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獣の棲む森にて  作者:
TRPG
55/66

情報共有ターン・三回目

居間の前に戻ると、乙矢と澄香、佐織が床に座り込んで待っていた。

居間からの灯りが漏れているので、そこだけ明るい。

マシューと章夫が戻って来る後ろから、識とジョアンも戻って来ているのが見えた。

『見つけた。7の鍵だ。』マシューは血まみれの金属を見せた。『サミュエルの右手に握られていた。その下の床に落ちていた紙には、数字がたくさん書かれてある紙が落ちていたので、恐らくサミュエルは儀式で神を呼び出したから死んだのではなく、君達が引っ掛かった仕掛けにやられて死んだようだな。』

電子辞書の翻訳を聞いて、乙矢が言った。

「え、儀式って…?」

章夫が、説明した。

「1の部屋には魔方陣と、この紙と石板があってね。」と、そこで拾った物を皆に見せた。「サミュエルさんは、あの部屋の魔方陣を見付けて、ここを抜け出すにはここへ自分を閉じ込めた神を呼び出すしかないって思って、書庫で同じ魔方陣を探して召喚したみたいなんだ。だからそれで死んだって思ってたんだけど…マシューさんが9の部屋でこれを見付けたから。」

「また石板か。」識が言った。「もしかしたら、ダミーの石板もあるのではないか?その中から、正解の石板を嵌め込まないと、恐らく扉は開かないのだ。」

章夫が言う。

「そっちは何か見つけた?」

ジョアンが、首を振った。

「とにかく本が多すぎて、何とかめぼしい本を選んで外へ持ち出すのが精一杯だった。後は、この中から正しい情報を探すしかない。」

床に積み上げられた本の中には、英語だけではなく様々な言語の背表紙が目についた。

マシューが言った。

『今の私は英語とドイツ語しか読むことが許されないので、手伝うことはあまりできないぞ。できるか。』

今の?

皆が思ったが、識は頷いた。

『はい。とりあえずそれらしい本は当たりを付けてありますので。英語とドイツ語の本だけお願いできますか。』

マシューは、頷く。

『いいだろう。どれを読めばいい?』

章夫が、言った。

『待ってください、手を洗わないと。』

マシューは、うるさそうに手袋を外して放り投げた。

『何のための手袋だ。問題ない。気になるのなら、鍵だけ洗って来たらどうだ。時間が惜しい。』

章夫は、放り出された鍵を見て、顔をしかめた。だからそれを握れって言うのかよ。

乙矢が、言った。

「オレは役に立たないから、洗って来るよ。章夫は一緒に読めばいいよ。英語なら分かるだろ?時間ないし。」

鍵を拾おうとする乙矢に、澄香がポケットからティッシュを出して渡した。

「これで包んだら?」

乙矢は、頷く。

「ありがとう。」と、そのティッシュで鍵を掴んだ。「さ、行こう。」

頷いた澄香と佐織は、乙矢について食堂へと入って行く。

章夫はそれを見送って、仕方なく床にある、英語の本を手にして開いたのだった。


乙矢と澄香と佐織が、鍵を洗いに行って、ついでにトイレも済ませて戻って来ると、どういうわけか読書組が恨めし気にこちらを見て座っていた。

何事かと思ったら、どうやらトイレの間は時間が止められてしまい、読書も止められていたということらしい。

慌てて戻って来て、博にもう大丈夫ですと声を掛け、タイマーが動き出して皆、読書を続けることができた。

思ってもいないところで迷惑をかけてしまって、仕方なく傍に落ちていた本を手に取って中を開くと、完全に英語だった。

「…分からん。」と、上の方を読んでみた。『この書には、あらゆる場所に門を創造するための呪文とその方法、目的がまとめられている。』

「え?」

佐織が、電子辞書を見た。

電子辞書は、乙矢が発声した文章を聞き取ってきちんと日本語に変換したのだ。

「もしかして、この子ってめっちゃ優秀なんじゃ!」澄香が、電子辞書を見て言った。「そうよ、読むことはできるじゃない、理解はできないけど!拙くても聞き取って訳してくれるんだわ!」

乙矢もその事実に気付かなかったのが驚きだったが、やっと役に立てると本を持ち上げた。

「よし!じゃあやるぞ。」と、本を見た。『門には種類があって、扉の形、ただのゲートのようなもの、支柱が立ってるだけのもの、ただの穴、そして、形があるとは限らない。形がある物、太古の先人たちが生み出した門は、ほとんどが神の世界へ通じる門であり、神との交流のために作られたものであると考えられている。これとは別に、別の場所へと向かうための門は、己の命の力を使って開くため、残る事は無く、使いたい時には自ら作り出すしかない。その際、特にこういった建造物は必要なく、ただ空間のどこかに向かい、以下の魔法陣を地上に描いて、呪文を唱える事で成すことができる。ただ、著しく命の力を失う事を念頭に置いて行わねばならない。それによって、命を落とすこともあるということだからだ。よって、できるだけ多人数で門を創造することを推奨する。』

最初、聞き取りにくい英語の棒読みに眉をひそめた識、マシュー、ジョアン、章夫だったが、そこまで乙矢が必死に読んで顔を上げると、全員がこちらを見て固まっていた。

「え?」乙矢は、変な事を言ったかとおどおどした。「ええっと、ごめん。うるさかったか?」

「違う。」識が、言った。「今の文言だ。門の形には扉もあると言ったな?そうして、そういったものは全て神の世界に通じると?」

乙矢は、顔をしかめた。

「そうだったか?英文を読むのに必死で訳すの聞いてなかったから。」

澄香が、頷いた。

「確かにそう言ってたわ!それから別の場所へと向かう門は、自分達の命の力を使ってどこにでも開けるそうよ。ただ、死ぬかもしれないほど力が要るから、多人数でやれって。」

識が、手を伸ばした。

「ちょっとその本を貸してくれ。」

乙矢は、頷いて識にそれを手渡した。

すると、そこで鳴動していた部屋の音が、シンと静まり返った。

「…情報共有ターンが終わった。」章夫が言った。「ここからまた20分だよ。どうする?」

識は、本へと視線を落としながら、首を振った。

「私はこれをもっと読んでおく。君達は、他の部屋の探索をしてくれないか。ただ…もしかしたら、全て徒労に終わるのかもしれないが。」

ジョアンが、言った。

「それは、今の門の創造のことですか?」

識は、頷く。

「そうだ。私達はあの扉を開けば帰れるのかと思っていたが、そうではない可能性がある。建造物の門は神の世界に向かって開いているのだろう。ならば、あの扉は帰るための扉ではない。普通ああして目の前にあったら、それを開こうとするものだが、そうではない可能性が出て来たのだ。」

章夫が、言った。

「え、じゃあその本があったら他の部屋を探索しなくてもいいんじゃないの?またさっきみたいな変な仕掛けとかあったら、危なすぎるじゃないか。このターンは、ここで情報収集待ちした方がいいんじゃない?」

識は、首を振った。

「まだ分からないのだ。この空間が何なのかを突き止めておかなければ、門の創造もできないかもしれないではないか。つまり、ここがどこかのかだ。」と、本を示した。「今少し読んだだけでも、ここから到着する場所までの距離で、命の力の減る度合いが決まるらしい。ここが近ければいいが、とんでもなく遠かったら大変な事になるのではないのか。闇雲に門を開けば良いという事ではないのだ。とにかく、情報だ。他の部屋の情報を探って来るんだ。」

ジョアンが言う。

「だったらジョン、こっちの本に空間の事が書いてありました。私は行って来ますので、読んでおいてください。」

識が頷くと、マシューが言った。

『待て。』皆が止まると、マシューは言った。『SAN値を聞いておいた方が良くないか?特に乙矢とそこの二人、それに章夫。』

言われてみたら、そうだった。

乙矢が、言った。

「キーパー、SAN値を教えてほしい。」

腕時計のタイマーが止まり、博の声が答えた。

『只今のSAN値、識66、乙矢54、章夫54、澄香52、佐織57、ライアン・カーチス54です。』

章夫が言った。

「マシューさんにはSAN値関係ないの?」

博は答えた。

『マシューは対象外です。他に何かありますか?』

章夫は、首を振った。

「いや、もういいです。」

めちゃくちゃ減っている。

全員がショックを受けたが、どうしようもない。

とにかく落ち着けるように、頑張るよりないのだ。

落ち着いているような識でも、このターンで1のSAN値を失っていた。

恐らくは、あのトラップの時に少し、動揺したのだろうと思われた。

『では、時間を進めます。』

ジョアンが、言った。

「時間がない。組み分けをする。これで四回目の探索となり、残りは一回。ここで全ての部屋を探索して、次のターンは脱出のための段取りをしたいと思うのだ。ジョンにはここで情報を収集してもらい、私達は三つに分かれて探索しよう。鍵は?」

乙矢が手を上げた。

「オレが。ここに持ってる。」

ジョアンは、頷いた。

「では7の部屋は君と佐織さん。」と、章夫を見た。「君は、マシューと2の部屋、私と澄香さんは3の部屋で。時間が余った組が4の部屋へ行くようにしよう。それで、全ての部屋を見た事になる。まだ何かが足りない時は、また探す必要があるかもしれないが、それは最後のターンでやろう。では、解散。」

言われて、皆一斉に分かれてそれぞれの扉の方へと向かった。

識は、一人残って珍しく必死の表情で、尋常ではないスピードで本を読み進めていた。

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