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獣の棲む森にて  作者:
TRPG
57/66

探索ターン・四回目2、3の部屋

挿絵(By みてみん)

マシューと章夫は、また一緒に行動だった。

章夫としては、段々に慣れて来たので良かったが、しかしマシューは扱いにくそうな人だった。

それがハンドアウトでそうなのでそうなのか、それともこのマシューになっている人物自身がそうなのかは全く分からなかったが、しかし恐らくは、これがこの人物そのものなのではないかと章夫は思い始めていた。

そんなわけで戸惑うことも多い章夫だったが、とりあえず何があっても動じないマシューと一緒なら、こんな状況は有難かった。

何しろ、ズンズンと何物にも動じず先へ進むので、章夫が無理をする必要がない。

今も、特に構えもしないで、さっさと自分達に振り分けられた2の部屋の扉を開いて、さっさと中へと懐中電灯の明かりを向け、中を見ていた。

その様は、普通に停電中に自分の部屋へ帰って来た人のような様子だった。

章夫が遅れたら機嫌を損ねるかも、と急いでそれを追って中へと入ると、中はあちこちに荷物が積み上げられてある、物置部屋のような場所だった。

…また物が多いなあ。

章夫は、顔をしかめた。

物が無さ過ぎても何も無いので困るのだが、多過ぎてもその中から有益なものを探し出すのに時間が掛かる。

マシューも同じように思ったのか、ため息をついた。

『…随分と古い物ばかりが押し込まれてある部屋のようだが…何かあるのだろうか。』

章夫は言った。

『多分、これだけあったらどこかにあるかと思うんですけど。でも、確かにみんな埃を被っていて古そうですよね。誰かが触れた様子は無さそうです。』

マシューは頷いて、足を進めた。

『そもそもが私は思うのだが、恐らくここへ最初に来たのはイアンであり、それが半年前のはず。そしてサミュエルがそのひと月後、私が一週間前だ。あれらがここから脱出しようとあちこち探したのは分かっているし、ここに触れた後がないという事は、ここには神を呼び出すために必要な物は無いという事になる。サミュエルが、少なくとも呼び出すことに成功して居そうだしな。』

章夫は、うんうんと頷いた。

『そうですね。じゃあここはダミーの部屋で何もないでしょうか。』

マシューは、眉を寄せて章夫を見た。

『どうしてそうなるのだ。イアンとサミュエル、それに私がここを調べておらず、脱出に成功していないという事は、ここに必要な何かがあるからなのではないか。あれらがそれを見つけられていないからこそ、脱出できなかったとも考えられるだろう。気を入れて探そう。』と、入って右半分を示した。『君はそちらを。私はこちらを調べるから。何でもいいからそれらしい物があったら持ち帰るのだ。それが役に立つかどうかは、皆で判断する。』

章夫はもう言い返す気力もなくて、頷いた。

『分かりました。』

二人は、特に埃っぽい以外は何も脅威も何もない場所を、手分けして探し始めた。

章夫が探した場所には、棚があって中には冊子のような本と、何やらおぞましい形をしたフィギアが立ち並んでいた。

見た所、それはクトゥルフ神話の神々だ。

側にある冊子も、思った通りその神々の図と、説明書きがあって、ちょっとしたファンブックのようだった。

…こんなもの要らないとは思うけどなあ。

章夫は思いながら、一応手に取って次の棚へと移った。

振り返ると、向こうに見える懐中電灯の明かりの中で、マシューは薬品のような瓶が立ち並ぶのを見ているのが見えた。

…薬品?

章夫は、そっちが気になったのだが、何しろこっちを任されているので、後で叱られるのが目に見えている。

なので、必死にこちらの棚の中を、何か無いかと目を凝らして見ていた。


澄香は、ジョアンと共に3の部屋へと向かった。

皆が言われた通りにきちんとあちこちへ散って行く中、自分だけ怖いとか言えないので、澄香はおとなしくジョアンについて、3の部屋の前へと立った。

それこそ、普通に何の構えもなくその扉を開くジョアンに、澄香は顔をしかめたが、それよりも、中からムワッと流れて来た臭気に、思わず吐き気が込み上げて来て、口を押えた。

「う…!!」

ここもなの?

澄香は、必死に吐き気と戦って、服の袖で口と鼻を押えた。

ジョアンは、同じように口と鼻を押えていたが、躊躇う様子もなく部屋の中へと足を進めて行く。

澄香自身も、段々にこういったものに慣れて来ていて、今回の臭気に関しても、原因が分かっているので特に大きな動揺もなかった。

ただ、生理的に受け付けない類の臭いなので、どうしても吐き気と戦わなければならなかった。

ジョアンが、部屋へと入って懐中電灯を振って中を見回しながら、言った。

「…なんてことだ、ここにも扉がある。」

え、と澄香が顔を上げると、確かに開いた扉とは反対側に、廊下の突き当りで見たのと全く同じに見える、大きな扉が一つ、立っていた。

そしてそれは、血まみれになった状態で、懐中電灯の明かりにてらてらと赤黒く光っていた。

「…こっちが正解じゃあないですよね?」

澄香が言うと、ジョアンは床の上に散乱する腕や足をものともせずにズンズンと歩いて行き、その扉をじっと見つめた。

「…違うだろう。この扉には、石板が嵌まっている。きちんと二枚。つまり、何かの条件が揃えば開くのだろうな。」と、床の上を見た。「それに、ここは9の部屋よりも酷い状態だ。あちらは天井や床に死体はあったものの、こんな風に食い散らかされた様子ではなかった。もしかしたら、あちらは備蓄に使っているという事か?」

澄香は、それを聞いてゾッとした。

つまり、何かの神が獲物を殺して、あの部屋に吊るして備蓄しているということなのか。

この扉は、その神が出て来て獲物を食らうための出入り口だと…?

「ど、どうしましょう。」澄香は言う。「それって…もしかして、ですけど、廊下とかは多分気が付かないのでしょうけど、部屋に入ってしばらくしたら、獲物が来たって気取って出て来ているのが、あの震動とかじゃないですよね?で、しばらくしたら、居ないから諦めて戻って行くっていう。だとしたら、最初に出て来るのって、ここってことなんじゃ…。」

ジョアンは、それを聞いて確かにあり得ると思ったのか、眉を寄せた。そして、その扉についている血まみれの石板を、引き剥がそうと手を掛けた。

だが、ガッツリとくっついているようで、全く動く様子はなかった。

「…駄目だ、取れない。」と、踵を返した。「ここから出よう。君が言った通りだとしたら、真っ先に出て来るのがここだと言うことだから、危険だ。皆に話をしよう。さあ、出よう。」

澄香は頷いて、ジョアンに押されてそこを出て、扉を閉めた。

それを確認したが、この中に邪神が出て来るのかと思うと、全く落ち着かなかった。


ジョアンは、3の部屋から出てすぐに、隣りの2の部屋へと足を向けた。

そこは、確か章夫とマシューが調べているはずの部屋だ。

扉は開いたままだったので、そこへと入って行くと、章夫がそれに気付いてこちらを見た。

『あれ。』と、こちらへ来た。『どうしたの?げ、なんか臭う。』

ジョアンが、苦笑した。

『また死体の部屋だったからな。』と、顔をしかめる澄香を見て、慌てて英語から日本語に変えた。「ああ、章夫がどうしたんだと聞いていて。」

澄香は、言った。

「あの、隣りに完成した扉があったの。」章夫が目を丸くするのに、澄香は続けた。「あの、廊下の突き当りのと同じヤツが。きちんと石板がついていて、回りは血まみれだった。多分、あそこから邪神が出て来るんじゃないかって、タイムリミットの前に急いで出て来たの。」

章夫は、驚いた顔をした。

「え、ほんとに?」

マシューが、こちらを振り返った。

『何を話しているのだ。そちらが終わったのなら、こちらを手伝ってくれないか。多くのわけの分からない薬品の瓶が並んでいるのだ。』

章夫は、慌ててそちらへ足を向けた。

『あ、すみません。すぐに。』

ジョアンも、弾かれたようにマシューの方へと歩いて行った。

どうも、職場の上司に叱られたような気持ちになってしまうのは、恐らくジョアンも一緒だろうと章夫は思っていた。

その戸棚へと近付くと、それは大小様々な瓶が並んでいて、確かにこれは、確認するだけでもかなりの時間が掛かりそうなほどの数がある。

ジョアンとマシューが同じ棚を調べていたので、章夫は端の棚へと歩み寄って、一人そちらの棚を探すことにした。

澄香が、章夫に寄って来て言った。

「一緒に探せって言ってたの?」

章夫は、首を振った。

「うん、手伝えって。まあこの数だから、分かるよね。」

澄香は苦笑して、棚を見た。

「この数じゃあ多過ぎるなあ。でもさ、多分大切なヤツって奥の方に片付けない?」と、奥に懐中電灯を当てた。「ほら、なんか金属の装飾がある大きめの瓶が幾つもあるよ?あの辺りを引っ張り出してみようよ。」

章夫は頷いて、言われるままにそれらを腕を伸ばして引っ張り出すと、次々に澄香に渡した。

すると、ビリビリと壁が震え始めた。

「わ!」章夫は、言った。「タイムリミットだ!出よう!」

澄香は、慌てて渡された瓶を抱えて駆け出した。

「待って、出るわよ!」

と、廊下へと駆け出して行くと、目の前を識がすごい勢いで走って行った。

「…なんだ?!」

ジョアンが、同じようにマシューと一緒に出て来て、言った。

「誰かまたトラップにでもかかったのか。」

『7の部屋が開いたまま、誰も居ない。』マシューが言った。『乙矢と佐織という子達が、あちらの部屋へ行っているのではないか?』

そういえば、乙矢の叫ぶような声が聴こえている。

「行かないと!」

澄香が、脱兎のように飛び出した。

それにつられるように、全員が声の方向へと走り出す。

あちこちで、勝手に扉が閉じる音が聴こえて来ていた。

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