ラベルがついてて、この大きいのは黄金の蜂蜜酒、こっちのは…』

識が、眉を寄せた。

『他は良いからティクオン霊液はどれだ?』

章夫は、少しムッとしたようだったが、細かい細工のついた金属の瓶を持ち上げた。

『これ。ティクオン霊液ってラベルついてるの。』

識は、それを手に取った。

『ならばこれで揃った。問題は、間に合うかどうかだ…また誰かどこかの部屋で20分過ごすわけにはいかないだろう。脱出ターンは5分。やはり正面の扉を開いて、退散呪文を唱え、その間に後ろで脱出用の門を誰かが構築しなければならない。私一人では荷が重い。やるしかないぞ。』

澄香が、言った。

「ここがどこなのかがまだ分かっていないでしょう?門を作るにも開く場所の指定が難しいわ。一番この空間に近い場所にしないと、命の力が足りなくなるのよ。」

『多分エジンバラなんだと思うんだけど。』章夫が言う。『ほら、居間で見つけた請求書の宛先。もうこの際エジンバラでもいいじゃないか、人が住む空間にさえ戻れたらいいんだから。』

これまで集めた情報があるべき場所へと収まって行く。

ジョアンは、黙っているマシューを見て言った。

『マシューは?どう思う?』

マシューはフッと微笑んで、答えた。

『私は君たちの意見に従うつもりだ。そう決まっているからな。』

NPCだもんなあ。

章夫も皆も、ふとそう思った。

震動が収まって来る。

乙矢が、急いで言った。

「じゃあ、次の探索は何をしたらいい?もちろん引き出しの中は確かめて来るが、まだ4の部屋が残っているだろう。」

識が答えた。

『ペンキのような物があればいいのだが、無ければ何でもいいから床に魔方陣を描けるような物を探して来てくれ。4の部屋は、マシューとジョアンに調べて来てもらおう。私は3の部屋で石板のどれが正しいものなのか、実際に稼働している扉の石板と見比べて調べて来る。』

『僕も一緒に行くよ。』と、章夫が、乙矢を見た。『君は2の部屋でペンキ探して来て。いっぱいいろんな物があったから、多分探せばあると思うんだ。』

澄香は、言った。

「じゃあ、私は乙矢さんと一緒に行くわ。」と、佐織を見た。「佐織はここで待ってて。SAN値がヤバいでしょう?」

佐織は、まだ青い顔をしながら頷く。

「なんだか手首がチクッてして、一気に混乱しちゃったの。精神分析ロールをしてもらったらまた腕時計の辺りがチクッてして、収まったんだけど…。」

もしかして、SAN値がヤバくなったら薬品で狂気状態になるのか。

皆は思ったが、何も言わなかった。

『では、行くぞ。最後の探索ターンだ、取りこぼしの無いようにな。』

そうして、皆はそれぞれの役割を果たすために歩いて行った。

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